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シドの憂鬱パート2


船の仕事は夜の見張りがあり、交代制で行われている。

今日は俺とラガの担当だ。先にラガ、そして朝まで俺が担うこととなった。

その時間までは仕事もなく自室で寝て過ごし、時間になれば見張り台へと向かった。

シュラウドを登りラガと代わる。

見張りといっても夜に何かがあることは今までないのでやることと言えば海を眺めることくらいだ。


「シドー!」


交代してしばらく経った頃、見張り台で地平線を眺めていれば聞こえるはずのないリナリーの声がする。

縁から下を覗けば笑顔でシュラウドを登ってきているリナリーがいた。


「おまっ、馬鹿!危ねぇだろ!部屋に戻れ!」

「ここまで登ってきてるんだから降りないよー!」


彼女の言うようにほとんど辿り着きそうなほど上にいるため、暗い中後戻りするよりは見張り台に来る方が安全だろう。

それを見越して声をかける位置を選んだということか。

全く、悪知恵が働くもんだ。

傍まで登って来たリナリーに手を貸し見張り台へと迎え入れる。

彼女はそれはもう上機嫌でニコニコしている。


「一緒に見張りしに来たわよ!」

「お前大人しく寝てろよ……」


彼女の行動力にはとんと呆れてしまう。

とはいえ、来てしまったものは仕方がない。


「朝まで見張りだぞ?」

「朝まで二人っきりだね」

「お前なぁ……」


頬に手を添えぽっと顔を赤らめるリナリー。

見張りなんて面白いものでもないというのに。

薄い羽織しかしていない彼女に俺は毛布を背にかけてやる。


「夜の海は冷えるぞ」

「へへ。ありがとうね」


彼女はかけた毛布がずれ落ちないように手で掴んだ。

二刻ほど過ぎた頃、隣で一緒に腰を下ろしていたリナリーは大きなあくびをした。


「だから寝てればよかったんだよ」

「見張りに興味があったからさ。それに、私も見張りができれば皆の負担が減るでしょ?」

「皆お前に見張りをやらせる気はねぇよ」


仮に緊急事態でここから急いで降りることとなれば足を滑らせる可能性だってありうるのだ。

そんな危険なことを慣れていないリナリーに任せることは出来ない。


「ふふふ。今に海の女になってやるんだから見てなさい」

「はいはい。いいからお前は寝てろ」


得意げに笑う彼女の毛布をかけなおし、俺の体にもたれ掛からせる。

リナリーは一瞬驚いた顔をしたが、すぐに顔を伏せた。


「……どきどきして眠れないかも……」


小さく呟かれた言葉であったが彼女は半刻ほどすると俺に体を預け眠っていた。

日中寝ていた俺とは違い、彼女は働いていたので仕方がない。

海の風は冷たかったが彼女に触れている体の部分はとても温かく感じた。

何事も無く見張りを終え、リナリーと別れ自室へと戻る。

廊下を歩いている際、くしゃみをすれば通りがかりのガダイが笑う。


「なんだかんだでお前優しいよな」

「うるせぇー!」


冷やかしが含まれているであろう言葉に俺は照れているのがバレないように声を張り上げた。

それからもまあ隙あればリナリーは俺に接触してきた。


「シドー!何してるのー?」

「シドー!魚釣りやらない?」

「シドー!シドの好物こっそり多めに取り分けてるからね」


仕事の邪魔することはなく、休憩時間や休日やらを狙っては飽きもせず彼女は俺のもとへと足を運んでいた。

そんなこともあり、仲間たちと集まれば自ずとリナリーの話題が持ち上がる。

今日も仲間たちと床に座り酒を飲んでいればガダイがふいに口を開く。


「リナリー健気だよなぁ。シドにあんなに袖にされてもへこたれずアピールするなんて」

「ほんとほんと。俺がリナリーだったら脈なしで諦めちゃうぜ」


俺は居心地の悪さを感じ、気まずい思いで酒を口に流し込む。

無言でその場をやり過ごそうとしたが、そううまいこといくはずがなく、視線が俺へと注がれる。

残っていた酒を飲み干し、持っていた木のコップを荒っぽく床に置いた。


「まったく。気が休まる時間もねぇよ」

「とかいいつつ~、リナリーに迫られてシドも満更でもないんじゃないか~?」


ニヤニヤと下卑た笑いを向け、からかってくる。

俺はふんっと鼻を鳴らし立ち上がった。


「毎日毎日迫られて……ほんと、いい迷惑だ」

「おいおい。そんな言い方ないだろー」


眉尻を下げたトッチョが俺を咎める。

それに返事を返すことなく踵を返し部屋を後にする。

自室に戻ると閉じた扉に背を預ける。

ーー本当に。本当に……いい迷惑だ。あ、あんなに……。

握り拳を作ればその手はわなわなと震える。


「(俺に好かれようと頑張ってる姿見たらキュンとしちゃうだろうがー!!)」


心のなかで叫び悶え、頭を抱え苦しんだ。

この際だ。正直に言う。めちゃめちゃ俺はリナリーに絆されていた。


あんなに毎日毎日笑顔で名前を呼ばれ、駆け寄ってくれば誰だってこうなる!ああ!絶対になる!

俺の好物を大目に取り分けたとか言って、周りの連中の分を取るんじゃなくて自分の分から取り分けてるとか!健気すぎるだろ!ふざけんな!


興奮気味だった脳は思いのまま感情を吐き出せば、次第に冷静になってきて俺はずるずると座り込んだ。

唯一、唯一彼女の抱えている番だけが難点すぎて悩みのタネだった。


「(王弟、第一王子、教主に王に女王(?)ってなんで王族ばっかりなんだよ!?恋の障害がでかすぎるだろ!!)」


リナリーの気持ちに応えるには俺一人ではどうしようもない問題である。

これらが解決するまでは安心して腰を落ち着かせることもできないのだ。

先の見えない話である。

いつまで経っても応える気がないのに拒絶もせずリナリーの想いを受け続けるのはあまりにも不誠実だ。

あんなに自分を想ってくれている彼女を本当は傷つけたくはないが、遅かれ早かれ傷つけることになる。

彼女のためにも早いほうがいいだろう。

覚悟を決めた俺はすぐにリナリーの部屋へと向かった。


「リナリー話がある」


俺の表情でリナリーは何かを感じ取ったのか何も言わずに頷いた。


「改めて言うが俺はお前と結婚する気はない。だから、俺を想い続けても時間の無駄なんだよ」

「……」

「俺を想ってくれて、ありがとうな」


リナリーは目を伏せる。

重く気まずい空気が流れる。

傷ついているのかもしれないと思うと胸が苦しくなるが、自分で選んだことだ。

この痛みに耐えなければならない。


「じゃあ結婚はしないでいいからチュウして」

「は?」


間の抜けた声が出た。

呆気にとられている俺に構うことなく、リナリーはつま先立ちをすると、顔を上げ瞳を閉じて唇を少し突き出し、頬を赤らめながら唇を指でとんとんと指し示した。


……結婚しなくていいからキスしてってどういうことだ。

というか、こんな取引リナリーにメリットなんてないだろう。


戸惑う俺に、リナリーは祈るように胸の前で手を組み、今か今かとキスを待っている。


……いやいや!結婚しないのにキスなんて駄目だろ!だけど、結婚しないならキスしてほしいって言ってるわけだし……ああ!なんで俺がこんなに悩まなくちゃいけないんだよ!!


頭を抱えて天井を仰ぎ見る。

……ゆっくり深呼吸し、心を落ち着かせ改めてリナリーの顔をチラリ見る。

瞳を閉じピンクの唇を可愛らしく尖らせている。ゴクリとつばを飲み込む。


ここまで待ってくれてるんだし……いいんじゃないかキスしても。


誘惑に俺は揺らいだ。おそらく酒のせいだろう。

誰もいないと分かっているが俺は左右を確認した。よ、よし。誰も見てないな。

緊張のあまりぎこちない動きで上体を屈ませ、リナリーに顔を近づける。

間違って別のところに口付けないようにギリギリまで薄目で彼女の唇を捉え瞳を閉じーー。


ドゴンという大きな音とともに船が大きく揺れた。

すぐに目を開けてリナリーを抱え込み彼女が怪我をしないように床へと倒れ込んだ。

バタバタと廊下を走る音がし、ドアが勢いよく開いた。


「リナリー大変だ!アステル国の船が来たんだけどどうも王弟が乗ってるらしく威嚇射撃したらしい」

「はあ!?なんで王弟が自ら来てるんだよ!?」

「情報によると長期休暇をとったとかなんとか」

「げぇ!?じゃあしばらく王弟相手に逃げなきゃなんねーのかよ!?」


アステルの騎士団長が長期休暇とってんじゃねぇよ!

自分勝手な文句だったがそう思わずにはいられなかった。


「っていうかシドお前ここでなにやってーーなんだ。お取り込み中だったか。邪魔者は退散するぜー」

「は?お前何言ってんだ」


トッチョはニヤニヤしながら俺の抱えているものを指差す。

見ればリナリーはまだキス顔で俺を待っていた。


「こんな非常時にできるかー!」


両肩を掴みリナリーを引き剥がした。







+++


王弟は唐突にハッとした。


「何故か今あの船に射撃しなければいけないような気がする」


そんなよくわからない理由で砲弾を撃ち込めるほど容易く許可は下りない。

指揮官補佐が呆れつつも王弟を止めようと諭す。


「リナリー様が乗っているかもしれない船なんですよ?危険です」

「だから、あの船に当たらないように射つのだ。船を少し揺らす程度で構わない」


それに何の意味が?と指揮官補佐は訝しむがあまり逆らいすぎてもこちらの水面下の動きがバレ兼ねない。

船を転覆させないほど遠くを狙えばよいかと考え言う通りに威嚇射撃を行う。


「これでどうでしょうか?」

「……うむ。どうやら一難が去ったようだ」


満足気に頷く王弟に指揮官補佐は棒読みで「それはよかったです」と返事した。

今日も平和である。






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