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【3】みんなの視線が怖いんです

「ど、どっ、どこにわたしを連れて行くおつもりですか!」

「どこに? 学院に決まっているだろう」


 学院って、もしかして王立学院に!?


「どうして!」

「通わせるためだ」

「嫌です! というか進学していませんし! だから学院に行っても通うことはできませんから!」

「そんなことは心配しなくていい。王族パワーでなんとでもなるからな」

「そんなことに王族パワーを使わないでくださいっ!!」


 この国の王族の人は、引き籠りの凡人を裏口入学させるためだけに王族の力を使うつもりなのか!

 常識的に考えて有り得ない! おかしいにも程がある!


「リリア? 何故そんなに拒む? 学院に行きたくないのか?」

「行きたくありません」

「ハッキリ言うじゃないか」

「言いますよ! だってちゃんと言わないと連れて行かれるかもしれませんし!」


 強引なレイト様のことだ。

 学院に行きたくないとハッキリ言わなければ、このまま日の下を歩くことになりかねない。引き籠り生活を送るわたしにとって、それだけは避けなければならない。


「では、どうして行きたくないのだ?」

「……馬鹿にされますから」

「馬鹿にされる? ……リリア、きみがか?」

「はい……」

「いやいや、何故だ? きみは【虹魔】の称号を持っているんだぞ? 五歳の頃には既に神童と呼ばれたきみなら、他の学徒など比較にならないほど優秀なはずだ」

「それは昔の話です!」


 神童と呼ばれたことや、【虹魔】の称号をいただいたこと。

 今のわたしにとっては黒歴史でしかない。


「ご覧の通り、わたしは……神童なんかじゃありません。ただの人……ただの凡人です」

「謙遜するな」

「謙遜なんかじゃありません。わたしは、神童と呼ばれていた頃から……何も成長していないんです」

「成長していない……?」


 わたしの言葉に、レイト様が眉を潜めて反応する。


「七属性全てを発動できるきみが、あの頃と同じだと言うのか?」

「はい。……確かにわたしは七つの属性の魔法を発動することができます。でも、それも初級魔法止まりです。もっと難しい魔法になると、発動することすらできません」

「……だから、馬鹿にされるのか?」


 問われて、わたしは頷いた。

 たとえ七属性の魔法を発動できたとしても、それが初級止まりでは肩透かしだ。【虹魔】の称号を返上した方が利口だと陰口も叩かれた。


 もちろん、返せるものなら返したい。

 けれどもそれは無理な話で、もしもそんなことをしてしまえば、わたしはこの国の決定に歯向かったことになる。だから凡人となった今もなお、わたしは【虹魔】の称号を持ったままになっていた。すると、


「……くだらん」


 ため息を吐き、レイト様が言い捨てた。


「その程度のことで、他の学徒はきみを馬鹿にしているとはな」


 呆れたと言わんばかりの表情だ。

 因みに、わたしを馬鹿にしているのは学生だけじゃなくて学院の先生も含めるんだけど、それを今ここで言ったところでレイト様が頭を抱えるだけなので止めておこう。


「リリア、きみは馬鹿ではない。ぼくからしてみれば、きみを馬鹿にする学徒等の方が余程馬鹿だ。初級魔法しか使えないから凡人だと? 【虹魔】の称号に相応しくないだと? だから何だと言うんだ。たかが一つや二つの属性しか使えないような奴らの戯言など放っておけばいい」


 レイト様は、わたしを励まそうとしてくれているのだろう。

 その気持ちは嬉しい。だけど、馬鹿にされるかされないかだけで、わたしは学院に行かなくなったわけじゃない。


「……でも、みんなの視線が……」


 ぽつりと呟く。


「視線? 視線がどうした?」

「視線が……怖いんです」


 わたしの声を聞いて、レイト様が目を合わせる。その目が、わたしを見る視線が、あのときから耐えられなくなった。


「昔、神童と呼ばれていた頃は、みんながわたしのことを見ていました……。その目は、まるで化物でも見るかのようで……」


 化物。

 それが、幼くして【虹魔】の称号を得ることになったわたしに対する代償だった。


「そんな目を向けていた人たちが、今度は別の……違う目を向けるようになりました」


 その視線は、わたしを嘲る目だ。

 国から【虹魔】の称号を得るほど将来を嘱望されていたというのに、ただの凡人に成り下がったわたしに対する目だった。


 学生や先生、今までずっとわたしを煽てて来た人たち。

 その全てが、わたしを嘲るような目を向ける。手のひらを返されてしまった。


 そして更に、興味を失ったかのように……無視されるようになった。


「だから、あの場所には……学院には行きたくありません。できることなら、家の中にずっと引き籠っていたいんです」

「……ぼくが一緒に居ると言っても、難しいか」

「すみません」


 レイト様が傍に居ようと関係ない。

 外に出るだけで息が苦しくなるし、太陽の下を歩くだけで具合が悪くなる。そしてあの建物を……校舎を視界に映すだけで、わたしは倒れてしまいそうになる。


 だから決して、レイト様が無力なわけじゃない。

 単にわたしが弱いだけなんだ。


「……そういうことなら、仕方あるまい」

「分かっていただけたのですね。ありがとうございます」


 これでようやく家の中に戻ることができる。

 安寧の空間を満喫することができる。そう思った。でも、


「ああ、分かった……。リリア、きみにはぼくが必要だということがな」

「レイト様、わたしの話を聞いていましたか? 全く伝わっていない気がするんですけど?」

「当然だ。きみの話はぼくの心にしっかりと伝わったぞ」

「でしたら――」

「だから安心するがいい。今日は学院に行かない! その代わりと言ってはなんだが、ぼくに付き合ってくれ」

「何故!?」


 学院に行かなくなったのはよかったけど、どうしてレイト様に付き合わなければならないのか、全く意味が分からない。


「まずはそうだな……この先に、ぼくの行きつけの喫茶がある。そこに行こう」

「あ、あの! わたしの意思は!?」

「ああ、楽しみだな!」


 ダメだ、この王子。

 早く何とかしないと、わたしの自堕落な引き籠り生活が崩されてしまう!


 何か理由を付けて断ろうにも、聞く耳を持たなければ言葉に意味はない。

 レイト様はわたしの手を取ったまま、実に楽しそうな表情を浮かべていた。

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