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作者: まめのき

春らしい陽光になって来ましたね、暖かい、こんな日は昼寝がしたい私です。

平日のお昼時、日が高く上り、公園には子供たちの楽しそうな声が反響している。

私は木陰になっているベンチに腰掛け日差しと人の目から逃れていた。

大の大人が公園に一人で何をしているんですかと問う者もいるだろうが

答えは何もしていないだ。

そんな愉快な私のそばにやってきたのは一匹の猫

どうやらここはこいつの縄張りだったらしい。

今ここを追い出される訳にはいかないので先輩に

ずっと朝からつまんでいた裂きイカをショバ代として払った。

どうやらここを使っていいらしい、そのことに胸を撫でおろし

舐めるように飲んでいたカップ酒を飲み干す。

私の賄賂を食べ終えた猫は満足そうに私の横で眠り始めた。

そういえば、猫の睡眠時間は1日12時間から16時間くらいだったと

変なことを思い出す。

どんだけ寝るんだよ猫。存外活動している猫と出会うのはレアなことなのかもしれない。

精神的になのか年齢からくるものなのか分からないが

時間があっても碌に寝れなくなってしまった私は、

そのことに羨ましいと思いつつ猫の眠りを妨げないよう

体を固くする。


今、私が幸せですかと問われれば幸せですと答えると思う。

薄給で激務の上、人を罵倒するしか能のない上司のいる仕事していても。

友達も恋人も居なくて一人過ごす寂しい日々でも

多少の借金があっても

だだこうして五体満足で生きていいられるだけで幸せだ。

もっと辛い環境にいる人や理不尽な目に遭っている人は沢山いる

ここで私が不幸ですなんて言ったらその人達から反感を買うだろう。

今の状況もいうなれば自分が選んだ道であり

嫌なら努力すればいい、仕事が嫌なら辞めて違う仕事すればいいし

友達も恋人も行動すれば簡単に出来る・・はず。

借金だって返せない額ではない。

いうなれば私の怠惰が招いた結果であり、

それを前面に持ってきて何にも良いことのない人生なんですなんて言えない。

だから私は幸せであるはずだ。

ただ一つだけ言わせてもらえるならば私は人間に向いていないということだろう。

数十年に渡って人間やってきてやっと分かった遅すぎる結論だ。


ボーと目の前の光景を流して見ていると、井戸端会議に花を咲かせていた奥様方と目が合った。

ここは子供の面倒を見るために来ている優しいパパを装って笑顔を返そう。

凄い勢いで帰って行った。

子供を守ろとする親というのは凄いなぁ・・・なにもそんなに睨まなくても。

こんな私が人間社会に適応していますと言ったら

私の横で寝ているこの猫にも笑われてしまう。

いつから人であることを不自由だと思うようになったのだろう。

生まれた時は流石の私も無垢であったと思う。

小学校で主役とモブがいてどうやら私はモブの方だと悟った時か

自分の妻に手をあげるような駄目な父親に気を使うようになった時か

私に唯一好きだと言ってくれたあの子は罰ゲーム中だったと知った時か

会社に入って使えない奴と陰口を言われていると知った時か

そんな奴らにすら嫌われないようしている自分に気が付いた時か

いつ歪んだのかは分からない。

でもこれを他人の所為には出来ない。

私がずっと他人に嫌われないよう嫌われないよう生きてきたからだ。

そうやって勝手に身と心を削って、やっと得られたものは

特別私を嫌いな人はいないが

特別私を好きな人もいないというものだった。

やっぱり人間に向いてないんだろうな、

私は人間をやれる程強くない、ただそれだけのこと。


猫に生まれていたら、もっと自由に生きられただろうか。

一日中寝て、好きな時にご飯を食べて、誰に気を使うこともなく生きる。

そんな自分の考えに苦笑してしまう。

きっと私は猫になろうが、他の猫や絡んでくる人間に気を使って

とてもじゃないが一日ぐっすり眠るなんて出来ない。

食べ物を確保する為に、嫌われないよう嫌われないよう生きるだろう。

それが容易に想像出来てしまう、なんとも私らしい猫だ。

猫だから、自由なのではない。

猫にだって生きる為にいろんな制約があって自由とは言えない。

自由に、種族や立場、性別や年齢なんて関係ない。

本当の自由は心の中にしかないのだから。

ずっと私は自分自身の手で自分の自由を奪っていたことに気が付いた。

いい大人がワンカップ片手に公園で無駄な時間を過ごしたっていいんだ、

それで心を緩めることが出来るなら。

誰がじゃない、私が私自身が私を開放してあげなければいけなかった。

ずっと人の目を気にしていたくせに結局は自分のことしか考えてなった。

その癖、自分のことなんてさっぱり分かっていなくて

猫になったらなんて考えて初めて自分を客観視出来た。


日差しの温かさを感じる。木漏れ日が美しいと思うことが出来る。

そんな当たり前が心を満たしていく。

隣で眠っている気が付かせてくれた先輩に残っていたあたりめを献上し

ゆっくりと立ち上がり背伸びをした。

今なら、16時間くらい眠れそうだと思った。

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