53.わたしのお母様(3)
さて、どうしようか。
質問していいことは5つ。……10こにすればよかったかな。でも、質問が無くなったらもう来てくれなくなっちゃうかもしれないし。
「よし、紙に書いていこう」
えっと、まず1つめの質問は『よっぽどのこと』が何か。
だって、それがなかったらお母様はずっとここにいてくれたんだよね?そうしたら………あれ、そうしたら母上やフェリックス達はどうなるの?
お母様が離婚したから母上が来てフェリックスとエリサが産まれて。お母様も離婚したから新しいお父様が出来てルーチェが産まれたんだよね。
でも離婚しなかったら、お母様からフェリックスが産まれるの?でもエリサは母上にそっくりだから無理だよね。それに母上はどうなるのかな。
「……どうしよう。ぜんぜん分かんないや」
でも、どっちにしても今から昔に戻るなんてできないもんね?
「じゃあ、どうしたらみんなで仲良くできるのか。2番目の質問はこれにしよう」
私には難しいけど、お母様なら分かるかも。
だから来てくれたのかもしれない!
「あとは~。あっ、母上の家はゴミ箱だけど、お母様の家は?
3つめの質問はこれにしよう。お祖父様とお祖母様に会えますか?」
あっという間に3つ決まっちゃった。あと2つしかないからどうしようかな。
「…………なんで結婚したのかな?」
大人になったらしないといけないの?
どうやって決めるんだろう。大好きだったらいいのかな。でも、大好きな子が自分を好きになってくれるか分からないよね。父上はお母様と母上、どっちも大好きなの?
……どっちもってなんかヤダしズルいよね。
よし、決めた。4つめの質問は、
「どうして父上と結婚したんですか」
あと、5つめはお母様のことを聞こう。
「お母様は……う~ん、好きな食べ物?ちょっとつまんないな。う~~~~、何かおもしろい質問はないかなぁ……あっ!魔法!」
こないだ読んだ魔法使いのお話が面白かったからそれにしよう。
「魔法使いがひとつだけ願いごとを叶えてくれます。お母様は何をお願いしますか、……よし、書けた!」
これで準備はばっちりだ。
「早く会いたいな」
◇◇◇
今日はお母様が来る日だ。それなのに。
「……なんで父上がいるの」
「アシュリーが来るのだろう?」
「父上に会いに来るんじゃないよ。わ・た・し・に会いに来るんです!」
「分かっている、元気な姿が見たいだけなんだ」
「別の日に見に行ってください」
もう邪魔!食事の時にお母様の話をしちゃったのが間違いだったんだ。
「あっち。あの柱の陰あたりで見るだけにして!」
だってよく分からないけど、たぶん父上のせいなのに。
「ウィリアム。どうしてそんなに冷たいんだ」
「……今日聞くからね。よっぽどのことが何なのか」
「よっぽどのこと?それは何の」
「…どうして貴方がいるのですか」
あ、母上も怒ってる。そうだよね?約束したのは私と母上だけなのに。
「ウィリアム、こんにちは」
「お母様!ごめんね、今出て行ってもらうから」
元気な姿を見ることができて、もう満足しただろうと言おうと思ったのに、
「………なんで泣いているんですか、父上」
「生きて……」
「はい?」
呆然としたままポロポロと涙を流す父上がちょっと怖い。
「旦那様、ウィリアムの前でなんて姿を見せているのです?」
「……すまない……本当に悪かった……」
うん、ちょっと怖いから謝るならまずは泣き止んでほしい。
「アシュリー様、ウィリアムをお願いしていいですか。ちょっと泣き止ませてきますわ」
「……ええ。お願い」
父上は母上に引っ張られながら部屋から連れて行かれてしまった。何だったんだろう。
「ごめんなさいね。伯爵……あなたのお父上は私が死んだと思っていたみたい」
「なんで?」
「ずっと会っていなかったからかしら」
お母様がクスクス笑ってる。よく分かんないけど笑ってるからいいか。
「あ!ちゃんと質問は考えました」
時間が足りなくなったら嫌だから、質問を書いた紙を慌ててお母様に渡した。
「ウィリアムは字が上手ね」
「ありがとうございます」
丁寧に書いてよかった。褒められるのはやっぱり嬉しい。
「質問の答えだけど、少し長くなってしまうと思うけど平気?」
「大丈夫です」
「分かったわ。聞いていて分からないことがあったら質問してね?」
「はい」
何だか凄くドキドキする。
「まず結婚ね。結婚は何故するのか。それは幸せになるためだと思うわ」
「…私は結婚していないけど幸せだよ?」
「ふふ、それはよかったわ。それなら伯爵とコーデリア様の結婚はちゃんと意味のあるものだったということでしょう。
二人は結婚して、あなた達を産み育て、幸せを与えられている。
そうして、あなた達の笑顔を見て二人も幸せを感じられる。そういうことよ」
私達が幸せなのは、父上と母上が結婚したから?
……違うかな。お母様が言っているのはそれだけじゃない気がする。
「結婚するだけじゃ駄目なんだよね?」
「そうね。二人で支え合いながら、幸せになるための努力をするの。
大人になると、皆が誰かのために頑張るようになるわ。
例えば、ウィリアムが今日の朝に食べたパンは、領地の人が小麦を作ってくれるから。それを美味しいパンにしてくれる料理人がいるから。運んでくれるメイドがいるから。
ね?パンだけでもたくさんの人が私達のために働いてくれているの。
そうしてたくさん頑張って家に帰った時、ひとりぼっちだと寂しいでしょう。家族の温もりが明日も頑張る為の力になる。
だから結婚してお互いを支え合って守り合うの。
そうして、その幸せな家庭を子ども達に繋いでいく。幸せの輪を繋いでいくのよ」
「…うん、父上と母上が結婚して頑張ってくれたから私達が幸せになれたのは分かったよ。
──じゃあ、その前に結婚したお母様は幸せじゃなかったの?」
だから離婚しちゃったんだよね?
だから私をおいて一人で出て行っちゃったんだよね?
「……ちゃんと幸せだったわ。でも、幸せだったから許せないこともあったの」
それから、お母様は今までのことを話してくれた。
それはお母様の、結婚してから今日までのお話だった。




