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スケベな許嫁?

 富田は血相を変えて自室に入った。そこには確かに女性がいた。

 いや、中学生に見える少女といっていい。

 コート姿で荘六のベットの隅にちょこんと座っていた。


「待たせたね。あれ、暖房も入れていないのかい?」


 富田は魔道エアコンを起動させながら自分が浮足立っていることに気づく。婚約者という者の存在に心が弾み、ウキウキしてしまっていた。

 婚約者というワードはそれほどまでに甘美であったが司馬寧々を実際見て血の気が引いてしまう。

 司馬はあまりに幼く映ったのだ。


「これは荘六様。お帰りなさいませ。失礼とは存じましたがお部屋で待たせていただきました」


 司馬は顔は整っていたが、眼も鼻も口にも華やかさはなくやや古風な印象を持たせた。


「いいえいいえ。この部屋はいつでも気軽に入っていただいて構いません。あの、それで今日はどういったご用向きでしょうか?」


 富田はそういいながら荘六の記憶を探ろうとする。だが司馬の反応にギョッとなる。大人しそうな司馬が一瞬だけ激しい憎悪の表情を浮かべたのだ。


 あれ? 今、怒らせるようなことを言ったっけ?


 富田があたふたしていると、司馬はすぐにはにかむような笑顔に戻り、感情のこもっていない声で語りだす。


「そ・それにしても今日は暖かいですね……コートを脱いでか・構いませんか?」


「あっ……えっ、構いませんよ。どうぞ」


 富田が戸惑いながらそう返答すると司馬はコートを顔を赤くしながら脱いだ。


「えええっ!? どうして?」


 なんと司馬はコートの下に身に着けていたのはほとんど紐のビキニであったのだ。

 ビキニで恥骨と乳首だけを隠すとてつもない破廉恥な代物であった。


「ふぅ……やっと涼しくなりました」


 そういう司馬は涙目で顔を真っ赤にしていた。ここで富田の脳に荘六の記憶がリフレインされる。

 この司馬のいかれた格好は荘六のリクエストによるものであったのだ。荘六は未成年のフィアンセにあろうことかドスケベな水着で訪問するように促していたのである。

 また同時にこの婚約には利権が関わっていることも把握する。司馬家は海野家とつながることで御家断絶になりそうな危機を脱しようと目論んでいたのだ。貧しい御家人である司馬家は借金で首が回らない状態にある。

 司馬寧々はまごうことなき海野家に取り入るための道具であった。

 このゲーム世界は江戸時代ほどではないが家名を重んじる者も多く、武家はもれなく政略結婚が当たり前なのである。

 司馬寧々は次女としてこのロクデナシに身を捧げ、青春を散らす覚悟でここに通っていたのだ。


 そ、それにしても寧々さんは案外胸が大きいんだな!


 そう思った富田は自分の頬を思い切り叩いた。

 バチーンという音が派手に鳴り響く。

 富田は自分が抱いた劣情を激しく恥じた。こんな健気な少女をいたぶるなど到底許されることではない。

 このような強淫は断じてあってはならないと思う。

 だが同時にこれは保身でもあると富田は考えた。

 富田は己が小心者であるとよく理解している。誰かに生涯消えない傷を負わせることに自分が耐えられないことがわかっていた。

 満員電車で目上の人間に席を譲れなかったというだけで一週間も引きずってしまう自分が、少女の性を搾取することなどできるはずもない。


「おい、早くコートを着ろ。そんな体にもう興味はねえんだよ! だからもうここに来るな」


 記憶にアクセスしているうちに富田は荘六が司馬に取っていた態度・口調を知る。できるだけ傲慢で尊大にふるまおうと努めていく。

 その態度に司馬は血相を変える。


「そ、それはどういうことでしょうか? わたくしは正式な許嫁でございます!」


「ふん。もうおまえのようなしょんべん臭い子供には興味がねえだけだ」


「そ、そんなあんまりな……わ、わかりました。18歳まで待っていただく予定でしたがわたくしの貞操、荘六様に捧げます!!」


 震えながらコートを脱ぎだす司馬を見て富田は交渉の順番を間違えたと反省する。


「か、勘違いするな。俺とて父が段取りした婚姻を自分からぶち壊す気はない。だから時期を見てそっちから断りを入れてほしいんだ。その見返りももう用意してある。おまえの口座を見ろ!」


「えっ……えええっ!?」


 司馬が自分のガントレットで銀行口座を確認すると驚愕でこれ以上ないほど目をひん剥いた。

 荘六は金色の巾着袋にあったガントレットから司馬に2億円ほど振り込んでいたのだ。

 富田はできるだけ悪そうな顔をしながらニヤリと笑う。


「俺はこれから素晴らしい人たちとトンデモなくデカいビジネスをやる! だからおまえや実家のことで煩わされるわけにはいかねえんだ。時期を見て司馬家が縁談を破断してくれればそれでいい。これは工作料金と手切れ金だ!」


 いかにも調子に乗っているといった感じでそう言い切る。司馬はまだ入金が信じられないようで口座の数字に釘付けになっていた。


「ほ、本当に2億円ももらってよろしいのですか?」


「はぁ? ただでやるとは言ってねえと言っているだろう。少し後にそっちから縁談を壊せと命令しているんだ。俺はこれから超ビッグになるんだ。2億円くらいはした金さ!」


「わ、わかりました。父と一度相談させてください」


「ああ、だからおまえは二度とここに来んなよ? ガハハハッ」


「承知しました。では本日はこれにて失礼させていただきます。また学校でお会いしましょう」


 動転していたが司馬の顔からは絶望の色は消えていた。富田は不自然さを殺して何とか司馬を救うことができたのではないかと思う。

 確かにあまり上品なやり口ではなかったが司馬の家も潰さず、しばらく荘六も婚姻関係で振り回されることもないので悪い判断ではなかったのではないかと考えた。

 だが富田は司馬が去ってもなかなか平静に戻ることができなかった。

 あの強烈な下着姿が目に焼き付き、心が泡立ってしまうのだ。日常では絶対に出会うことがないエロスと禁忌に「さすがはゲーム世界!」と唸るしかない。

 「マジカルグランドストラテジー」にはいわゆるラッキースケベなサービスはなかったはずだが、こういう予想外もあることを富田は覚悟していこうと心に決めた。

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