11.信頼
どうやら私は思った以上に怒っているみたいです。
「……何と無礼なのでしょう!」
「礼を失しているのはお義母様ですわ。
なぜ騙し討ちのような姑息な手ばかりを使うのです。
本当にこの伯爵家が大切ならば、貴方の頭一つくらい下げることは出来なかったのですか。
お義母様は貴族としての矜持を持つところを間違っておられるわ。
守るべきものの為なら、その身くらい捧げる覚悟を持つべきでした」
つまるところ、お義母様は自尊心が高過ぎたのだ。
だから家を守る為なのに、たかが田舎子爵に頭を下げることも出来ない。
最初から家の立て直しの為にと年月を決めた契約結婚でも持ち掛ければよかったものを、それは恥になるからと言い出せず、それならば私で我慢したらいいのにそれも許せず。
挙げ句の果てには、息子に薬を盛って不貞を犯させた。
「リオ様はお義母様の持ち物ではありません。
貴方が薬を盛ったのは明らかな犯罪行為です。
たとえ母親であっても、やってはならないことはあるのですよ」
というより、親だからこそやってはいけないのですけどね。
「……私がリオさんに?どこにそんな証拠があると言うのです」
「本で読みました。犯人はすぐに証拠はあるのかと言うそうなのですが本当ですね!」
あら、悔しそう。でもねぇ、普通はいきなり証拠は?とは聞かないですから。
「お義母様。そんなにも私達は信用なりませんか?」
「……信用ですって?」
「はい。お義母様はなぜたったお一人で戦おうとなさるのです。
確かに、突然旦那様とご長男様を亡くして途方に暮れたことでしょう。
ですが、貴方様にはリオ様がいましたわ。
そしてお気には召さなかったかもしれませんが、私だっています。
他にも使用人や商会の人々、ご実家の皆様。
多くの方がお義母様の側にいるではありませんか。
なぜ、そんな皆様に助けて欲しいと言わないのです?」
「……実家だなんて。何も知らないくせに」
「『姉は祖母の教えのせいで、やたらと古臭い考えだし、山のように高いプライドのせいで中々の難物だから苦労するだろうが、あれでも家族なのでどうかよろしく頼むよ』とよろしくされましたが?
ならば手をお貸しくださいとお願いしたのですが、こちらから寄って行くと利用されると警戒する困った人だからと、顧客になって頂くことで手を打ちました。優しい弟様ですね」
私の言葉は意外だったみたいです。
リオ様やウィリアムを見ればお義母様は愛情深い方だと分かりますのに、どうにも頑ななのが困りものです。
「お義母様、心の通わないもので作り上げた家族は虚しいです。貴方は愛するリオ様にそんなにも虚しい世界で生きさせたいのですか?」
「…ちがうの……私は……」
項垂れてしまったお義母様は、何だか小さく感じます。
今までずっと家のためにと張り詰めていたものが切れてしまったようです。
……ああ、胸が痛いな。苦しい……大声で叫んでしまいたい……なんでこんな……
「ふぅ。……リオ様、お義母様をお部屋に連れて行って差し上げて。それと、お二人でじっくりとお話しすることをお勧めします」
「……分かりました。母上、行きましょう」
リオ様に支えられ、お義母様は素直に退席されました。
お話の続きは、お二人が話し合ってからの方がいいでしょう。
「……若奥様?」
「ごめんなさい、少しだけ一人にさせてくれる?」
「承知致しました」
一人きりになって、背凭れに体を預ける。
「……つらいなあ」
落ち着くために深呼吸をする。
ゆっくりと吐いて、吸って、吐いて。
これからどうなるだろうか。
まずはクィントン伯爵とどのような契約を結んだのかを確認するべきね。
苦しくても頑張らなきゃ。ちゃんと後悔の無い幕引きにしたい。
「裁いて終わるだけなら簡単だけどね」
でも、私は綺麗事だと言われても、まだこの家の幸せを諦められない。離婚するにしても、彼らを不幸にするためではなく、互いが幸せになる為に別れを選びたい。
「とりあえずコーデリア様にもお会いしないといけないし、まだまだすることは山積みだわ」
しばらく休んでいるとノック音がした。
「若奥様、お客様がお見えです」
そんな予定は無かったはず。……誰だろう。
「どなたかしら」
「ルドマン先生です」
「マシュー様が?」
「はい、応接室にてお待ち頂いております」
……これは叱られ案件かしら?




