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二人目の番パート2

誰も知り合いがいない場所で一人になるのはさすがのリナリーも心細く、自らアルフォンスと隣の部屋になるよう申し出た。

アルフォンスは勝ち誇った笑みを浮かべ、エリックを見た。

エリックは悔しさをおくびにも出さずに、ただただ感情のこもっていない瞳でアルフォンスを見つめ返すだけであった。


「リナリーがそう言うのであれば君の意向を尊重しよう」


すんなりとエリックは引き下がった。

話が分からない男ではないと分かりリナリーは少しほっとした。

案内役の侍女の後ろをついている間、リナリーは現状に気が滅入っていた。

そんなリナリーに対し、隣の部屋を指定されたことで機嫌が良さそうなアルフォンスは彼女の神経を逆なでさせたが、頼りが彼しかいないとなるとなんとも複雑な気持ちではあった。

案内された部屋に到着すると本当にアルフォンスが隣の部屋であるのか確認する。

間違いなく隣の部屋であった。


「初めての添い寝でいささか緊張するな」


リナリーは驚いた。隣の部屋で寝ることは添い寝にはならんやろと。

頬を染め、照れているアルフォンスにまあ本人がそれでいいならいいだろうとリナリーはそっとしておいた。


「それではいい夢を。おやすみリナリー」

「おやすみなさい王弟殿下」


すんなりと部屋の前で別れることができた。

隣りの部屋だからアルフォンスも安心しているのかもしれない。

ごねられたらどうしようと思っていたがどうやら杞憂で終わったようだ。


エリックが用意してくれた部屋は王宮に相応しい豪華な部屋であった。

金の装飾がされた天蓋ベッドはリナリーのテンションをあげてくれた。

リナリーはベッドに思い切りダイブし、その柔らかさを堪能する。

そして、はっとして体を起こす。

急いでリナリーはアルフォンスがいる隣の部屋の壁に耳をつける。

変なことをしていないかの確認のためだ。

物音は一切しない。

王宮の壁が分厚いから聞こえないのだろうとリナリーは安心し耳を離した。

しかし、リナリーは知らない。

彼も同じようにリナリーの向かいの壁に耳をつけていたことを。知る由もない。

リナリーが部屋で寛いでいると王宮の侍女たちがリナリーの部屋へと湯あみの準備をし始めた。

至れり尽くせりのもてなしにリナリーは満足しながら、その日は寝床についた。


微睡みのなか、リナリーは誰かが自分を呼んでいる声がし、目を覚ました。

ぼやっとした視界に金色の丸い何かが現れる。

一人で寝ていたのにおかしいぞとすぐさま覚醒すると目の前にはエリックが微笑みながら自分の顔を覗き込んでいる。


「目が覚めたかい?」


天使のような微笑みでリナリーに訊く。

彼は白い寝衣姿で束ねている髪を今は解いておりサラサラの髪が布団の上に流れ落ちおり、彼のリナリーを見る目は艶っぽい。


「ぎゃー!!!」


神秘的な美しい姿ではあったが、男が急に隣で添い寝しているのだ。

そりゃもう悲鳴をあげて驚くだろう。リナリーの感性は正常であった。


「リナリー!!大丈夫か!?」

「ぎょえー!!!」


ドゴォっという破壊音と共に壊された壁からアルフォンスが現れる。

ただでさえエリックの存在に驚かされたというのに、度肝を抜かれる衝撃であった。

破壊された壁のかけらが飛び散り絨毯を汚した。

おびえ震えるリナリーとは対照的に、エリックはやれやれと肩をすくめた。


「まったく。人様の家の壁を破壊するとは……本当に躾のなっていない犬だ」

「婚前の女性に対して夜這いをかけようとしている悪魔がっ。恥を知れ!」

「リナリーは我の番だ。同衾するのは当たり前であろう?」

「リナリーは私の番だ!婚約だって済ませている!」


リナリーの知らないところで婚約が決まっていたらしい。寝耳に水だ。

しかし、リナリー以上に婚約という言葉に反応したのはエリックであった。

すっと表情をなくした彼の冷たい眼差しがアルフォンスへと向けられる。


「発言には気を付けたほうがいい。我が国にはアステル国との和平に疑問を抱いている人間も存在しているということを肝に銘じておくのだな」

「その時は貴様の首をリナリーに捧げてやろう」

「(いらねー!!)」


不敵に笑うエリックに帯刀している剣に手をかけ睨むアルフォンス。

首の贈り物をもらえるかもしれないリナリー。

こういうのを三つ巴というのかもしれない。

にらみ合いは途切れることなく、一触即発の二人にリナリーは正直付き合っていられなかった。

というか、今すぐにでもおうちに帰りたいと思っていた。

そもそも初めから旅行に来るべきではなかったと本気で後悔していた。


「お待ちになってくださいお二人とも!今本当に大事なのはなんなのか考えてみてください。そう!今本当に大事なのは私の気持ちですよね」


考える隙すら与えず、息継ぎなしでリナリーは自分の存在を強調させた。

愛しい女に間に入られた二人はすっかり牙を抜かれてしまう。


「明日私がお二人のどちらかを選びます。なので、今日は、今日のところは矛を収めてください。そしてどうかお引き取りを」


とりあえずは一刻も早く一人になりたいという思いが強く、早く帰れと呪いのように頭の中で念じる。

ダンベルで鍛えていたせいか、はたまた火事場の馬鹿力か、とにかくリナリーは二人の背を出入口へと押しやる。

困惑している二人は抵抗せずに大人しく部屋の外へと出ていった。

二人を追い出しぱたんと扉を閉める。

どすどすと足を踏み鳴らしリナリーはベッドへダイブする。


「(番はヤベェ!!)」


リナリーが改めて出した結論だった。

呪いなのかもしれないと仮説を立てていたが紛うことなく呪いであると断言できるほどの体験をしてしまった。

明日どちらかを選ぶと言ってしまったが、果たしてそれが良いことであるのかリナリーにはわからなかった。

しかし、選ぶと言ってしまった手前それは実行しなければならない。

ようやく一人きりになれたというのに憂鬱のままリナリーは眠りについた。


次の日の朝、侍女たちが着替えの手伝いに現れ、準備を整え部屋を出るとアルフォンスとエリックが待ち構えていた。

二人の顔を見たリナリーはげんなりした。

約束は時間の指定はしていなかったが、早く終わらせてしまいたいという気持ちが強く、朝食のあと三人で話せる場を設けてもらうことにした。


「いいですか? どちらを選んだとしても私の気持ちが優先ですからね。お互い恨みっこなしですよ」


リナリーは正直どちらを選ぶか迷っていたが、なんだかんだでマシな方を選ぼうとした結果、アルフォンスの方に気持ちが傾きつつあった。

とはいえ、ギリギリのところで気持ちが同年代のエリックに傾く可能性も十分有り得るので、取り合ず前置きを二人に伝える。


「ああ。セイル国の幽閉出来る場所は粗方調べはついているからな。リナリーの好きな方を選ぶと良い」


穏やかな表情をしたアルフォンスの言葉にひっかりを感じたリナリーは「ん?」と首を傾げる。

そんなリナリーを気に留めることなくエリックも穏やかな表情を浮かべて口を開く。


「こちらも事前の準備は整えている。安心してリナリーの気持ちを聞かせてほしい」


事前準備ってなんだ!?とリナリーは心の中でツッコミを入れる。

嫌な予感が的中していることを教えるかのように、彼らは棘のあるやり取りを始める。


「それにしてもアステル国は地下に幽閉させる気か?あんなかび臭い場所に入れるなんてリナリーが可哀想だと思わないのか?」

「ふん。塔の上に幽閉させる方が危険ということがわからないのか?あんな外界から目につく場所、侵入し放題ではないか」


リナリーは気づいてしまった。

どちらを選ぼうが自分は幽閉され、しかも選ばなかった方は略奪を画策していることに。

その事実に気づいてしまった今、自分が今から選ぶ選択肢は全く意味のない物になった。

地上か地下か。

二つ選択肢が頭をぐるぐると回る。


絶望しかない二択。

このまま無言を突き通すしか術がないのか。

崖っぷちに立たされたリナリーは小さく呼吸をする。

そんなリナリーを神が不憫に思ったのか、天啓が彼女に下った。

その天啓にリナリーは身を任せるように口を開いた。


「私は修道院に入ります」


アステル国、セイル国、ルード国の国境が交わる場所に修道院は建っており、三カ国を結ぶそこは完全なる中立施設であるためそこで一生を終えれば番同士のわけわからん争いは避けられるであろうとリナリーは考えた。


「二人が争う姿を私はみたくはないのです。私が争いの火種となるのであれば……私は潔く身を引きましょう」


顔の前で手を握り合わせ、天に向かって顔を上げるリナリー。

後に二人は語る。あの時のリナリーは聖女の光を纏っていた、と。

リナリーの決断を両者は止めることができなかった。

なぜなら彼女が望むものが両者の友好であるならばとても受け入れることが出来ないからだ。

どちらのものにもならないのであればということで両者は渋々ながら納得せざるを得なかった。

リナリーの選んだ第三の選択肢は二カ国の王に泣いて感謝され、褒章が授与された。


「(これで安息が訪れた)」


修道院に洗礼を受けたのち、修道服に袖を通したリナリーはほっと息をついた。







とりあえず終わり。

追記:なんか続き書いてたら推しカプが出来たためもう少し書きたいと思います。

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