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四人目の番パート3


リナリーは用意された部屋へと案内された。

逃げるタイミングを窺うためにすんなりレオンに付いてきたが、リンファのとある言葉を思い出し大量の脂汗が出ていた。

――レオンは女性と乱れた生活を送っている、と。


「あの、レオン陛下の寝室はどちらにあられるのでしょうか?」

「へ!?」


緊張したリナリーは勘違いされてしまいそうな訊き方をしたことに気づいていない。

しかし、今の彼女は貞操を守るために必死であるため仕方がなかった。

リナリーの積極的な誘いにレオンは顔が熱くなったが、小さく深呼吸しこほんと咳ばらいをひとつすると平静を保つ。


「あー。そのー……やはり婚前の交渉はよくないだろう?俺としては共に同衾しても構わないが間違いが起きるともわからない……正直、俺は自分が抑えられる自信がない」

「私の国では!婚前の交渉は固く!禁じられてますので!本当によかったです!」


リナリーは拳を握り締め、力の限り強調させた言葉をハキハキと発した。

あまりの迫力にレオンは圧倒され後ずさりをした。


「そ、そうか。残念だがそういうことであるなら仕方がないな」

「はい。なので同衾するのは一年以上先ですね」

「え?そ、それは少し長いな……」

「固く!固く禁じられてますので!」

「わ、わかっている。リナリーに無理強いはしない」


リナリーは胸の前で手を握り合わせ、固く瞳を閉じて声を張り上げれば、レオンはぎょっとし、慌ててリナリーの肩に手を置き優しく言い聞かせた。

俺が我慢すればいいのだ、とレオンは自制を強いられることとなった。

とりあえず貞操は守られたリナリー。

その代わりにレオンは時間があればリナリーの部屋に頻繁に訪れることとなった。

しかし、同衾するよりマシである。


舞踏会の日から王宮に住むこととなったリナリー。

宮殿内は自由に歩けるものの外に出るとなれば兵士に止められる。

リンファに会えないかと訊くも婚礼の儀まで接触禁止であった。

せめて街に出れないかと兵士に交渉してみたが、彼らはレオンの命令に従う揺るぎない意志を見せた。


「我らはレオン陛下が結婚することを心の底から喜んでいるのだ。今まで遊び歩いていた陛下が公務を優先させ、真摯に向き合っている。なんと素晴らしいことだ」


一縷の望みに賭けてはみたが、兵士たちは真面目であった。

瞳を輝かせ、本来の王の働きぶりに感動しているようだ。

リナリーはこの兵士たちの目がある限り逃走は難しいかもしれないと再確認した。

しかし、兵士が「これで我らの時代が来るというもの」と言葉をつづけ、リナリーは「(ん?)」と首を傾げた。


「ああ。そうだな。これでルルアナはフリーになるのだから、もう陛下を理由に誘いを断られることもなくなるんだ!」

「イーアもきっと傷心しているだろうから一緒に食事に行ってくれるかもしれない!よーし、今日は決めるぞー」


彼らの意志は殊勝なものではなく下心からくるものだった。

兵士たちはレオンが結婚することで彼が囲い込んでいた女性たちがフリーになることを喜んでいるだけであった。

そんな理由もあり、彼らはレオンとリナリーが結婚することに躍起になっているのだ。

つまりリナリーが逃げなければならないのはレオンだけではなく、王宮の兵士たち及び男性陣からも逃げなければならないということ。

あまりの絶望さにリナリーはさすがに一日寝込んだ。


逃亡ができず、ただ日々が過ぎていく。

そんなある日、王宮内の散策をしているとなにやら謁見の間から話し声が聞こえてくる。

謁見の間は扉がなく、中の声が廊下に漏れるのだ。

リナリーが野次馬のように中を覗けばアステル、セイル、リードの紋章の入った衣服を身に纏った兵士たちがレオンと対面していた。

慌ててリナリーは出入り口横の壁に張り付きバレないようにこっそり中の様子をうかがう。


「こちらにリナリーという女性が滞在しているとの情報があり、レオン陛下に捜索依頼の申し出のためはせ参じました」

「……そのリナリーという女性をアステル、セイル、リードの3カ国が探す理由は?」


言い方が完全に指名手配犯のそれであった。

彼らは各国の事情を話す。レオンは黙ってそれに耳を傾ける。


「事情はわかった。見つけ次第報告を約束すると、国に戻り次第そう伝えてくれ」


リナリーは壁に張り付いたままじっとしていた。

兵士たちもまさか壁に張り付いている女がリナリーだとはつゆとも思わずそのまま各国に帰っていった。

リナリーはばれなかったことに安堵していると背後から視線を感じ振り返ればレオンが神妙な面持ちでリナリーを見つめ佇んでいた。


「リナリー。まさか君が、彼らの言う女性なのかい?」

「……ばれてしまっては仕方がないですね。いかにも。私が彼らの探しているリナリーです。まあ、そういう理由もあってレオン陛下とは結婚ができないんですよ」


理由がわかれば身を引いてくれるだろう。

自分の正体を知られることでしかこの状況を打破する方法は見つからなかったので渡りに船だったのかもしれないとリナリーはポジティブに捉えた。


「安心してくれリナリー。婚礼の儀を早めればいいんだ」

「……は?」

「婚礼の儀を急ぎ執り行う!明日には行えるよう手配しろ!」


キビキビと兵に指示をし始めるレオン。

リナリーはぽかーんとしていたが、先程の三国の遣いの兵士とレオンのやり取りを思い出し、衝撃を受ける。


「(約束反故にしようとしてるじゃねーか!)」


三国の遣いにレオンは嘘をついていた。

彼もまたリナリーをやすやすと手放すような男ではなかった。

寧ろ早く繋ぎ止めなければと躍起になっている。

リナリーはようやく番の恐怖から逃れることができたと思ったのにまた振り出しに戻ってしまった。


王宮内が慌ただしくなり、リナリーは部屋へと戻る。

どう逃走するか考え憂鬱になっていれば戸をノックする音がした。

返事をすれば扉が開く。

侍女かと思っていたリナリーは入ってきた人物に瞠目した。


「リナリー、助けにきたヨ」


来訪者はリンファとターニャ、ツミキであった。

リナリーは久しぶりの再会に驚くが、見知った顔を見れば安心して鬱々としていた悩みが吹き飛んだ。

嬉しさで目じりに涙が浮かぶほどであった。


「リンファ―!」

「リナリー!」


両手を広げお互いに抱き着こうとしたが、リナリーの身体はリンファの胸に当たるとバウンドし、床に尻もちをついた。

焦ったリンファがリナリーに駆け寄る。


「リナリー大丈夫カ!?」

「うん!本当に……会えて嬉しいよ……」


二人は見つめ合うとひしっと抱き合った。

ターニャとツミキはふたりとの温度差を感じつつもまばらな拍手を送る。


「それにしてもレオン以外にも番が三人もいるなんて貴女も災難よネー」

「一人でも嫌なのに四人なんて……そりゃあ逃げたくもなるわヨ」


三人はリナリーの事情を知ったようだ。

つい先ほどの出来事であったが、そんなに早く噂が広まったのかとリナリーは首を傾げた。

しかし、そんなことよりも彼女たちが会いに来てくれた嬉しさのほうが勝る。


「でも外部とは結婚が終わるまで接触禁止だったはずなのに……三人とも、私のために危ない橋渡ってまで来てくれたんだ……」

「リナリーが嫌がっているのに見捨ててはおけないヨ」

「みんな……」


リナリーは女の友情を目の当たりにし、目じりに浮かんだ涙を指で拭う。

リンファたちは彼女に安心させるかのような優しい笑みを浮かべる。


「(冗談じゃないヨ!自由恋愛推奨している王が番と結婚すれば国民の自由恋愛が脅かされるじゃなイ!)」

「(絶対阻止するヨ!この自由を謳歌したままの人生を手放したくないんだかラ!)」

「(嫌がることしたら容赦しないって言ったの二。レオンもたまには痛い目みるネ)」


純粋な感情だけでなく、私利私欲も混じっていた。

とはいえ、そんなことは些細なことであった。


「でも助けるって言ってもどうやって?」

「準備は万全ヨ」


彼女たちはウインクをすると懐から木のケースを取り出す。

ふたを開けると中に入っているクリームをリナリーの露出している肌に塗り込み始める。

リナリーは塗られた腕を見れば、肌がリンファたちと同じ褐色肌になっている。

それから服を着替えさせるとハイビ国の少女が出来上がる。


「これで簡単にリナリーだってばれないネ」

「さあ、こっそり王宮から抜け出すヨ!」

「でも中から四人も出てきたら怪しまれない?」

「それも大丈夫。ここには味方しかいないノ」


リナリーは有り余る彼女たちの自信を不思議に思ったが、部屋を出て理解する。

ツミキが兵士に向かってウインクを飛ばすと、彼は熱っぽい目線を彼女に送る。

彼女たちは兵士を篭絡していたのだとリナリーは察した。

王宮からすぐに出るために四人は走り出す。

等間隔に配置されている兵士たちは部屋の見張りのように見て見ぬふりをしている。

流石にこの三人だけで篭絡しているには可笑しい数である。


「だけど私を逃がしたと知られたらあの兵士たちだってただでは済まないんじゃない?」

「大丈夫ヨ。言ったでしょ。ここには味方しかいないのヨ」

「どういうこと?」


聞けばレオンがリナリーと結婚することをよく思っていない人――女性たちが多くいるようで、それは街だけでは留まらず王宮内にもいるのだ。

リナリーのことも遊びであるなら許されたが、本気となると彼女たちも黙っているわけにはいかない。

しかも、結婚しても女遊びはやめないと言っていた彼が、今後一切そういうことはやらないという噂が触れ回ったのだ。

彼女たちはそれが面白くなかった。

そういう経緯で女性陣で徒党を組み、婚礼阻止のために今回手を取り合って動いているというわけであった。

兵士たちも彼女たちに篭絡されており、内部はガタガタなのである。

リナリーはハイビ国の女性は美しさと強かさが兼ね備えられているのだなと感心した。

無事王宮を後にした四人は港の方へと向かう。

リナリーはふいの不安に襲われる。


「気づかれるのも時間の問題かもしれない……。レオン陛下よく私の部屋に来るから……」

「大丈夫大丈夫!今頃レオンの取り巻き立ちが彼に詰め寄って時間稼ぎしてくれてるかラ!」

「きっと今頃、多重婚迫られてるヨー!」

「女は怖い生き物って知ってもらわないとネー!」


笑顔で頼もしい限りの返事をする三人にリナリーは楽しそうに笑った。

港に到着すると、リンファたちは船の中へとリナリーを導き、コンテナ中へ入るよう指示した。

わざわざコンテナを選んだ理由は追跡の手が来てもそうそう見つからないようにするためであった。


「このコンテナに入ってれば北の大陸に行けるかラ。食料とお金と、北は寒いから防寒服とかも用意したから寒くなってきたらこれを着れば大丈夫ヨ。」

「本当に、なにからなにまでありがとう」

「また無事に会えたら女同士で買い物でもいこうネ」

「うん!」


私利私欲に塗れていたリンファたちだが、リナリーにかけたその言葉は心からの誘いであった。

そもそも彼女たちの怒りはレオンに向けられたものであり、被害者であるリナリーには心底同情していた。


「それじゃあ閉めるヨー」


真っ暗闇になり、リナリーはその場に腰を下ろした。

コンテナの大きさはリナリーの身長より少し大きく、正方形であるので狭くはあるがなんとか我慢できそうであった。


「(誰にも捕まりませんように。そして次こそは安息の地でありますように……)」


リナリーの祈りと共に船は動き始めた。






恐らくあと二話で終わり。

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