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アシュリーの願いごと  作者: ましろ


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26.リオの片思い(4)

アシュリーが怖い。


いや、違う。

彼女が(まと)う死のイメージが怖いのだ。


あの日、アシュリーは医師の懸命な治療によって、何とか命を繋ぐことが出来た。


『子供を産んでくれてありがとう』『貴方が無事でよかった』


伝えたいことは沢山あるのに、彼女に会うのが怖い。


だって彼女の『死に顔』が。

いいや、違う。彼女は生きている。

私のところに戻って来てくれたじゃないか。


彼女の産んだ子は、彼女にそっくりで私にはまったく似ていなかった。

そんなことすら、自分が必要無かったように感じるから終わっている。

彼女に感謝するでも(ねぎら)うでもなく、私を必要としないことを恨むなんてどうかしている。

そのくせ怖くて近付けない臆病者だ。


「……ウィリアムは?」

「ぼっちゃまは本館にてお預かりしております」

「なぜ?アシュリーが悲しむだろう」

「ですが、若奥様はお世話をなさいませんから仕方がありません」

「……世話をしない?」


まだそれ程までに体調がすぐれないのだろうか。


「医師は何と?」

「医師とはルドマン様のことでしょうか」


何故あの男の名が出てくるんだ?


「…彼が来ているのか」

「はい。御見舞ついでに診察して下さっているようですよ」

「……は?」


どうして。アイツはかかりつけ医でも何でもないじゃないか。妻の寝室に男を招くなんて有り得ないだろうっ!


「あの、お医者でいらっしゃいますよね?」


私が何を疑っているのか気が付いたのだろう。


「……新米の医師では不安だ。いつもの先生を呼んでくれ」


そう伝えれば得心がいったらしい。使用人は頭を下げ医師の手配に向かった。


診察とはどこまで()()んだ。また顔に触れたのか。その首筋を辿り、まさか身体も?


……それは、不貞と何が違う?


酷く裏切られた気持ちになった。


あの死を境に、彼女が違うモノに変わってしまった気がした。




彼女を避ける為に、領地経営の勉強時間を増やした。

本館にいればウィリアムにも会える。

赤児は随分とふくふくになった。こんなにもふにふにしていていいのだろうか。

…だが、彼女が子供に会いに来ることは無い。

優しい人だと思っていたのに。


私は夢を見ていたのだろうか。これが彼女の本性なのか?

脳裏に彼女とあの男の交わる姿がチラつく。


「リオさん、明日は明けておいて下さいね。会わせたい方がいます」

「……分かりました」


妄想に取り憑かれ、あまり深く考えずに返事をしてしまった。会わせたいって誰だ?

まあ、仕事関係だろう。そう思っていたのに、着いた先で待っていたのは人形のような女性で。


そこからは悪夢だった。


あつい…、あつい、どうにかしてくれ!


女がおずおずと触れてきて、もう我慢が出来なかった。

そこからのことはあまり覚えていない。

ただ、体の熱をどうにかしたいとしか考えられず、ようやく我に返った時には取り返しのつかないことになっていた。


……女は純潔だった。




「母上、どういうことですか!」

「彼女は貴方の愛人です。クィントン伯爵家のお嬢さんなの。子供が出来たらアシュリーさんとは別れて彼女と再婚なさい」


……何を言ってるんだ?


「なぜ」

「残念ながらアシュリーさんはもう子供を産めないわ」

「……でもウィリアムが」

「たった一人でどうするの?()()あってからでは遅いの、貴方も知っているでしょう!?」


その狂気に満ちた顔を見て悟った。

母上もまた、父上達の死に囚われたままなのだ。


「……私はアシュリーを愛しています」

「会いにもいかないのに?貴方はアシュリーさんを抱けないのではないの?

大丈夫よ。あの子にはルドマン医師がついているわ」


その一言が決定打となった。

そうだ。彼女にはあの男がいるじゃないか。

それなら、私があの人形で処理するくらい構わないだろう?


女はいつも私に愛の言葉を囁く。

どれほど自分勝手に抱こうとも、文句一つ言わず、ただ側にいられるだけで幸せなのだと私を抱きしめる。


嘘だと分かっていても嬉しかった。

私はアシュリーにそう言って欲しかった。


ただ、側にいてほしかった。


こんなのいつかはバレる。そう分かっているのに、どうしても止められなかった。

女の言葉が、温もりが手放せない。


アシュリーが好きだ。別れたくない。


でも、彼女は私の側にいない。

ウィリアムにだってほとんど会いにこない。




アシュリー、どうして君は───






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― 新着の感想 ―
そう!にゃんたろうさんの言うとおり心理描写が上手すぎて!ましろさんの作品は可愛い子は可愛くて、気持ち悪い子は本当に嫌悪感が出てきちゃう! あぁー成長するタイミングで教育者(父親)と庇護者(精神の安定し…
毒親にしてやられた若夫婦ですね でもこんなに精神年齢が低かったら、遅かれ早かれいつか同じ様な事態になっていたかも 心情描写がリアル過ぎて、すっかりはまりこんでしまいました 素敵な作品ありがとうございま…
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