再誕
胸を押さえ、最後の息を吐き出した瞬間――夜神月は確かに死んだ。あの冷酷な死神リュークが、裏切りのように名前を書いたノートを閉じるのを、視界の端に見た。
そこで全ては終わるはずだった。いや、終わるはずだったのだ。
だが。
「……え?」
耳に飛び込んでくるのはチャイムの音。ざわつくクラスの声。目の前には、あまりにも見慣れた黒板。
机の上には開かれたノート――ただの大学ノートが置かれている。
夜神月は、呼吸を整えながら周囲を見渡した。
ここは……高校の教室?
窓から差し込む午後の日差し、そして隣の席ではいつもの友人が居眠りしている。
時計を見て、彼は愕然とした。
――あの日だ。デスノートを拾う直前の、あの日に戻っている。
「馬鹿な……俺は確かに……死んだはずだ」
脳裏に鮮明に浮かぶ、自分の最期。ニアとの対峙、そして無様に地面を這い、リュークに見下ろされながら心臓を掴まれたあの痛み。
それが夢などではないことを、月は骨の髄まで知っている。
――だとすれば。
これは「やり直し」なのか?
神が与えた、二度目の試練なのか?
それとも死神が仕組んだ、果てしない地獄の戯れなのか。
胸の奥に、熱がこみ上げる。
悔恨ではない。歓喜だ。
「……そうか。まだやり直せるというのなら――」
月の瞳がぎらつく。
前回の敗因は分かっている。自らの慢心。Lを倒したあとの驕り。そして、ニアという存在を甘く見たこと。
そのすべてを修正できるのなら、今度こそ完全な神となれる。
教室の窓の外、空から何かが落ちてくる気配がした。
視線を向けると、ゆっくりと地面へ降りていく黒いノート。
夜神月は微笑んだ。
「待っていたぞ……俺のノート」
そして、二度目の「世界の裁き」が始まろうとしていた――。