表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
6/11

【6】殿下? 何故にわたしの部屋に居るのですか?

 その夜、夢を見た。

 それは初等部で起きた出来事だ。


 入学間もなく、先生たちはわたしを囲って何かと褒める言葉を口にする。

 もちろん、褒められて嫌な気分にはならないので、照れながらもわたしは内心嬉しかった。


 平民の出のわたしが、せっかく王立学院への入学を許されたのだから、将来のために真面目に勉強しなくてはならない。先生たちの期待を裏切らないように頑張るんだ。


 だけど、先生たちとばかり話していてはダメだ。

 ここにはわたしと同じ年の子がたくさんいる。一緒に学んで一緒に成長していく仲間たちだ。


 一人っ子のわたしは、同い年の友達ができることが嬉しくてたまらなかった。

 だから早速、声をかけた。


 でも、何故だろう。

 声をかけた子は、ごめんなさいと頭を下げてわたしの許を去っていく。

 他の子に話しかけても同じだ。


 わたしは友達を作りたくて色んな子に声をかけてみるけど、みんながみんな言葉少なめに離れてしまう。


 王立学院に通うことができるのは、優秀な子ばかりだ。そのほとんどが貴族の出で、将来を有望視されている。


 そんな中で、唯一平民の出のわたしは、話しかけるに値しない人間だったのかもしれない。

 身分の差があるんだから当然だ。でもきっとすぐに仲良くなることができるはず。そう思った。


 そんなとき、ヒソヒソ声がわたしの耳に届いた。


『あのこさ、もうまほうがつかえるんだって』

『へー、ほんとに? それぜったいおかしいよね』

『まぞく? とけいやくしてるってはなしだよ』

『あー、そうだったんだ? やっぱりそうだとおもったんだよね』

『っていうかさー、あのこってほんとはばけものなんじゃないの?』


 残念ながら、それは淡い夢だった。

 当時まだ六歳だったわたしは、同級生たちだけでなく、王立学院に通うほぼ全ての貴族の子たちから、共通の敵として認識されていた。


 初等部に入ってからの六年間は生き地獄だった。


 何をしても化物扱いされる。

 言葉もかけてもらえない。こちらから話しかけても距離を取られる。


 そして気付いた。

 これは、わたしが魔法を使えるのが原因なんだ。

 神童と呼ばれなければいいんだ。【虹魔】の称号を貰ったのが始まりだったんだと。


 そう理解したわたしは、その日から魔法を使うのを止めた。

 すると、わたしの周りで変化が起きた。

 中等部に入ると、みんなの態度が変わったのだ。


『ねえ、ノルトレアさん? ちょっといいかしら?』


 なんと、同じクラスの子に話しかけられたのだ。


 嬉しかった。

 魔法を使わなくなったことで、わたしは念願の友達を作ることができる。

 そう思ったのも、ほんの僅かな時間だけだった。


『ノルトレアさんって、子供の頃は神童って呼ばれていたんでしょう? なのにどうして、今はそんなに馬鹿なのかしら?』


 面と向かって、馬鹿と言われた。

 その子がわたしを馬鹿と言った瞬間、教室中で笑い声が木霊した。


 同級生たちは、わたしを笑い者にすることを決めたようだ。

 かつて神童と呼ばれたわたしも、歳を重ねるごとに化けの皮が剥がれ始めた。【虹魔】の称号には不相応だった。もはやただの人、ただの凡人に成り下がった。今では中等部一の馬鹿だと、嘲笑われた。


 初等部の頃には化物と呼ばれ、中等部では馬鹿扱いされる。

 あれだけちやほやしてくれていた先生たちも、わたしが馬鹿だと分かると途端に手のひらを返し、無視するようになっていた。


 ……なるほど。

 ここには、この場所には、わたしの居場所はないってことか。


 平民の出のわたしが望んではならなかった。

 初めから無いものねだりをしていたというわけだ。


 ちょっと褒められたからといって、背伸びして王立学院に行くものではない。そのことをようやく理解した。


 ……でも、もう遅い。

 今更他の学校に行っても、わたしは誰のことも信用できないだろう。


 どうすればいい?


 これ以上、ここには居たくない。

 だったら、答えは決まっている。


 だからわたしは、学院に行くのを止めた。

 そして家に引き籠るようになった。


     ※


 目が覚めた。

 物凄く嫌な夢を見た……。


「……はぁ」


 これはあれだ、昨日、レイト様と言葉を交わしたのが原因に違いない。

 今日はもう、大人しく自宅警備に徹することにしよう。


 そう考えて二度寝をしようとした。

 と同時に、視界の端に映る人物に気が付いた。


「――ッ!?」


 掛布団を捲ってがばっと起き上がる。

 見開いた両の目に映るのは……わたしへと笑顔を向けるレイト様だ。


「やあ、おはよう」

「ど、どど、どうしてここに……わたしの部屋にレイト様が!!」

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ