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アシュリーの願いごと  作者: ましろ


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16.涙

マシュー様が付いて来てくれてよかった。

コーデリア様に会わせて欲しいと言ったのは私ですが、本当ならば会いたくなどない。

リオ様が愛した女性との対面など、御免被りたいわ。

それでもウィリアムの為だと、必死に自分を奮い立たせていたのがバレていたのでしょう。

くだらないやり取りで和ませてくれて、感謝してもしきれません。


それでも心臓が悲鳴を上げている。


私のリオ様への思いは何なのかしら。

許せないと思う。でも、幸せであって欲しいとも思う。裏切り者だとも思う。

……共に未来を歩きたかったとも思う。


今なら話し合えばやり直せるかもしれない。

いっそ、コーデリア様と赤ちゃんさえいなければ。


そう考えてしまった自分に愕然とした。


自分も悪かったと思うことを見つけてしまったから?


でも、誰が悪いとかそういう問題ではなく、私はもう彼に触れられたくない。


……だから無理なのに。


それでも貴方の手を放すことが悲しいのは──



「アシュリー?」

「……ごめんなさい。考え事をしていたわ」

「いや、そろそろ着くから」

「分かった」


駄目ね。気持ちを切り替えなくては。

自分の幸せを一番に考えるのなら、やはりウィリアムを幸せにしてあげなきゃ。あの子が笑っていてくれたら、私はそれだけでいいの。




「初めてお目にかかります。リオ様の愛人を務めさせて頂いておりますコーデリアと申します」


初めてお会いするコーデリア様は、まるで作り物のお人形のような女性でした。


「はじめまして。リオ様の妻、アシュリーです。これからの事を話し合いに来ました」


抜けるように白い肌。ミルクティーベージュの髪に空色の瞳。何処もかしこも儚げで、でも、何よりもその生気の無い表情が一番気に掛かります。


「失礼ですが、コーデリア様はお食事はちゃんととれていますか?」

「……みっともない姿をお見せして申し訳ありません」


やっぱり。もう悪阻が始まっているのね。


「まずは着替えましょう。そのように体を締め付けてはいけませんよ」


それでは増々気分が悪くなってしまいます。


「…いえ、お気になさらず」

「無理ね。気になるに決まっているでしょう。

リオ様、コーデリア様をお部屋まで連れて行って差し上げて。そこのあなたは楽な服に着替えさせてあげてちょうだい」


側に控えていたメイドに勝手に命令してしまいましたが、まあ大丈夫でしょう。


彼女が移動する時に、ふわりとミュゲの香りがしました。

……あの時の香り……


分かっていたことです。それなのに、ツキツキと痛みを訴えるポンコツな心臓が疎ましいわ。


でも、想像とはまったく違う女性でした。

いっそのことたわわなお胸の美女とかならよかったわ。

それならば、体に溺れたのだと納得出来たのに。

でも実際は、あんなにも華奢で、可愛らしくはあるけれどまるで少女のような。……それとも何か凄い技でも持っているのかしら。

……ああ、みっともないわね、私は。

未だに、何故リオ様が彼女を抱き続けているのか理由を見つけようとしているのだから。

それはただ彼女に惹かれただけ。そう認めるのがこんなにも悔しいだなんて。


「マシュー様、後でコーデリア様の診察をして下さる?」

「仰せのままに。お人好しだな」

「……自分を嫌いになりたくないだけよ」


まだ顔合わせをしただけなのに、すでに疲れてきました。

ウィリアムに会って癒やされたいです。


しばらくすると、あまり締め付けないタイプのデイドレスに着替えたコーデリア様がリオ様に支えられて戻って来ました。


「あの、ありがとうございます。奥様」

「私の事はアシュリーと呼んでちょうだい。貴方のこともコーデリア様とお呼びしていいかしら」

「はい、……アシュリー様。この度は誠に申し訳ございません」


まだ青白い顔をしながらも深々と頭を下げる姿に、何とも言えない気持ちになりました。

謝るくらいなら何故。そう詰め寄りたいような、でも、まだ10代のご令嬢が父親とあのお義母様に命令されて逆らえなかったであろう同情とがせめぎ合います。


「コーデリア様は今おいくつ?」

「……19歳です」


そう。まだ19歳なのよね。愛人になるように命令されたのは18歳?嫁いで来た頃の自分と重ねてしまいます。


「悪いのは私です。でも、私はこの子を殺したくないっ。お願いです、この子を産ませて下さい!」


ボロボロと涙を溢れさせながら子の命を望む姿はとても美しい。


「貴方はどうして避妊薬を偽ったの?そんなにも正妻の座が欲しかったのかしら」

「……家族が……欲しかったの」


それはまるで幼い子供のような、拙い願い。


「私を愛してくれる……私が愛することが許される、そんな家族が欲しくて、私……」


ご実家での彼女は、やはり婚外子として不当に扱われていたのでしょう。赤ちゃんが出来ればと夢見るくらいに。

そう。貴方と私は願いが同じなのね。


コーデリア様の手をそっと握る。


「辛かったですね、もう大丈夫ですよ」

「……え」

「ほら、そんなに泣いたらお腹の子が驚いてしまうわ。もう、こんなにも青白くなって。これからは少しでいいから何かを食べて、体力もつけないと。

元気な赤ちゃんを産めるようにがんばりましょう?」


呆然としていたコーデリア様のお顔がくしゃりと歪み、


「……ごめんなさい、ごめんなさいっ!」


何度も謝りながら泣き続けました。





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