クリスマス特別番外編(前編)
初代・最強ババアのリオランと、その恩師・ビビアンの小話です。
※少し甘めの番外編になります。
【祝祭まであと1週間】
一面、雪景色の山の上。
白に覆われた木々の間を、黒い影が駆け抜けた。
林を抜けたその先に、明かりが見える。
限られた者しかたどり着けない、魔女の小屋だ。
小さな黒影は、器用に扉の取っ手を降ろし、隙間から中に滑り込んだ。
「イチ。雪まみれ……どうしたの?」
流れ込んできた冬の空気に、家の主が顔を上げた。
「キュッ!」
小さな影、もとい翼のないドラゴン・イチは、リオランの膝に飛び乗った。
体に積もった雪が主の服を濡らすこともお構いなく、イチはくわえた花を誇らしげに差し出した。
「これ……雪の花」
「あら、この子ったら。ドラゴンのくせに、いっちょ前に祝祭の贈り物?」
白い花を受け取るリオランとイチを見比べ、ビビアンは微笑ましそうに笑っている。
間もなく訪れる冬の祝祭。
どの店もしばらく休みになる。
そのため、ビビアンはわざわざ教え子の家の食糧事情を確認しにやってきた。
「もう! 冬の間、何も食べないつもり? 粉類ほとんど切らしてるじゃない。あら、調味料も……」
「完全、栄養バーなら、ある」
手元に買い出しメモをリストアップする恩師は、リオランの言葉にきっと顔をあげた。
「駄目よ! あれは人の食べ物じゃないわ。全く、肉よ、肉。お祭りなんだから、肉を食べなくちゃ」
放っておいたら、"完全栄養バー"だけで乗り切るつもりのリオランだ。
栄養は摂れるが虚無の味。
ビビアンはアレを食べ物とは認めていない。
「仕方ないわね。当日はあたくしが作るから、ちゃんと食べなさいよ」
びしり、と言われて小首を傾げるリオラン。
尚も散らかしっぱなしの部屋を整理したり、台所を掃除している恩師を眺める。
食に無頓着な自分はあまり気にしないのだが。
事あるごとにこの恩師は、こうして気を配ってくれるのだ。
ふと、リオランはテーブルの上のカップを見た。
先ほどビビアンが魔術で淹れてくれたココアが入ってる。
昨年の祝祭に、ビビアンに貰ったものだ。
その前は確かひざ掛け、その前の前はスキンケアセット。
冬の祝祭は、年に一度、最も日の短い日に。
過ぎし1年に感謝を告げて、来たる新年を祝う日だ。
大切な人にプレゼントを贈る日でもある。
貰ってばかりで返しただろうか。
そんな思いが、心を過った。
発光キノコに竜のウロコ、霞トカゲの毒腺に……
どれも貴重なものだが、思い返せば手元にあった素材ばかりだ。
ちらりと台所で料理中のビビアンを盗み見る。
きちんと食べなさい、と数日分のスープを作ってくれるらしい。
(むむ……)
今年は、きちんと用意しよう。
手の中の花を大事に握りしめて、そう決意するリオランだった。
【祝祭まであと5日】
術式用インク?
妖精銀よりもさらに希少な冥界白銀?
それとも、使い魔のハツカネズミに生まれた子鼠を1ダース?
だめだ。
あの恩師ならなんでも喜んでくれると思うが、それはちょっと違うと思う。
ちゃんと、彼が本当に喜ぶものにしてあげたい。
苦手な人混みの中で、リオランは頭を抱えていた。
きらびやかなマーケット。
大勢の人が祝祭の買い物を楽しんでいるが、いまいちピンとこないのだ。
途方に暮れかけたリオランの視界に、ふと気になるものが映った。
「お、嬢ちゃん。編み紐がお気に召したかね」
それは、細い糸を編んだ小さな輪。
木の板を並べただけの簡素な店に、色とりどりの網み紐が並べられていた。
どうやら腕につける装飾品のようだ。
「今人気の異国の腕輪だよ。身につけていると、願いが叶うのさ」
店主の言葉に、リオランの耳がピクリと動いた。
「願い……魔術?」
(ただ編んだだけの糸に……高度な術ね)
真剣な顔で顔を近づけるリオランに、店主は慌てて声をかけた。
「おやよく見たら、もしかして魔術士さん? いや、これは魔術なんて大層なもんじゃないよ」
いわゆる"願掛け"だと説明されて、少しがっかりするリオラン。
それでも、網み紐自体は綺麗だった。
「1つ、ください」
「あいよ、まいどあり!」
***
「あいつなら、何でも喜ぶと思うけどなぁ」
テーブルに突伏するリオランに、薬茶を運んできたのはチェレン――小さな薬舗の店主である。
「あり……がと」
渡された薬茶をすすった少女は、再び机の上に溶けてしまった。
すっかり人酔いしたリオランは、薬舗に避難してきたのだ。
ようやく見つけた網み紐も、お金がなくて買えなかったというではないか。
なんせ山に籠りきり、たまに素材や魔道具を買い取ってもらうものの、手持はほぼない現状だった。
「うーん、お姉さんが貸してあげてもいいけど」
潰れたままのリオランを、つんつん指でつつく店主。
チェレンは、この小さな引きこもり魔術士のことを気に入っていた。
「なんなら、リオラン。君自身にリボンをグルグル巻いて渡せば?」
だからそれは、なんとなしに出た冗談のつもりだったのだが。
はっと顔を上げたリオランは、「……それだ」と小さく呟いた。
「え、え? まじ?」
驚くチェレンを後に、
「お茶、ありがと」
そう言い残し、リオランはさっと店を出た。
その顔に、決意の表情を浮かべながら。
ぽかんと見送るチェレンだが。
「まあ、いっか。ビルトラウドの奴、驚くだろうな……」
少女が素敵な祝祭を過ごせますように、そう祈るチェレンだった。
後編に続きます。
※補足
ビビアンは本名・ビルトラウド。
緋色の長髪を三つ編みに、赤のタイトスカートが似合う、素敵なオシャレ男性です。
ひっそりと書き進めている番外編ですが、
読みに来てくださる方がいて、毎日感謝の気持ちでいっぱいです。
日頃の感謝をこめて、クリスマス番外編に挑戦してみました。
いつもありがとうございます。




