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アシュリーの願いごと  作者: ましろ


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49.再会(2)

コーデリア様は見た感じではお元気そうです。

肌つやも良く、以前はまるで人形のような綺麗さでしたが、今の彼女は母親になったからでしょうか。穏やかで、でも芯の強さが感じられる魅力的な女性へと成長されました。


「……あの、申し訳ございません。私がみっともなくも子ども達の前で泣いてしまって」

「え!?」

「え?そのことではなかったのですか?」


コーデリア様が子どもの前で泣くなんて!


「……伯爵に何をされたのです?」


許せない。女性を泣かせるなんて何様なの?ああ、マザコンの甘ったれだったわ。


「違うのです。その、何故涙が出たのかよく分からなくて」

「そっちの方がなお悪いわよ」


コーデリア様は少しご自分の感情を上手く感じ取れないのではないかしら。幼い頃からずっと抑圧された生活を送っていたから、諦観……いいえ、虚無感かしら。痛みすら無意味だと見ないふりをしている。そんな印象です。


「でも、子ども達が慰めてくれたのです。大丈夫だよって。僕達がいるから大丈夫、大丈夫って何度も。

ウィリアムったらアシュリー様と同じことを言って慰めてくれました。アシュリー様も初めてお会いした時に大丈夫だと慰めてくださったでしょう?

あの子は貴女にそっくりです。優しくて強くて温かい。だから私は本当にもう大丈夫ですわ」

「そうなの……」


離れて暮らしていてもそっくりだと言われるのはとても嬉しいことです。でもね?


「それはそれ。これはこれです。伯爵に何をされたのかはっきり仰って?」


それからコーデリア様は少し恥ずかしそうにしながら、訥々と話して下さいました。


「……なんてことなの、もう()げちゃえばいいのに!」

「アシュリー様?」

「許せません。いえ、許してはなりませんよ!」


私の名を呼びながらコーデリア様を抱いていた?なんと(おぞ)ましいの。なんと痛ましいのっ!

そんな相手に抱かれて、心も体も痛みを訴え続けていただなんて……


「……捨てちゃいましょう」

「何をですか?」

「伯爵ですわ」

「えっ!?」


そうです。ジェフに言ったら大笑いされましたけどね。思う存分やってやれとも言われました。


「私はコーデリア様に謝らなくてはいけないわ」

「そんな!私が一方的に悪かったのにどうして、」

「……私はウィリアムの幸せを願うあまり、やり過ぎてしまったの。

あの子が将来苦労しなくて済むようにと、商会も領地管理も使用人の采配も、メルやジェフの手を借りてかなり改善したわ。私やお義母様がいなくなっても伯爵一人で回していけるようになっていた。

家令や管理人達とも話し合いや契約の見直しをして、前当主に比べるとかなり仕事量が減ったはず。

更に貴女も頑張っちゃう方でしょう?結局はあの人だけ何となく楽をして、何となく幸せなままだった。

要するにお膳立てし過ぎたのよ」


彼は困難に直面しても、いつも誰かに助けられてきました。

それはお義母様であり、私であり、コーデリア様です。

そして気が付けば、家は裕福になり、美しい妻と可愛い子供達に囲まれているのだ。

苦労知らずのまま、また5年も過ごせてしまった。


「だから今度こそ、自分の力で這い上がってもらいましょう。彼のことは中継ぎだと思えばいいわ」

「……中継ぎ?」

「ええ。いずれウィリアムかフェリックスに爵位を譲るまでの中継ぎよ。

今は彼が多少愚かなことをしても困らない様になっているもの。

このまま妻と子供に見捨てられて終わるか。必死に這い上がるか。勝手にやらせておきましょう」

「……でも、子供達に悪影響を与えませんか」


そうね。私もずっとそう思っていた。

だから多少歪であろうとも、家族という形を保とうとアレコレと手を出していたわ。


「悪い見本もあっていいじゃない?」

「…わざと見せてしまうのですか」

「そう。大人がすべて正しいわけではない。上辺だけ美しくても、行いが正しくなければ幸せになれないし、悪いことをしたら、信頼を取り戻すのがどれほど大変なのか。そんな見本にしてしまえばいい。


大切に大切にと守ってばかりでは痛みを知ることも出来ないわ。


子供達はいつかは必ず本当の事を知ることになります。

それなら今すべき事は嘘で塗り固めるのではなく、子供達が真実を上手く受け止められるように、その痛みに打ち砕かれないように、少しずつ本当の事を教え、一緒に考えていくべきだと思ったの」


簡単なことではないわ。それでも、事実を隠し続けるなんて出来ないもの。

それならば、理想の両親であるより、良いところもある、でも失敗もする普通の人間だと分かってもらうことから始めるべきだ。


「……大丈夫でしょうか」

「伯爵も今の生活を失う恐怖はあるでしょうし、子供達もひとりぼっちじゃないわ。三人は仲良しなのでしょう?」

「だから避妊薬を下さらなかったの?」

「……それは本当にごめんなさい。一番謝らなくてはいけないことよね」


これは後から知ったジェフに叱られました。

貴方は神にでもなったつもりなのかと。


「一対一だと、どうしても対立しやすくなると思ったの」


前妻の子と後妻の子。二人が真実を知った時、どうなるか。それならもう一人いたら諍いを止められるのではと……あの頃の私は馬鹿みたいに考えてしまいました。


「三人は本当に仲良しなんです。だから謝らないで下さいませ」

「……子供達を大切に育ててくれてありがとう。本当に感謝しているわ。

贖罪なんかじゃない。演技なんかじゃない。貴女はとっても優しい、あの子達の母親よ」


謝罪より、伝えるべきなのは感謝の言葉だわ。


「……アシュリー様に褒められると嬉しいです。

本当は全然自信が無くて。だからいつも、アシュリー様ならこうするかな、アシュリー様ならこう言ってあげるかなって、いつも想像していたんです」

「もう~~っ!!」


コーデリア様を抱きしめたらすごくビックリした顔をして、その後にふにゃりと笑った顔がとても可愛いかった。


馬鹿な夫ね。きっとこんなにも可愛い顔を見たことなんか無いのでしょう。

様を見ろとはこういうことかもしれません。









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