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黒いノートが地面に落ちる瞬間、夜神月は確信していた。
――これは神の与えたもうた、二度目の機会。
そして、俺はもう失敗しない。
ノートを拾い上げ、校舎の屋上に立った月は、遠くの街並みを見下ろしながら思考を巡らせる。
胸の内を満たすのは興奮と高揚感――しかし、その奥底に冷たい警戒心がひとつ芽生えていた。
「……だが、本当に俺だけなのか?」
考えてみれば不自然だ。死を越えて戻るなど、常識ではありえない。
もしこれが死神の戯れだとしたら。
もし「俺だけ」ではなく、「奴」も同じ条件で戻っているとしたら――。
夜神月の脳裏に、あの無機質な瞳をした男の姿が浮かぶ。
竜崎。L。
唯一、最後まで自分を追い詰め続けた宿敵。
「……ありえない話じゃないな」
月は自分の掌を握りしめる。
もしLも戻っているなら、奴はすぐに動き出す。
そして前回よりも迅速に、効率的に、俺の正体を暴こうとするだろう。
同じ記憶を持つLと正面から戦えば――勝率は五分五分かもしれない。
「ならば……」
月の口元がわずかに歪む。
「今度こそ、奴の動きを先回りし、完全に封じる」
最初の一手は、Lが「疑うよりも先に信じた」人物たちだ。
捜査本部。父・夜神総一郎。
そして……。
「……まずはMとN、メロとニア。あいつらも警戒すべきだな」
夕暮れの空を仰ぎ、月は深く息を吐いた。
――Lが戻っているのか、それとも妄想か。
答えはすぐに出るだろう。
「さあ来い、竜崎。今度こそ完全に勝ってみせる」
彼の瞳に、獲物を狩る獣のような光が宿っていた。