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【書籍化決定】アシュリーの願いごと  作者: ましろ


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40/65

40.断罪

「おかえりなさいませ」

「ああ。コーデリアは?」


私は結局マクレガー氏を訪ねることはなかった。


「奥様は孤児院への慰問に向かわれました」


その言葉を聞いてホッとした。

もしかしたら、コーデリアはいなくなっているのではないかと不安だったのだ。


「お父様、おかえりなさい!」

「ただいま、ウィリアム。留守中変わったことはなかったかい?」


それは本当に心配していたというより、ただの挨拶程度に掛けた言葉だった。だが、


「ありました。お父様に大切なお話があります。お時間を頂けませんか?」


もともと年齢の割に大人びているとは思っていたが、こんなふうに話し掛けられるのは初めてのことだ。


「もちろんいいよ。着替える時間だけ貰ってもいいかい?」

「はい、では部屋でお待ちしております」


子供部屋で話すのか?話があるのはウィリアムだけではないのだろうか。


「分かった、また後で」


軽く汚れを洗い流し着替えを済ます。

子供達の話とは何だろうか。

何かおねだりとか?


そんなことを考えながら部屋に向かうと。


ぺちりっ!


ただいまの挨拶の為に屈んだ頬を、エリサが叩いたのだ。


「おとしゃま、めよ!えり、おこってりゅわ!」


……うん。それは分かる。

だけどどうして?


「ウィリアム、エリサが怒っているから呼んだのかい?」

「エリだけじゃなく僕だって怒ってます!」

「フェリックス?」

「お座り下さい、()()。私達三人は父上にとっても怒っているし、失望しているんです」


失望!?もうすぐ7歳になるウィリアムの言葉に愕然とした。語彙力凄いな……いや、そうではなく。


「それでウィリアム。皆は一体何を怒っているんだ?」

「だっておとしゃまわりゅい!」


エリサが私が悪いのだと指差した。


「エリ、人を指差すのはお行儀が悪いよ?」

「……ごめんなしゃい」

「うん、いい子だ」

「エリ、いいこよ!」


微笑ましい光景だけど、そろそろ教えて欲しい。


「お母様が泣いてた」

「……え?」


フェリックスの言葉に驚く。だってあのコーデリアが泣く?


「父上。母上は笑っていたんです。なのにポロポロと涙がこぼれて。どうしたのって聞いたら、あら?って言ってました。涙が出ていることに気付いていませんでした」

「マリアはお母様は少し疲れてるみたいだって。

でも疲れたら泣くの?そんなのおかしいよ」


マリア……コーデリア付きの侍女か。


「ヒソヒソ話を聞きました。父上が他の女性の所に向かったって。奥様は自業自得だけどお可哀想にって言っていました」

「何だって!?誰がそんなことをっ」


いや……そういう問題ではない。これは全部、今まで私が見て見ぬふりをしてきた結果じゃないか。


『貴方がこれまで知ろうとしてこなかったこと全てですが何か?』


あの時、コーデリアはそう言っていた。

それはアシュリーのことだけでなく、そうしたことすべてを指していたのか。


「父上は浮気しているのですか?」


ウィリアムの言葉は、まるで5年前に時を戻したかのように感じた。


あの時、なぜアシュリーを求めて家を出たんだ。

そんなことさえしなければ、こんなことにはならなかったのに!

……いや、違う。いつかは子供達も真実を知ったはずだ。

夫婦にそっくりな2番目と3番目の子供。では、1番目の子供は誰に似たのか。

気付くきっかけなどたくさんある。使用人の内緒話。貴族の間でだって知れ渡っているじゃないか。


……これが私の罪か。


今更やっと本当に理解した。

筋を通さず、言われるがままに楽な方に逃げた。

女性から得られる安堵と快楽、そして優越感。

そんなものに浸って、本当に私に寄り添おうとしてくれていたアシュリーを蔑ろにして失った。

それでもコーデリアは私のもとに残ってくれたのに、そんな彼女と向き合うことも守ることもせず、5年という歳月を無駄にした。

きっと、コーデリアは泣く事も出来なかったのに。

そしてまた私はアシュリーに逃げようとして、コーデリアと子供達を傷付けた。


私はなんて……


「……すまない。本当だな、悪いのは全部私だ」

「母上を助けてくれる?」

「うん。許してくれるかは分からないけど、たくさん謝るよ。ちゃんと大事にする」

「僕達ちゃ~んと見てるからね!」

「そうだな。今度母上を泣かせたら父上に何か罰を与えようよ」

「兄様、すごい!」


子供達は言いたい事を言って満足したようだ。

まだ、事の重さを知らないから。


いつか真実を知った時、彼等はどうなるのだろう。


……守らなくては。


アシュリーの願いだからじゃない。私の大切な家族なのだから。






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