おまえ達を必ず俺が守ってみせる!!
富田は突然の弟妹の登場に戸惑いながらも対応する。
「そうか。偉いな……よく頑張ったな」
富田に2人の情報が現状ではほぼない。2人の態度が親しげなのでここで無視するのはまずいと思い、急いで記憶を掘り起こす。
うっ……荘六は万死に値する糞野郎だな!
荘六はこともあろうに鍛錬と言ってこの2人を魔法や木刀でしごきまくっていたのだ。
蒼七と一姫は早くから実母から引き離された上に、強引な英才教育を施される生活を強いられていたのだ。
そんな2人を荘六は憂さ晴らしのために「海野家の人間として恥ずかしくない者になる教育」といって暴力をふるっていたのである。
蒼七はそのせいで左目の視力が落ちており、一姫は右足が不自由になっていたのだ。
「我らの上達を荘兄様に確かめていただきたいのです!」
「きっときっと荘兄様も納得していただけると思います!」
2人はキラキラとした瞳で荘六を見つめていた。まったく荘六が最低のゴミだとは疑っていないのだ。
この時、ふと富田の脳裏に三作目の攻略本の1ページが甦った。
三作目の南米アメリカが主体とする魔道帝国ガンレインの兵士の中に「ソーイチ・ウンノ」「カズキ・ウンノ」という兄妹ユニットがいたことを思い出したのだ。
恐らく2人にはこの後、苛烈な運命に見舞われ、日本を捨て、アメリカで頭角を現すことになる未来があるのだろう。
富田は先ほどまで荘六に些細な罪悪感を抱いていた。それは転生というやむを得ない理由があったとはいえ、荘六の人生を奪ってしまったように思えたからだ。
だが荘六への償いの方法がはっきりわかったことで心の呵責は消えた。
富田は膝を折ってしゃがむと両手を広げて蒼七と一姫を引き寄せ、抱きしめた。
「2人とも、よく身命を賭して己を磨き上げた。2人の覚悟がわかったからには2人には俺のなそうとしていることを手伝ってほしいんだ!」
「『なそうとしていること』? それは何なのです?」
「あのあの、私たちは荘兄様のお眼鏡にかなったということですか?」
「ああ。俺が裏から海野家を支える活動を始める。それに2人も是非とも参加してほしいのだ。強い意志を持ち、行動できる仲間としてな!」
「ぼくはずっと前からそ、荘兄様を支える覚悟でございました!」
「わたしもこれからもずっとずっと荘兄様のために……」
「3人はずっと一緒だ! おまえ達を必ず俺が守ってみせる!!」
富田はそう断言すると弟妹は震え始め、徐々に泣き出した。
「も、もったいないお言葉! ぼくは絶対に荘兄様を支えられるように努力します!」
「わたしもです!! わたしはもっともっともっと頑張って……うわ~ん!!」
2人は年齢相応の顔になると富田の腕の中で激しく泣き始め、抱き着いてきた。
富田は抱きしめ返しながら荘六に誓う。
おまえの人生を引き継いだ代償として、おまえの弟妹を幸せにする! おまえが傷つけた者をすべて救うことでおまえへの償いにしてもいいだろう? 蒼七と一姫には日本で明るく楽しく暮らせる未来を提供してみせるぜ!
荘六の意志など関係ない。荘六の体でなすべきことをなすだけだった。
感極まった蒼七と一姫の涙が止まるのに7分かかった。
泣き止むと富田は立ち上がり、【空庫】から2つの瓶を取り出し、一つずつ渡した。
「まずは試練に耐えた体を元に戻そう」
「ポーションですか? 緑色はかなり高価と聞き及んでいますが?」
「今は売るほど持っているんだ。まずは飲め」
言われるままに弟妹は緑のポーションを飲み干す。
ポーションは劇的な効果をたちまち示した。
「め、目がはっきりと――元に戻りました!」
「あのあのわたしも足が――複雑骨折し、もうもう治らないと言われていた足が治りました」
歓喜の表情を浮かべ、喜悦の声を張り上げる2人に富田は何でもないように微笑む。
「計画を実行する前に時間があるので2つの試練を乗り越えてほしい。一つは『のんびりと好きなことをやる』という鍛錬だ」
「……『のんびりと好きなことをやる』ことが試練なのですか?」
「簡単ではないぞ? 本当に寛げて楽しいと思えることを探すんだ。これができる者は人生の勝者になれる可能性がずっと上がるんだ!」
「なるほどです! やりとげてみせるのです」
「それからもう一つ、とても大変な試練を授ける! それは栄養をしっかり取って一日10時間は眠ることだ。鍛錬の奥深さを知った今、休むことの凄さも必ずわかるはずだ!」
「な、なるほどです! 今までとは真逆のことを極めよというのですね!」
「まあ! それは難しいかもしれないですね。でもでもきっと荘兄様の期待に応えてみせます!」
「そうだな。それから無駄遣いも覚えるのだ。一人50万でお菓子と漫画とオモチャだけを買うのだ。他に一切使ってはダメだ」
そういって富田は2人に金を渡す。真面目過ぎる2人は少しぐらい堕落する方がいいだろうと考えたのだ。
大金を前に難しい顔をしていた2人だったが蒼七がアッと気づいた顔をする。
「荘兄様、報告が遅れてしまったのです! 司馬寧々様がおいでになっております!」
「司馬寧々……はてどこかで聞いたことがあるような」
富田はまたも大きく戸惑う。再度荘六の記憶にアクセスすると衝撃的なことがわかる。何と司馬寧々は荘六の婚約者であるということであった。