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降臨、玉藻狐

 訓練室――この学院には合計6つの訓練室と呼ばれる場所がある。主には魔法を使った実技を行う場所でもあり、実践に耐えられる硬度や修復機能をもっている施設だ。

 学院で二番目に大きい訓練室が二年生校舎の地下にある。

 富田はびくびくした様子を装って二年生校舎にやってきた。チキンであるが虚勢を張っているといった雰囲気を出しながら歩を進める。

 こうして荘六を演じていると案外楽しめていることに富田は気づく。こんな冴えない役でも一生懸命やっているとやりがいのようなものを感じていく。

 前の世界では演技をする機会もなかったが、他人になりきるというのは案外愉快なことなのだと学ぶ。


 おっといくらなんでもリラックスし過ぎはいかんな


 気を引き締めて地下訓練室に入る。


「失礼する。一年Z組担任の海野荘六だが――」


 入ってすぐに富田は理解する。自分がどんな厄介キャラにからまれたかを。


「おや、ようやくお出ましですか。教師の趣味が覗きとはあきれますこと」


 訓練室に待ち受け、そういったのはミディアムカットの白銀髪をした、深い碧色の眼をした美少女であった。精霊憑き(ファトゥム)と呼ばれる妖精と正式な契約を結んだ稀有な存在である。

 名門の魔法日本第三学院でも精霊憑き(ファトゥム)は極わずかしかいない。

 そして精霊憑き(ファトゥム)の中でも日本で3番目の強さの妖精と契約しているとなるとその重要と注目度は格段に変わる。

 日本で最古といわれる「玉藻狐」と契約したのは17歳の有川郁である。

 有川家も北陸地方で一番の外様大名で、中央政府も一目置く存在であるのだ。おまけに郁は本家の長女だ。郁は一作目から三作目まで登場する、強キャラである。圧倒的な魔力で我が物顔で善も悪も蹴散らす不確定要素のあるポジションだ。

 中でも三作目では二作目で作り上げた組織「魔女會」が協力関係にあったアジア連合を裏切り、本格的に主人公と殺し合うことになる。

 富田の中では「魔女會」は潰すべき組織の一つとなっているが、正直有川郁はどうでもいいキャラだった。確かに影響力のある強キャラで、ルート次第では大きな障害になるがあまりメインストーリーに絡むこともないのでゲームプレイ時は常に無視してきていた。

 だから回避一択で乗り切るつもりである。


「何か誤解があるようだけど、わたしは覗きはしていないんだ!」


 そう富田が言ったところで額に扇子が飛んだ。十分に回避できるが、あえて受けて、怯んだようにふるまう。


「痛っ!? な、何をする?」


「『何する?』とちゃうねんや。まずは謝罪、それ以外は受け付けられん」


 そう関西弁で行ってきたのは有川郁の側近の高殿環璃である。

 有川と同じように白銀髪で瞳が紺碧――水の精霊憑き(ファトゥム)であった。耳の周辺を刈り上げて前髪をアップしたジェットモヒカンをし、目尻が吊り上がった好戦的な雰囲気を醸し出している。

 「金華忍坂部福壽神」という古い狸の精霊と契約しているのだ。

 

「首を地に垂れよ。そこらの教師の身分にて、傲慢なるは愚かなり」


 そういったのも腰まで伸びる白銀髪で、瞳が紺碧色の美少女・茅田梨衣だ。茅田は八つ目大鼬の宿る霊剣「妙行寺内匠頭」と契約している。

 三人の少女は十代の学生とは思えぬ強烈な殺気を宿していた。一族を代表して精霊と契約するという重責がたくましくさせているのだろうと富田は思う。

 同時に大人を屈服させることにも慣れていると感じた。

 おまけに3人ともすこぶる美少女というのも改めて認識する。まあゲームのネームドキャラがビジュアルが映えているのは当然だが、白銀髪のせいかクールビューティの度合いがハンパない。

 ただいきなり土下座はどうか――と思ったがここは一旦距離を取るためにすることに決める。

 膝を折り、両手を床につけて、頭を下げる。


「誤解とは言え、女生徒に不安を覚えさせたことに謝罪しよう。この通りだ!」


 富田が床を見つめていると3人の少女の小さいせせら笑いが聞こえる。

 そして次に平坦で抑揚のない声で有川がいう。


「謝罪は受け入れました。ではこれからはわたしに必ず一日一回は面会に来るのです。そして命じたことは一切逆らわずに受け入れるのです。お分かりですこと?」


「はあ? いや一年の教師が二年の女生徒に毎日会いに行くのはさすがに無理があるだろう。それに――」


 顔を上げた富田の前に純白の二尾の狐が見えた。同時にとんでもない冷気が全身を襲う。瞳の水が一瞬で凍る寒さである。

 圧倒的な魔力と有無を言わせぬ格の違い――伝説の霊獣は一瞬で数千人の命を奪える力の一端を惜しげもなく披露したのだ。

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