24.リオの片思い(2)
「いいよな、年上の妻って」
「……なんで」
「だってさぁ、色々とリードしてくれそう!」
なんだ、それは。その、何でも自分よりも知っていることが苦痛だと感じる私がおかしいのか?
「何も良くないよ。だって、どれだけ頑張っても追いつけない」
「えっ!お前の奥さんそんなにも凄いの!?」
「ん?」
何となく会話が噛み合っていない気がする。
「リオ。閨ごとの話をされてるって気付いてる?」
「は!?」
ニヤニヤと笑う友人の言葉に、つい彼女の痴態を想像してしまった。
「あらあら、真っ赤よぉ!大丈夫ぅ?」
「パスカル揶揄い過ぎ。リオくんは純情なんだよ」
こいつら……。そういえば、パスカルの婚約者は同い年だ。こないだ初めてキスをしたと騒いでいたよな。
「パスカル」
「ん?」
キスってそんなにも良いものか?
そう聞こうと思って………止めた。
だって二人は、既に私が彼女を抱いていると思っているのに、実際はキスすらしていない。それは酷く恥ずかしいことのような気がした。
「そろそろ席に付け。先生が来るぞ」
「あ、やべ!」
一人称を『僕』から『私』に変えた。
感情的な物言いを無くすように心掛けて、常に笑顔を忘れず、体を鍛えて勉学に励んで。
彼女へのプレゼントは、お菓子から日用品。そしてアクセサリーへと変わっていった。
嬉しそうに受け取ってくれて、次に会う時には必ず身につけてくれていて。
でも、それだけ。
私達は3年の契約婚で、それすらも白い結婚でもうすぐ無効とされてしまう。
どうして?何故、彼女をそのまま妻にしてはいけないのだろう。
………抱くことが出来たら。そうしたら本当の妻になるのだろうか。
だって白い結婚ではなくなる。それに子供が出来たら?
そうしたら母上も認めてくれるのでは……。
無事卒業を迎え、やっと屋敷に戻れた。
今夜、彼女に告白しよう。好きだと、本当の妻になってほしいと伝えなきゃ。
そう思っていたのに、
「……貴方に触れてもいいだろうか」
口から出てきたのは、そんなみっともない懇願で。
「貴方を抱きたいです」と欲望に塗れた明け透けな言葉しか出て来なかった。
それでも、耳に、頬にと懇願するように口付ければ。
「……もう年の差なんて無いじゃない」
彼女は顔を真っ赤にしながら涙目で睨んできた。
そんな可愛らしい顔は初めてで。
「やっと私を男として見てくれた」
それは、やっと手に入れた、私という男を意識した女としての彼女だった。
ようやく手に入れた妻。
私なんかの拙い愛撫にも必死に応えてくれる。
少し触れるだけで羞恥に頬を染め、快楽に恥じ入り、破瓜の痛みに涙を浮かべながらも、
「…やっと本当に妻になれた」
そう言ってふにゃりと笑った顔は、今まで見た笑顔の中で、一等可愛らしかった。
そこからは箍が外れてしまい、ガツガツと貪ってしまった。
だって、彼女との交わりは最高に気持ちが良くて。
心も身体も満たされる。そんな感じだった。
これからは夫婦として仲良くやっていこう。
そう、心に誓った。
でも、現実はそんなに甘くなかった。
まずは母上に酷く叱られた。婚姻無効には出来なくなったから。せめて子は作るなと言われたけど聞く気は無かった。
すると、母上は権利を主張してきた。
それは印章の使用と伯爵家としての決定権の継続。
でも、今までもずっと母上が代行してきたので、特に問題には感じなかった。それだけで彼女を本当の妻に出来るなら何でもよかった。
私は、母上が家を思う気持ちを甘く見ていたのだ。
それからは領地経営はすべて母上の許可が必要。
商会は彼女の独壇場で私の入る隙など無く、私はまるでお飾りの当主だった。
それに、どれだけ彼女を抱いても、手に入れられるのはベッドの中でだけ。
それすらも翌日の仕事の為に断ろうとする。
やはり、本当は妻になりたくなんか無かったのでは?仕事を続ける為に仕方なく抱かれているのか?
そんな疑いの気持ちが膨れ上がり、何度も言い争いをする日々。
でも、転機が訪れた。
「妊娠?」
彼女が子供を身籠ったのだ。
──これで彼女は今度こそ本当の妻になる。
「ありがとう、アシュリー。まさかこんなにも早くに授かれるなんて!」
私は本当に嬉しくて、何度もキスを贈りながら、感謝の言葉を口にした。
これでやっと本当の幸せが訪れるはず。
──そう信じて。




