表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
アシュリーの願いごと  作者: ましろ


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

18/65

18.コーデリアの贖罪

私は生まれながらに罪人らしい。


それがいつ言われた言葉なのかは覚えていない。

でも、記憶の中のお嬢様が随分と幼いから、たぶん私が3歳くらいだったのではないかしら。


「お前がいるせいでお母様が泣くの!この泥棒!」


泥棒。人のものを盗むこと。

ちゃんと調べたわ。私は何時、何を盗んだの?


貴族の子供は貴族。平民の子供は平民。そして、罪人の子供は罪人、らしい。


お母様がお嬢様のお父様を奪った。

だからその娘の私も泥棒なのだ。


私は考えた。ではどうすればいいのか。


──従順であれ。


それが答えだった。

何を言われようとも引き取ってもらえたことに感謝し、勉学に励み、たおやかに微笑む。それが私に求められる全てであった。


そうして、外観を磨き上げ、知識を詰め込み、婚外子でありながらも、有能で美しい従順な令嬢が出来上がった。


そうすれば食事を抜かれることはなく、鞭で打たれることもなく。

ただ、退屈で飢えることのない如何でもいい世界が続くだけだ。

私は何の為に生きているのだろう。

そんなことを考えながらも、餓えの苦しさが無いだけマシだと思うしかなかった。


そんな私を買い取る先が現れたのは、18歳になったばかり。最終学年になった年だった。


「愛人、ですか」


さすがに動揺してしまった。ここまで作り上げてきたのに、たかが愛人だなんて。


「ただの愛人ではない。子を身籠れば正妻だ!そうすれば、あの商会を手に入れられる!」


私を愛人に迎えるスペンサー伯爵家は大きな商会を持っているらしい。

一度は潰れかけた事業を今の奥様が立て直したそうだ。

そんなにも優秀な方を捨ててしまうと言うのだから驚きだ。

田舎の子爵令嬢であることが気に入らないらしいけど、私だって伯爵令嬢と言っても婚外子なのにね。


更に呆れたのは、それを決定したのは当主ではなく、その母親が仕組んでいるらしいのだ。

無能な当主に強欲な母。それに気が付かない鈍感な妻。そしてそんな中に投じられる操り人形。

それはどんな三文芝居なのか。


「……くだらない」


お茶会に現れたのは、まるで王子様のように麗しい男性だった。


(脂ぎったおデブじゃないだけマシ)


感想はその程度。媚薬が入ったお茶を飲んだ男は手荒く私を抱いた。

その行為に愛などあるはずもなく、だからだろうか。それはただ虚しさと痛みしか生み出さなかった。


痛い、痛いっ!こんな行為の何が嬉しいの。


そう思いながらも、「好きです」「お慕いしています」と囁く。

心の中ではお願いだから早く解放してと願いながら。


残念ながら子を授かることは出来なかった。

でも、その男はその後も私を抱いた。


私は相変わらず気持ち良さなど欠片も感じることは無く、いつも痛みに辟易しながらも愛の言葉を囁く。


「すき」「愛されなくてもいいの」「側にいれたら幸せ」


そんな心にもない言葉を唱え続ける日々。


「お前なんか愛していない」


そう言いながらも、私を抱き続ける男が滑稽過ぎて思わず笑ってしまった。


妻を愛していると言いながら私を抱く馬鹿な人。

私が快楽など欠片も感じずいることにすら気付かないのだから如何しようもない。

そんなだから奥様の心が手に入らないのだと心のうちで笑う。

男の良いところは、顔と、暴力を振るわないことだけだ。


──顔か。


男はとりあえず顔だけは良い。

こんな男の子種なら、きっと美しい子供が産まれるのではないかしら?


だから聞いてみた。子供は誰に似ているのか。


「ウィリアムは妻にそっくりだ」


最愛の妻に似ているなら良かったのでは?

そう思うのに暗い表情。どうやら妻の不貞を疑っているらしい。


貴方は何度私を抱いていると思っているの。


あまりにも愚かな発言に笑いを噛み殺すのが大変だった。

でも、ふと考える。


彼との子供が授かれたら、彼そっくりの子が産まれたら、私を愛してくれるかしら?


……ううん。彼は奥様を愛している。


でも、赤ちゃんは?


私が産み育てた赤ちゃんならば、私のことを愛してくれるのではないか。


その考えは私に大きな衝撃を与えた。

愛し、愛される存在。

子を身籠れば、そんな宝物が手に入る?


それはあまりにも甘美な誘惑だった。


だから彼の奥様のことなんて考えなかった。

だって、私にとって他人とは私を見下し、傷付ける人達ばかりだから。


私はもう、赤ちゃんのことしか考えられなくなっていた。


それがどれ程罪深いことなのか考えることが出来なかった。


本当に愚かだった。







評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ