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アシュリーの願いごと  作者: ましろ


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12.親友

応接室に向かうと、不機嫌な顔をしたマシュー様がいらっしゃいました。


「何だその顔は」

「顔を合わせるなり、女性の顔に文句を言うのは如何なものでしょうか」

「顔色が悪いと言っているんだ」


分かってますけどね。マシュー様は優しいのですが言葉選びに難があります。


「ちょっと戦ってきたので疲れが出ただけですよ」

「淑女がそんなになるまで戦うのは止めなさい」

「女だって戦わなくてはいけない時というものがあるの。仕方がないでしょう?」


女は日々口撃に磨きをかけているものです。


「で、勝者は?」

「第一試合は私ですね」

「おめでとさん」


何試合続くかは分かりませんけど。

でも、よかった。マシュー様は怒ってはいないようです。


「今日はどうされたのです?約束はしていませんでしたよね」

「阿呆か。心配だから来たに決まっているだろう」

「……決まっているのですか」

「それとも何か?お前を救いに来た!と白馬の騎士のように言った方がよかったか」

「マシュー様が白馬の騎士!いいですね、見てみたいです」


マシュー様は、医師は体力も必要だからと学生の頃から体を鍛えていましたので、程よく筋肉のついた体付きです。

金茶の髪は、今日はラフに下ろしていますが、普段はふんわりと撫で付け、グレーの瞳は愛想は足りませんが理知的です。

ですから、外見だけならば物語に出て来ても遜色はないのですが、いかんせんお口が悪く正直者な為、ラブストーリーには不似合いな方です。


「はいはい。では姫、貴方の手を取る栄誉をお与え下さい」


すぐ側まで来てぞんざいに言うのがおかしくて堪りません。


「許すわ」


マシュー様は私の手を取ると、脈を測り、


「少し触れるぞ」


それからは返事も聞かずに、下まぶたを少し下げたり、口を開けさせたりと診察をして下さいました。


マシュー様の手はサラリとして、淡々と動いていくだけなのでまったく抵抗はないのですが、ふと、不貞を疑われていたことを思い出してしまいました。


「私がマシュー様と浮気をしていると思ったのですって」

「…………馬鹿なのか」

「馬鹿だったみたいです」


診察が終わると、カバンから何やらお薬を取り出しました。


「ちょっと疲れてるだろ。栄養剤を出しておく。

あと、眠れないならこれを飲め。ただし、不眠が続くようならちゃんと診察を受けろよ」


そう言って数種類のお薬と、その場でサラサラと飲み方や効能を書いてくれました。


「……俺は言わない方がよかったか?」

「ううん、聞けてよかったわ。貴方のおかげで覚悟が出来たもの」


真実を伝えるのは辛かったであろうと理解しています。

それでも、私が知らないままでいることを良しとしないことを知っていたから教えてくれたのでしょう?


「離婚するのか?」

「……ええ。それが一番だと思う」

「メルヴィンが騒ぐぞ」

「あ~~…、困ったわね」


そうなのよね。商会の面々がリオ様を殴り殺しそうで怖いわ。


「何なら診断書を書くぞ」

「……え?」

「このままでは命も危ぶまれるから商会の仕事を続けられないと言えばいい」


確かにその方法は考えました。でも、


「……それでは心配させてしまうわ」

「お前が正当な裁きを下さないで綺麗事で纏めようとするなら、絶対に彼らは許さないだろう。

このままだと、有能な奴等が一斉に退職するぞ」

「……そこまでするかしら」

「するだろうな。商会の人間は、赤の他人のお前が10代から必死に働いてきたのを間近で見てきたんだ。

用済みだからと捨てられたら明日は我が身でもあるしな。

そんな雇用主の元で働きたいと思うか?」

「……お義母様は愚かよね」


人間は道具ではない。心ある生き物なのだ。


「まあ、お前が病気だと伝えても、そこそこ揉めるぞ。後妻と子供が出来るのが早過ぎるからな」


ギリギリまで私を働かせておきたかったのでしょうが、それは悪手というものでしたよね。


「ちょっと考えるわ」

「そうしろ。あ、相手の女に会うときは俺を連れて行けよ」

「どうして?」

「お前ね。敵の陣地に丸腰で乗り込もうとするのは止めなさい。俺は医師だから、体調の悪いお前の付き添いだと言えばいい」


ありがたい。とってもありがたいのですが、リオ様の反応が気になります。


「馬鹿旦那には俺から話をするから安心しろ」

「え、殴らないで下さいよ?」


どこにも安心はない気がするのは気のせいでしょうか。


「大丈夫。顔は殴らないから」

「……どこを殴る気?」

「秘密~」


……怒っていないと思ったのは間違いみたいです。

私には怒っていない、というだけでした。


「どうしてマシュー様がそんなにも怒るの」

「…俺はさ、お前が突然学園を辞めて悲しかったんだ」

「え」


結婚してから何度か会いましたが、そんなことは初めて聞きました。


「お前との繋がりが俺は楽しかった。

お互いに夢があって、必死に向かっていく仲間だったから。

隣にいられるのは3年間だって分かっていた。

だからこそ、その3年を大切にしてたんだよ」

「…そうね。私もマシュー様といるときが学生時代で一番楽しかったわ」

「それを理不尽に奪っていって、お前の夢さえも潰したことを俺は今でも恨んでる」








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