34.語られた真実
「それで君はのこのこと俺の前に現れたわけだ」
目の前の男が私を嘲笑う。
マシュー・ルドマン。アシュリーの友人。
ずっとこの男が嫌いだった。
アシュリーと仲が良く、言葉に出さずとも分かり合える、そんな関係が妬ましく羨ましかった。
だが、嫉妬するのは私の方で、彼からこんなにも憎らしげな目を向けられたことは無かったのに。
「はい、身勝手なことを言っているのは分かっています」
「…ジェフリーさんから手紙を貰っていたからな。君が来るかもしれないことは知っていた」
マクレガー氏から連絡が?
「それはどういう…」
「別れた妻を忘れられず、アシュリーの願いも忘れてフラフラしている馬鹿がいるかもしれないから、もし来たら知りたいことを全部教えてやれってさ」
アシュリーの願い……。
ウィリアムの幸せ、あの子達に恥ずかしくない父親になること。忘れてなんかいない。
「……違う。ちゃんと気持ちに区切りを付けないといけないと思って」
「区切りならアシュリーが付けただろう。離婚以上にどんな区切りが必要なんだ」
だって私は離婚したくなかった。そもそも貴方がいなければ、アシュリーの不貞だって疑わなかった!
「お前はただ彼女に甘えたいのだろう?
優しく抱き締めてくれて、大変な仕事も熟してくれて。どんなお前でも困った顔で笑いながら口付けをくれる。
何よりも彼女は自分を一番に愛してくれていたから。
残念ながら、コーデリア夫人の一番はアシュリーであり子供達だものな。
だから、君は彼女を抱いていてもどこか満たされない。
本当にいつまでも身勝手で甘えたな子供だよ」
……一番に愛してほしいと望んで何が悪いんだ。
「なあ、コーデリア夫人のことに気が付いているか?」
「……何のことですか」
「性交痛だ」
「は?!性交だなんて突然何を言うんだ!」
「真剣な話だ。彼女は性交時に痛みを伴う。だから快感だって得難い。私は医師として相談を受けているよ」
痛みだって?
「そんな……、彼女はそんなことは一言も」
「理由は様々だな。ストレスでなることもあるし、一度痛みを感じてしまうと、つい力が入って体が固くなり、また痛みを感じての繰り返しの場合もある。
お前が話を聞かなくてはいけないのは、アシュリーのことではなく、コーデリア夫人の方なんじゃないのか」
だってコーデリアはいつも笑っていた。
抱いている時だって、大丈夫だと、頑張れていると、励ましてさえくれていたのに。
……あれはまさか、すべて自分への言葉だったのか?
「……早く戻れるように努力します」
そうだ。戻ったらコーデリアとちゃんと話すつもりだった。私だって分かってるんだ。
だから早く!
「お願いします、アシュリーのことを教えて下さい」
「…いいよ、話そう。お前がそう望むなら。
もともとすべては俺がアシュリーに本当の事を話したことから始まったんだ。
あの日、俺がアシュリーを呼び出した。
伯爵邸では話したくなかったから。
話した時の彼女は驚きと、でも、何処かで分かっていたかのような反応だった。
泣き叫ぶでもなく、諦めるのでもなく。
それでも何とか幸せになれるように。
いつものように穏やかな顔をしていたんだ」




