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序
紅蓮の炎が、天まで届きそうだった。
闇夜を照らし、大炎が燃え上がっている。その火の手の勢いは、ひとつの集落に及んでいた。
男とも女ともわからぬ叫喚と怒声が響き渡っている。
集落の人々は逃げ惑い、難を逃れようとしても、その悉くが戟剣の餌食となっていた。
廉氏の一族――。
暗闇に紛れ、軍勢が一族の集落を急襲していたのである。
老若男女の見境はなかった。集落に住まう者が、今や根絶やしにされようとしていた。
「廉氏は逆賊じゃ‼ 誰ひとり生かすことは許さぬ‼」
憎悪にも似た咆哮だった。
身分は高位であろう朝服を纏っている。近衛兵を従え、馬上から業火を睨み付けていたのは、恰幅の良い知命の頃の壮士だった。
大炎は勢いを失うことを知らず、屍体は累々と斃れ伏している。それに折り重なるように、斬られ、突かれた人がまた斃れていた。
その屍体が幾重になろうとも、知命の壮士の表情は動かなかった。火炎に照らされた顔が、眉間の皺を深く見せていた。
まるで、赤い鬼のような形相だった。
空からは、朧げな月が事の次第を見下ろしていた。