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アシュリーの願いごと  作者: ましろ


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32.姉の幸せな結婚

姉様が家を出たのは僕が12歳の頃だった。


「絶対に文官になるから応援してね」


ずっとそう言って頑張っていたのに、姉様は学園を辞めてお嫁さんになってしまう。

結婚は喜ばしいことのはずなのに、突然過ぎておめでとうと言ってあげられなかった。


優しかった姉様が突然いなくなって、我が家はぽっかりと穴が空いたみたいだった。


それでも、結婚式は楽しみだった。

姉様は美人で自慢の姉なのだ。きっとすごく美しいに違いない。

久し振りに会えるのが嬉しくて、長い馬車での旅なんか全く気にならなかった。


でも、姉様は想像していたようなウェディングドレスではなく、とてもシンプルな白のドレスで、隣に立つのは僕とあまり変わらない背丈の綺麗だけどどこか不機嫌そうな少年だった。

それはとても簡素で、釣り合いの取れないママゴトのような式だった。


それからは季節ごとに手紙が届くだけ。


「結婚したら実家に遊びにも来れないんだね」


そう文句を言う僕に、母様は少し困った顔をしながらも、「それだけ頼りにされるなんてありがたいことよ」と笑っていた。


僕も王都ではないが学校に通うようになり、交友関係も広がって、姉様の手紙ばかりを待つような子供ではなくなった。


でも、そんなある日、姉様に赤ちゃんが出来たと手紙が届いたのだ。


「姉様に似るといいな」

「あら。あちらに似たら美形よ!」

「アシュリーだって綺麗じゃないか」


そんな話で盛り上がった。


そしてそろそろだろうかと毎日ポストを覗くようになって暫くした頃、無事に子供が生まれたと、姉様からではなく、伯爵家から手紙が届いた。

名前はウィリアム。男の子だ。


「僕、叔父さんになっちゃったよ!」

「よかった、本当によかった」


その知らせに、家族全員で喜んだ。


「早く会いたいなぁ」

「産まれたばかりだから駄目よ。まずはお祝いの手紙を書きましょう。ああ、プレゼントが男の子には可愛すぎたかしら?」

「赤ちゃんは男でも女でも可愛いものだから大丈夫だ」


そんなことを話しながら、早く会える日を楽しみにしていた。


でも、3ヶ月経っても遊びに行っていいという手紙は来ない。


「姉様に何かあったのかな」

「それこそ知らせが来るだろう」


それでも不安は消えない為、もう一度手紙を送った。僕達は不安で仕方がなかった。


暫くして、姉様から手紙が届いた。

返事が書けなくて申し訳なかったこと。子どもは自分にそっくりなことなとが書かれていた。

ただ、出産で長く休んでしまった為、仕事が立て込んでいるから、もう暫く会えないという謝罪の言葉が綴られていた。


「……子供を産んでたったの3ヶ月やそこらで、そんなにも忙しく働かなくてはいけないの?」


さすがの母様も取り繕うことは出来なかった。

伯爵家にはっきりとした不信感を持った。


「だが、あの子は嫁に出した身だ。こちらから内情についてとやかく言うことは難しい……」


我が家はなんの権力もない田舎貴族だ。

国でも有数の商会を持つ伯爵家に意見など出来る立場ではなかった。

ただ、心配していること、何かあったらいつでも頼って欲しいことを手紙にしたためることしか出来なかった。


姉様からは、手紙が嬉しかったこと。

商会の体制を整えているから、もう少ししたら自分がいなくても大丈夫になると返事が来た。


「……すごい。さすが姉様だね」

「ああ、会えたらうんと甘やかせてあげよう」

「早くウィリアムとゆっくり過ごせるようになれるといいわね」


姉様が無理をしているのは分かっていた。

でも、あともう少しだから。その言葉を信じて応援する。それが僕達に出来るすべてだ。


そして──


「……離婚?」

「どうしてこんなことにっ!」


それを知らせに来たのは義兄ではなく、姉が頼んだマクレガー弁護士だった。


それから、マクレガー弁護士は包み隠さずすべてを話してくれた。

両親も僕も、涙が止まらなかった。


「ウィリアムを取り戻せないの?」

「…残念ながら難しいですね。あちらは育てる為の環境が整っており、嫡男として今まで大切に育ててきた実績もある。後妻との契約書にも、ウィリアムを嫡男として扱う旨が記されていました。

更に、伯爵自身は離婚を望まず、やり直したいと言っているのを断るわけですから。

愛人を囲う程度では離婚は出来ても、嫡男を連れて行くのは先方が望まない限り無理だと思って下さい。

お力になれず申し訳ありません」


……なぜこの人が謝るのだろう。

一番悪いことをした人達は謝りにも来ないの?


「姉様はいつ帰って来ますか?」

「そうだな、手続きはだいたい済んでいます。

ただ……」

「……ただ?まだ何かあるの!?」

「はい。アシュリー様にプロポーズするお許しを得に来ました」


「「「は?」」」


あれには本当に驚いた。

だって離婚の弁護をしていて、その誠実な人となりに惹かれましたと言われても。

こちらは離婚のショックも収まりきらないのに、それ以上の爆弾は投下しないで欲しかった。


「私は25の時に、妻と子供を事故で失いました。

私一人生き残ってしまい、本当に色々と後悔したんです。もっとたくさん話せばよかった。感謝や愛の言葉をもっと伝えればよかった。もっともっともっと…。

だからですね、遠慮や出し惜しみはしないことにしたんです。離婚したばかりなのに、では無く、今がチャンスだと考えるべきだと思いました」


軽い口調で話しているけれど、本当の事なのだろう。

そして、姉様のことも気軽に言っているわけでは無いと何故か信じられた。


「今度こそアシュリー自身に決めさせます。無理強いをせず、誠実な態度で臨んで下さい」


父も母も反対はしなかった。

マクレガーさんが帰ってから家族会議をした。

結果、姉様はしっかりし過ぎだから、あれくらい年上の人なら甘えられるかもしれない。と話は纏まった。


それから半年後、何とも早くマクレガーさんは姉様を射止めた。


二人で結婚の挨拶に来た時の姉様は、とっても幸せそうに笑っていた。





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