#02 崩壊しゆく世界
俺は紅魔館を出たあと、白玉楼へと向かっていた。
「なんで…みんな俺の事忘れるんだよ…俺がなにかしたのかよ…教えてくれよ…」
俺の精神は崩壊寸前だった。向こうの世界でもこんなに追い詰められたことはない。
「俺の居場所はここしかなかったのに…それすら奪うのかよ…俺がみんなと過した時間は…無駄だったのかよ…」
本当に何も考えられなくなりそうだ。
「頼むから…1人くらいは覚えててくれよ…」
そんな言葉を呟きながら、階段を登る。
白玉楼へ行くのは久しぶりだった。
「止まりなさい」
と、そんな声が聞こえた。
あぁ…妖夢も…俺の事を……。
「どこの誰かはわかりませんが…幽々子様に手を出そうものなら…私がお相手します」
「お前も…か……」
俺は小さく呟く。本当に全員忘れてしまったのだろう。俺はあんなにも幻想郷に尽くしてきたのに。
「……止まりなさいと言ったはずですよ」
「………え…」
見れば、俺の足は勝手に進んでいた。
無意識のうちに、進んでいた。
「こ…これは…ちが…」
「問答無用っ!忠告したはずですよっ!これ以上進むなら容赦はしないと!」
妖夢は斬りかかってくる。咄嗟に俺はガードする。
「これを防ぎますか…なかなかの手練ですね…」
あぁ…いっそここで死んでしまうのもいいのかもしれないな…俺はそんなことを思ってしまった。
「なぜ抵抗しないのですかっ!」
妖夢は更に激しく斬りかかってくる。
だけど、俺はお前のことを覚えているからなんて言えるはずもなく…。
「が…はっ」
俺は勢いよく切りつけられた。だけどこんな傷はすぐに直せる。
「これでも抵抗しないのですか…ならば…」
と、スペルカードを出す妖夢。
俺は…俺はどうすれば……。
あ……そうか…この世界には…居場所は無い…ならば、元の世界に帰ればいいんだ…。
「……ゲート」
そう俺が発すると、さっきまではなかったゲートが出てくる。
「っ……!?あなた…何を…」
「さようならだ妖夢。そしてこの世界も。」
「何を言って……っ!」
俺はゲートへと歩み始める。
「ちょ…待ってくださいっ!なんであなたがこんな力を…!」
「関係ねぇだろ、お前には」
そして俺はそのゲートに触れる。
「じゃあな。居場所がないこの世界には…帰ってこないけど…な…」
俺が触れると、ゲートは光出した。
そして妖夢が目を開けると、ゲートは完全に無くなっていた。
「………あの男…妙な力を使いますね…一応"マスター"に報告しますか」
俺は目を開ける。すると、そこには見慣れていた天井とベッドがあった。
「帰れた…のか」
俺はゲートを試すのは初めてだった。なんせ、帰る必要がなかったからだ。
「あの世界のことは…忘れよう。」
俺はベッドから出ようとした。
「いててっ…」
妖夢に斬られたあとが残っていた。そこで俺は疑問に思った。
「この世界でも…スペルカードは使えるのか?」
試しに俺は使ってみることにした。
「自符『フルリカバリー』」
すると、さっきまで痛かった傷があっという間に治る。
「使えるのか……」
俺はこれを使って世界征服!なんてするつもりない。バレないように過ごさなければいけない。だから、そういう系の話題になったら声を出したらだめだ。
心の中で呟く分には発動しない。ただ、戦闘中なら発動する。だからこの世界では声に出したら行けないのだ。心の中で留めておかなければ……。
「っと…明日は学校か…」
今日は不幸にも日曜日だった。俺はカレンダーを見る。
「なるほど…あの世界では3年だったがこの世界だと1週間なのか…」
まぁそんなことを気にしても意味は無いので俺は寝ることにした。
「……………」
翌日
「ふわぁ…おはよう…って…1人だった…」
俺は向こうの世界にいた癖でこの世界でも名前を呼びそうになった。
「朝ごはんは…いいや」
朝ごはんは食べる気にならなかった。まぁあんなことがあったから仕方ないか。
「さて…学校に行きますか…」
俺は準備をして家を出る。
(本当にスペルカードを使わないように気をつけなければ…な…)
そんなことを思いつつ。学校へ向かうのだった。
俺は正門の前に着いた。少し嫌な記憶を思い出す。
「っ………」
慣れなきゃな、と思った。
俺は教室に向かう。ちなみに高校2年生だ。
今は確か1学期(6月)だ。俺はドアを開ける。すると、教室にいた人たちが珍しい物を見たかのように俺の方を向いた。まぁ…今まで休まなかったやつが1週間も休んだからな。
「おはよ!空!」
と、教室の前で出迎えてくれた女子、天堂茜。この子は俺の幼馴染だ。
「あぁ…おはよう」
俺はなるべく気づかれないよう振る舞いながら席に着く。
「空どしたの?何かあった?」
「っ……いや…何も無い…」
「いやいや、1週間も休んだじゃん!絶対何かあるって」
鋭いな…さすが幼馴染だ。だけど、それを話したところで信じて貰えないだろう。だから俺は
「大丈夫だよ、ちょっと体調崩してただけだから」
「そか、でも無理はダメだよ?」
「あぁ…心配してくれてありがとう」
いつまで隠し続けられるか…
「そうだ!今週の金曜日遠足あるって!」
「………え…?」
「今日の1限目に班決めするんじゃないかな」
「…………」
遠足…か。正直に言うととても行きたくない。まだ精神がやられている。
「どうした?やっぱり嫌なことでもあった?」
「なんでもないよ」
と、そんな会話をしていたらチャイムがなった。
「席に着け。まずは出席…と、天月久しぶりじゃないか?」
担任の先生が話しかけてくる。
「そうっすね…ちょっと体調を崩してまして」
「珍しいな。天月が体調を崩すなんて。無理はするなよ」
「はいっ!」
良い先生でよかった…と俺は改めて思った。
ホームルームが終わり、1限目になった。
「さて、金曜日は遠足があるのはみんな知ってるよな?」
先生が聞くと。みんな頷いた。俺知らなかったんすけど。
「今回の遠足は修学旅行の準備だと思ってくれ。電車に慣れないと迷うからな」
あぁ、修学旅行もあったのか。
「それと班についてだが…今回はクラス関係なく自由に決めていいことになった」
うぉぉぉぉ!と教室は盛り上がる。まぁ俺に仲良い人は茜くらいしか居ないけど。ただ…茜は結構学校内で人気の生徒だ。俺なんかとなるわけがないか。
「ただし!今回の遠足でまともに指示を聞かなかったり問題を起こしたら修学旅行ではクラス内のみにするからな」
まぁ、当たり前か。流石にそこまで大目に見てはくれないだろう。
「説明は以上!それとどこに行きたいかもこの3つの中から選んでくれ」
ホワイトボードにそれが張り出される。
みんな俺の班に来ないかと言って盛り上がってるが、俺は机に伏せていた。
すると、トントンと誰かにされた。見てみると、茜だった。
「ねぇ空?あたし達の班に来ない?」
「…………」
それは嬉しかった。だけど、俺なんかとは釣り合わないことは理解している。
「茜〜、こんな陰キャでオタクそうなやつを入れるの?」
「ちょ…美香っ…!」
「ていうかさ…そいつ"誰"?」
「志帆、流石にクラスの人は覚えてよ」
「悪い悪いwまじで忘れてたw」
聞きたくなかった言葉が発せられる。
「あ……あ…」
俺は頭を抱え込む。やめろ、辞めてくれ。その言葉を言わないでくれ。
「そ…空?大丈夫?」
「やめろ…やめてくれ…」
俺は暗い声で、そういった。
「美香っ!あんたのせいで空が傷ついたじゃんっ!」
「はぁ?私のせい!?」
「違う…」
俺は静かにそれを否定した。
「違うって…じゃあ志帆?」
「は?私?」
俺は我慢しなければならなかった。だけど、傷ついたものを掘り返されて、トラウマが呼び覚まされてしまった。
「私変なこと言った?」
「でも空が美香は違うって…だからあんたしか居ないの!」
「は?何?"忘れてた"だけじゃん。どこに傷つく要素があるって訳?」
あぁ…だめだ…その言葉は今1番聞きたくない。
精神が削られていく感覚がする。
「お、おい!どうしたんだ天月!」
先生が近くに来る。
「お…俺は…大丈夫ですから…」
「どう見ても大丈夫じゃないだろう!とりあえず保健室で休憩を…」
「本当に大丈夫ですから。」
「しかし…息が荒いぞ?」
「………っ…」
「まぁ、天月が行きたくないのならそこで休みなさい」
「………はい…」
そう言い残し先生は戻って行った。
「わ…私は知らないしっ…」
「志帆っ…!」
「もういい!」
そう言って志帆…川畑志帆はイラついている様子で席に戻って行った。
「はぁ…はぁ…」
「空…大丈夫?」
「なんとか…」
「一体何があったの?教えて?」
「それは……」
言ってもどうせ、信じてくれない。
「話せないこと…なの?」
「…………」
俺は頷く。
「わかった…空が自分から話してくれるまで待つね?」
「うん…」
「それで、どうする?私の所に来る?」
「………どっちでも…いいかな…」
「……わかった」
と、悲しそうな目をしながら俺に背を向けた。