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学院のモンスター

 学級開き――初めてのホームルームで富田が感情を高揚させていると素っ頓狂な声が突然響く。


「オデば1年でこの学院締めて、二、三年で日本の魔法業界制覇ずるんで、づいてぎだい奴ば早めにいっでぐれ!」


 独特な口調で話す男はスキンヘッドで耳ピアスの男子生徒であった。北方洋はいわゆるイキり系やられ役である。すぐに他の生徒のヘイトを買って退学させられ、武闘派魔術会「魔天楼」に拾われ、捨て駒扱いで17歳で死ぬ運命にある。

 北方は部下勧誘のために立ち上がって、演説しようとするがそれよりも早く動く者がいた。


「やあやあ我こそは天下の槍術の名門・鳳蔵院流の後継者なのであ~る! この学院には槍術部がないのでせっかくだからわたしが立ち上げ、皆を導こうと決めたのであ~る! わたしの高弟になりたい者は早めに名乗り出るのである!!」


 そういったのは片目を長い前髪で隠し、綺麗な容姿をした男子であった。睫毛が長く小学生に見える童顔で陰で「姫」と呼ばれる笹本裕である。

 笹本を見た数名の女子からすぐに「可愛い!!」と反応が返った。

 が、一番の反応を見せたのが件のスキンヘッド北方だった。


「ぎゃばばばば!! どごぞの『おなべ』が女子にアピールじでいるのがと思っだら『おがま』やろうがよ!! 男女がこの学院でイギでんじゃねえぞ!!」


 高らかに侮蔑する北方に笹本裕が劇的に反応する。富田は笹本のNGワード、絶対に言われたら許せない言葉が「おなべ」だと知っていた。


「我は、我を『おなべ』呼ばわりする奴を許さないのである!!」


 殺気に染まった笹本は手にした定規を北方の喉に突き刺そうと動く。

 完全に殺す気で突きこまれる定規――レベル67の富田は反応できたが動くのを停止する。

 なぜなら額に一筋の黄金の毛を生やした少年が、笹本を抱きとめていたのだ。


「くっ!! 貴様、邪魔をするのでないである!!」


「まあまあそんなビリビリしなさんなよ。俺の名前は眉村光!! そっちのハゲた兄ちゃんもよろしくな!」


 主人公の一人、眉村光は北方にもウインクしてみせた。


「でめ~!! 誰がバゲだ!! 許ざないぞ!!」


 眉村光は太い眉を吊り上げ、全級友に高らかに宣言する。


「俺はクラスの全員と仲良くする気なんでヨロシクな!! ビリビリ痺れる熱い学院生活を送ろうぜ!」


 皆、唖然とした後、大半が眉村光を馴れ馴れしいと罵倒した。

 「言葉が軽い!」「ビリビリってなんだよ!」「なんか昭和っぽくて嫌い」など否定的なコメントが飛ぶ。

 富田はただただ感動するばかりであった。主人公候補が主人公らしくインパクトある行動に出てくれたことに感じ入ってしまったのである。ライブ感がたまらない。


 俺は今、動くドラマの中で生きている!!


 この1年Z組のオープニングドラマに参加できているという事実に単純に魂が震えたのだった。ゲーム中で生きるということの醍醐味をまさに五臓六腑で堪能できたのだ。

 涙腺が刺激されっぱなしの中、富田は出席簿を手にする。初めての出席確認は感無量であった。


「みんな静かに――では初めての出席取ります! 安部アン」


「はいっ!」


 次々と名前を読み上げる中、富田はある事実に気づき、泣き崩れそうになる事態が発生してしまう。

 またもゲームの中に隠されていたドラマに気づき、富田は涙をこらえきれなくなってしまうのだった。


 

「いや、あれはさすがにまずかった。……マジで反省しないとこの後大変だぞ」


 1学年校舎の廊下の窓で富田は一人黄昏る。

 名簿の中に思いもかけぬ者たちがいたのに気づいたのだ。

 山本宗輔、藤沢又三郎、池波平蔵――この3人は三作目の始まりで、日本が各国の魔導機の攻撃を受ける中、主人公に日本産魔導機を渡すために奔走し、殉職する研究者の名前である。

 一作目では主人公と同じクラスだがまったくのモブとして扱われるが、三作目では熱い展開を彩るキャラなのである。

 この3人が一作目からいることを指摘する「マジカルグランドストラテジー」ファンの存在を富田は知らない。作者の夢野が仕組んだ筋書・ドラマであることは疑いようがない。

 三作目の山本、藤沢、池波が好きで注目していたからこそ、気づいた事実であるといっていい。


「マジかよ。最高過ぎる――これはチャンスでもある。よし、あの三人をこのイカれた世界の中でも何としても守り切って見せないと!」


 富田は確かに三作目に感動したが、山本、藤沢、池波が死ぬ未来を変える気になっていく。真面目で向上心がある以外、何の特徴もない3人であったが、主人公をしのぐ強キャラに鍛え上げてしまおうと思う。

 現実の富田は完全に三人組と同じタイプの真面目人間であったからこそ感情移入が深く、シナリオを捻じ曲げてやろうというファイトがわいていく。

 教師である間、できることはないかと考える。

 思いに更けていると、富田は複数の視線が広く自分に向いていることに気づいた。

 一年生校舎の南側の窓の正面には二年生校舎があった。

 その二年生校舎から複数の女生徒が富田を睨んでいたのだ。

 女生徒達の目には憎悪がわいていた。


 ん? 俺、何かやってしまったか?


 富田がそう思っていると、ガントレットが光る。1年C組の副担任の久生顎十郎からであった。


「こん馬鹿! おまえに二年生から『一年の教師が覗きをしている』って苦情が来ている! してねえとは思うが、二年生校舎の訓練室に云って弁明しろ!! ふーけもんが!」


 そうメッセージが来ていた。

 窓の近くで短時間黄昏ていただけで「覗きをしていた」と言われるのは明らかに言いがかりである。

 だが富田もわかっている。この学院では教師よりも立場が上の生徒がいることを――。

 身分差や能力をたてに無理難題、因縁をつけてくる生徒がゴロゴロしているのだ。

 富田は山本たちとの出会いにもう少し浸っていたかったが諦めることにする。

 どんな学院のモンスターに目をつけられたのか、確かめるために訓練所に向かう。

 足取りは軽い。元より近日中に学院はやめる気だったので気楽であった。

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