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新天地へ


「げぇ!?お前三人も番がいる上に相手が王弟と第一王子と次期教主!?どんな強運の持ち主だよ!?」


リナリーと取引した男、シドは彼女の正体を知ると体をのけぞらせ顔を歪めた。

思いつめた表情でリナリーは頷く。

強運というより凶運のような気もするが。


「本当に困ったもんよ。……あ。そうだ。誰か私と結婚してくれない?そうしたらあっちも諦めつくかもしれないし」

「そんな化け物と結婚できる男なんていねーよ!」

「心外な。こちとら化け物になりたくてなったんじゃないわよ」


リナリーはぷりぷり怒る。

なんやかんやあり彼女は盗賊たちとすっかり打ち解けていた。

一見変哲もない女性であるリナリーがまさかそんな訳あり人だとは思いもしなかった盗賊たちはどよめく。

そんな中、シドははっと何かに気づく。


「てことは、俺たちもしかして三国を敵に回したってことか……?」


サーッと血の気が引いていく。

実はこの男たち盗賊団を立ち上げたばかりであった。

いつか名をとどろかせる存在になってやろうと息巻いていた彼らだったが、まさかこんな形でとどろかせる羽目になってしまうとは予想だにしていなかった。


「ふざけんなー!せっかく盗賊団立ち上げたばっかだっていうのに完全に国際指名手配犯じゃねーか!」

「いいじゃない。ある意味箔が付くってもんよ。それに次期教主を人質に取ったんだからそれくらいの覚悟あったんじゃないの?」

「一国と三国じゃ規模が違いすぎるだろ!」


頭を掻きむしるシドにリナリーは呑気に手を上下に振った。

完全に他人事の言い方であった。

リナリーの持ちかけた取引はどんなにお金を積まれたとしても割に合わないものだった。

三国の王族からはシドたちはリナリーの逃走の手助けではなく、誘拐犯とみなしているだろう。

安易に取引したことをシドは悔やむが、後悔してももう遅かった。


「とにかく!お前は南の大陸にあるハイビ国で降ろす!これは決定事項だ!」

「えー!このままみんなと一緒に旅がしたいのにー」


犯罪の片棒を担いでしまったリナリーは、もういっそのこと盗賊団にでも入ろうかと考えていた。

しかし、そんなことになればシドたちは一生追われ続けることになりかねないので、それだけはなんとしてでも阻止しなければならなかった。

短期間で盗賊たちと溶け込むリナリーに、これ以上絆されないためにも一刻も早く船から彼女を降すことをシドは決断する。


「……まあ、慰めになるかはわからんが、ハイビ国は自由恋愛推奨の国だからそこで結婚したらいいんじゃないか?」

「え!?そんな国があるの!?」


食い入るように訊く。

番に振り回されずに済むと分かればリナリーはそのハイビ国という新天地に希望を抱くことができる。


「ああ。王直々に推奨しているから安心していいぞ。寧ろ番同士でくっついているほうが稀だし、結婚もしている人も少ないしな」

「へー。やけに詳しいのね」

「ぶぶっ」


リナリーが何気なく発した言葉にシドは居心地が悪そうに顔を歪めた。

それを目にした恰幅の良い男が噴きだす。


「シドはなぁ、自分の番に浮気されたんだよ」

「うるせー!お前だって似たようなもんじゃねぇか!」

「番に浮気されるなんていいことじゃないの」

「お前の価値観は特殊すぎるんだよ!」


賑やかな船旅ではあったがハイビ国に着いたことでそれは終わりを迎えた。

シドはリナリーから貰った金貨からいくらか彼女に返した。


「気にしなくていいのに」

「お前……お金がなくてどうやって生活する気だよ……。いいから受け取っておけって」


受け取らずにいるリナリーにシドは金貨の入った小袋を無理やり押し付けた。

苦笑しながらリナリーはそれを受け取った。

シドはリナリーと一緒に船から降り立ち、王宮街へと彼女を案内した。

アステル国とは違い、太陽が近いのか暑く、リナリーの身体はじわじわと汗を搔き始める。


「俺の幼馴染を紹介するから何かわからないことがあったらそいつを頼ればいい」

「……シドは面倒見がいいのね」

「一度引き受けちまったしなー。それに知り合った以上、お前になんかあったら夢見が悪くなるかもしれねぇし」


シドは盗賊をしているわりに人が良かった。

ぶっきらぼうな物言いだったが人の良さを隠せていないシドが可笑しくてリナリーはふっと笑った。

ハイビ国の門を通ると、すぐに市場が見えてきた。

王宮がある中心街だからか活気にあふれている。

リナリーはアステル国との違いに興味津々で辺りをきょろきょろと見回していた。


「お!ちょうどよかった。リンファ!」


シドが大きな声で誰かの名を呼んだ。

リナリーはシドが見ているほうに顔を向けた。

そこには黒く長いくせっけの髪をなびかせた褐色肌の大きい胸が印象的な女性が店先で籠を抱えて立っていた。

彼女はシドを視界にとらえると、黒い瞳を瞬かせた。


「シド!」


彼女はシドに走り寄った。


「どうしタ?旅に出るって言ってなかったカ?……まさか逃げられた番を取り戻しにきたノ?」

「ちげぇーよ!……頼みがあって来たんだよ。リンファ、こいつの面倒見てやってくれねぇか?」


シドの指さす方をリンファが見ればリナリーが申し訳なさそうに頭を下げる。

リンファの頬に一筋の汗が流れる。

眉根を顰めシドに顔を近づけた。


「やりたいことって女を攫うことだったノ?」

「だからちげぇーよ!成り行きで保護して行き場がねぇから面倒見てほしいだけだよ!ほら、これ駄賃だ」


シドは金貨の入った小袋をリンファに手渡した。

彼女は受け取った袋の紐を解くと中をしげしげと見つめる。

そしてじとーっとした目線をシドに注ぐ。


「……汚いお金カ?」

「あ。それ私から彼への依頼料だから安心して使ってください」


シドが答える前にリナリーが間に割って入った。

依頼の方法は特殊ではあったが嘘は言っていない。

シドはリナリーが間に入ったことに対し安堵していた。


「それじゃあよろしくな。……お前も、元気でな」

「色々ありがとうね~」


リナリーは手を振るとシドは踵を返し船へと戻った。


「相も変わらずお人好しな奴ネ」


シドの後ろ姿を見送るリンファは呆れたように呟いた。

リナリーはシドの姿が見えなくなると改めてリンファに向き合った。


「あの、リンファさん。私リナリーって言います。ご面倒をかけるかもしれませんがよろしくお願いします」

「リンファでいいし、敬語もいらないヨ。こちらこそよろしくネー」


目鼻がくっきりしており、体型もメリハリがあるリンファは大人の色気があり美しかった。

リナリーは普段は自分の体形を気にしたことはなかったが彼女と比べると貧相な体つきをしているなと自嘲気味に笑った。


「住むところもないのよネ?うちに泊まるといいヨ」

「助かるー。本当にありがとう」

「だけどちょっと届け物してから家に帰るから付き合ってもらうことになるけどいイ?」

「もちろん」


リナリーは頷きリンファの隣を歩いた。

街を歩けば行き交う人々がリンファに挨拶する。

男性は時に気にならなかったが女性はリンファと同じような話し方をするのがリナリーは気になった。


「ここの国の女性の語尾は私とは違うみたいね?」

「ハイビでは語尾を印象付けることが美しい女性の喋り方なのヨ」


国によっていろいろな違いがあるんだなぁとリナリーは学んだ。

しばらく歩いているとリナリーは自身の肌がひりひりして痒いような痛みを感じ始めた。


「……なんか日差しが痛いかも」

「あら。肌が赤くなってるネ。ちょっとこっち来テ」


リンファに手を引かれ、近くの洋服店へと入る。

彼女が見繕った衣服をリナリーが身に纏えば白装束の目だけが出た完全防備の姿となった。

若干暑くはあるものの、それ以上に日差しの方が痛いのでリナリーにとっては有難かった。

会計時にリナリーが支払おうとするとリンファが店主とリナリーの間に割り込み、会計を済ませた。


「悪いよ、お金まで出してもらうなんて」

「知ってるでしょ?今の私お金持ちヨ。それにこのお金は貴女に使う予定しかないノ」


リンファは先ほどシドから受け取ったお金を見せ、ウインクをした。

シドといい、リンファといい、二人は人が良すぎる。

二人との出会いにリナリーは心の底から感謝した。

店を出て、改めてリナリーはお礼の言葉を述べた。


「助かったよー。ありがとうねリンファ」

「リナリーは肌が白いから熱に弱いのカ。あとで日焼け止めクリームも用意するからそれまでそれで我慢しててネ」

「うん」


それからリンファのお使いを済ませると、彼女の家へと向かう。

王宮周辺に彼女の家はあるようで、丸みを帯びた形をした王宮に向かって歩いていると前方から徐々に女性の騒がしい声がリナリーの耳に付いた。


「なんか騒がしいね」

「あー。きっとレオンネ。……ほら、前から来るあの集団。あの女性に囲まれた中心にいる男がここの王のレオン。いつも街に来ては女遊びしてるのヨ」


リンファが指さす方を見れば、男性の姿が見える。

20代くらいの男は褐色肌で色素の薄い茶髪は遊ばせ、彫りが深い顔をしている。

鍛えているのかほどよい筋肉は色気を漂わせる。

白いシャツははだけており、軟派な男性だと一目でわかる。


「王様若いね!?」

「ああ。ハイビは王が余生を早く楽しく過ごしたいから戴冠式がめちゃめちゃ早いのヨ」


どこまでも自由な国だった。王が往来を歩き回っている時点で自由すぎるが。

レオンはリンファたちに気づいたようで、手を上げ彼女の名前を呼ぶ。


「リンファ。まさか君に会えるとは……今日はなんてついてるんだろうか」

「それ他の女性にも言ってるの知ってるヨー」

「それにしても君は本当にいつも美しい。まるでハイビ国に舞い降りた女神のようだよ」

「そんなこと言っても一緒に遊ばないヨー」


レオンはリンファの手を取ると流れるように手の甲に口づける。

しかし、彼女は動じず笑顔で彼の誘いを一刀両断した。

レオンは大げさに肩を落とす。


「いつもながらつれない態度だな。……しかし、それでこそ落とし甲斐があるってもんさ」


彼はめげない。

リンファの髪の束を取るとキスを落とす。

リンファは慣れているのか「はいはい」と軽くあしらっていた。

レオンは不敵に笑って顔をあげると、リンファの隣の白装束の人、リナリーの存在に気づいた。


「誰だそれは?」

「あー。この娘は他の大陸から遊びに来たのヨ。リナリーって言うノ」

「初めまして。リナリーと申します」


リナリーは頭を下げる。

レオンは顎に手をやり、ふむと頷く。


「どうしてそんな恰好をしているんだ?」

「日差しで肌が痛いみたいで仕方なくネ。素顔は可愛い娘ヨ」

「へぇ。それはぜひ拝みたいものだ」


リンファの言葉に興味を持ったレオンはリナリー瞳を覗き見る。

思わずリナリーはリンファの背後へと隠れた。

そんな彼女を見てレオンは体を離し、目を瞬かせる。


「逃げなくてもいいだろ」

「身の危険を感じたんじゃなイ?隠れて正解ヨ。じゃあ私たちは今から帰るから、じゃあネ~」


リンファがレオンの横を通り過ぎる。リナリーも慌てて後を追う。

リナリーは少し歩いてからチラリと背後に目を向ければレオンたちは市場の方へと歩き始めていた。


「リンファって王様から迫られてるんだ」

「あれは誰に対してもああヨ。リナリーだって素顔見せれば迫られるヨ」

「ないない」


リナリーは笑いながら手を振った。

彼女はレオンに迫られない自信があった。

なぜならレオンの側にいた女性たちは胸が大きく、セクシーな女性だけであったからだ。

先ほど自分の体型に自嘲気味のリナリーだったが、王からの寵愛を受けなくて済むなら今の体型でよいと思えた。

他愛のない話をしているとリンファの家に到着した。


「狭いけど二人で暮らせるから安心してネー」


リンファは戸を開けリナリーを中に招き入れる。

一人暮らしには少し広い部屋でリナリーが寝泊りするには問題はなさそうだった。

お茶の用意をし始めるリンファに、リナリーは適当にその場に腰を下ろした。

リンファはカップの乗ったお盆を持ちリナリーのもとへ運ぼうとし、はっとした。


「しまっタ!リナリーの日焼け止め買うの忘れてタ!」


リンファはリナリーの白装束を見て思い出し、叫んだ。

リナリー本人も忘れており、彼女の言葉で気が付いた。

リンファはお盆をリナリーの前に置くとすくっと立ち上がった。


「今から買いに行ってくるからリナリーはここで待ってテ!」

「いやいや!いいよ!この服だけで大丈夫だから!」


慌てて出かけようとするリンファをリナリーは引き留める。

日よけには今着ている服で十分なので、これ以上を求めるのは贅沢というもの。

しかし、リンファは強情であった。リナリーの引き留めを無視し外へとでた。


「リンファ会いに来たぞ」

「レオン!」


外に出れば先ほど別れたレオンが不敵な笑みを浮かべて立っていた。

彼の意図が分からずリンファは身構えたが、レオンはそんな彼女の横から覗き込むようにリナリーを見た。


「ほら、あんたにやるよ」


リナリーにレオンは漆の塗られた小さい木の入れ物を手渡す。

素直に受け取りふたを開けてみれば白いクリームが入っている。


「他の国からせっかく遊びに来てくれたんだから、楽しんでもらわないとな」

「え!?もしかしてレオンわざわざクリーム買ってきてくれたノ!?」

「見直したか?」

「見直した見直しタ!」


ふっと笑って髪をかき上げるレオンにリンファは手を叩いて称賛する。

どうやら本当にレオンはリンファにお熱のようだ。

リンファは誰に対しても彼は口説いていると言っていたがリンファに対してはもっと特別な感情があるのでは?と二人のやり取りを見たリナリーはくすりと笑う。

それと同時に、本当にここでは自分が番に振り回されなくていいのだと安堵する。

すっかり機嫌よくなったリンファはレオンにお茶を振舞うと誘い家に招き入れた。

断ることなくレオンはその誘いを受け、適当に腰を下ろした。リナリーもそれに続き、腰を下ろす。


「早速使ってみてはどうだ?」


リンファが鼻歌を歌いながらお茶を用意している姿を眺めていれば、レオンにそう勧められる。


「お気遣い本当にありがとうございます。では、お言葉に甘えて使わせていただきますね」


笑顔でそう返せばレオンは頷いた。

リナリーはクリームを塗ろうとするが自分が全身を衣類で覆われたままであることに気づく。

家のなかなら脱いでも大丈夫だろうとシスターベールのような被り物を脱いだ。

熱がこもっており、リナリーは髪を振り払うため首を左右に揺らした。

早速、クリームを手に取り腕に塗り込んでいるといつの間にか近くにいたレオンがリナリーの顔の横に自身の顔を近づけようとしていることに気が付いた。

既視感を覚え、自然と鳥肌が立ち、リナリーはのけぞった。


「な、なんですか!?」

「あ。いや、すまない。いい匂いだなと思って」


レオンは慌てて身を引いた。

そう言われたリナリーは彼が日焼け止めクリームのことを指していたのだと気づく。

今までの番の男たちが匂いを嗅ぐ行為をしていたのですっかりトラウマになっていた。

勘違いしてしまったことを反省しつつ、リナリーは腕に塗った日焼け止めを目の前に掲げた。


「ああ。確かにこれすごくいい匂いがしますよね」

「ココノリっていう実の匂いヨ。ハイビでしか取れないもので、匂いもいいし美容にもいいからよく使われてるノ」


リンファが笑顔で説明する。

それを聞いたリナリーはなんて素晴らしいものなのだと感動し、肌に浸透するよう何度も塗り込んだ。

そんなリナリーの様子をレオンはじっと見つめていた。




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