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27話


「エドワード……待て待て、皆がついて来れていない。説明が簡潔過ぎるだろう」


 呆れたようにエドワードに話しかけるアレクに、それだけで普段の二人の仲の良さが窺える。

 フィファナは幾分か緊張を解き、アレクからの補足説明を待つことにした。


「リドティー伯爵も、アサートン侯爵夫妻も困惑している。我々が調べた内容を、順を追って説明せねば……。フィファナ嬢」

「は、はい?」


 突然アレクから視線を向けられ、フィファナは慌てて返事をする。

 すると、アレクは躊躇うような様子を見せながらちらり、とフィファナの友人であるエラとハリーを見やった後、フィファナに視線を戻した。


「タナストン伯爵とのことは……、友人二人には話してある、か……?」

「詳細は伝えておりませんが……エラには離縁をしたい旨を伝えております。それに、リナリーのこともある程度は……」

「ああ、なるほど。……だから侯爵が動いていたのだな」


 合点がいったという様子でアレクが頷く。


「十数年前に起きた事件について、アサートン侯爵が調べていると聞いてフィファナ嬢絡みだとは分かってはいたんだが……。事が事だからな……」

「申し訳ございません。キーティング卿にご報告しておけば良かったですね……」

「いや、大丈夫だ。調べた結果、彼らがフィファナ嬢のために動いているだろうことは推測できた。……今回の結果を二人に話してしまっても大丈夫か?」


 今回の結果。

 それはヨードとの婚姻が取り消しになったことだろうか。

 それとも、タナストン伯爵家とリナリーのラティルド男爵家のことだろうか。

 それを伝えてしまったら、エラとハリーも完全にこの件に巻き込んでしまう、と一瞬考えたフィファナだったが。


(……いえ。巻き込むも何も……今更よね……。とっくにエラも、ハリーもこの件に巻き込まれてしまっているわ……)


 フィファナはエラとハリーに視線を向けて、彼らをしっかり見つめながら口を開いた。


「ごめんなさい、エラにハリー……。貴方達を巻き込んでしまったわ。本当は知らなくても良かったことに巻き込んでしまって、大変な目に合うかもしれないわ……」

「あら。そんなの今更じゃない? 友人が大変な時に巻き込まれた、なんて言葉を使いたく無いわ。巻き込まれたんじゃなくて、私達が自ら巻き込まれに行ったようなものよ?」


 エラはけろっとした態度でフィファナに笑顔を返し、夫のハリーに「ねえ?」と話しかける。

 ハリーもうんうん、と頷いていて。

 フィファナに向かって胸を張った。


「エラの言う通りだよ、フィファナ。友人として当たり前のことをしているだけだ。そんなに悲しいことを言わないでくれ。……それに、我が家は家柄は良いからね。存分に侯爵家の力を使ってくれれば良い」


 エラと同じく、ハリーもけろりとした様子で言葉を返してくれて。

 フィファナは二人に「ありがとう」と笑顔でお礼を告げた。


「──……ならば、この部屋から退出する者はいない、ということでいいな? 順を追って整理していこうか」


 アレクの言葉にフィファナを含め、エドワード以外がこくりと頷いた。




 果実酒や、果実水を傍らに寄せてテーブルを空けたアレクは持参していた書類を広げて見せた。


 皆がその書類に視線を落とし、書類の文字を辿る。

 するとそこには「持ち出し厳禁」と言う文字がいくつかの書類に記載されていて、フィファナはぎょっと目を見開いた。


「──王族のみが閲覧出来る資料室の、更に厳重に保管されている機密情報だな……。今回の一件に関わりがあるため、エドワードに訳を話し、持ち出した」

「今回の一件、に……?」

「ああ。始まりと言うべきか……大公の足がかりの内のたった一つだったのかは分からないが……。リナリーの身分は現在平民だと話したが、もしかしたらそうでは無いかもしれない」

「リナリーが平民では、無い可能性が……?」


 まさか。

 男爵家は罪を犯して処刑された。

 当時幼い子供だったから罪を免れて、命だけは助かった筈だった。

 けれど、それが違うというのであれば。


「──……ラティルド男爵家の故夫人は、結婚前、カートライト公爵家の使用人として働いていた記録があった。……だが、あれ程広大な敷地面積を持つ大公家であり、使用人の数は数多くいた」

「──まさか」


 アレクの説明を聞き、トルソンは嫌な考えに至ったのだろう。

 顔色を悪くさせてぽつり、と呟いた。


「本当か、どうかは分からない……。だが、可能性が無いとは言い切れない。……調べてみた所、当時のカートライト公爵は多くの使用人に手を出していたみたいでな……。もしかしたらリナリーは大公の私生児なのかもしれない」

「だからこそ、ラティルド男爵家はタナストン伯爵家に強気で出ていた可能性がある」


 アレクの言葉に続けるように、エドワードが言葉を紡ぐ。


「恐らくリナリーには尊い血が流れているとか何とか言って、タナストン伯爵家を脅迫か何かしていた可能性が浮上してな……。恐らくラティルド男爵家がリナリーをヨード・タナストンの妻に、と強く出過ぎたのだろう……。そして、男爵家に辟易としていたタナストン前伯爵夫妻は男爵家を処理してしまった……」


 エドワードは肩を竦め、やれやれと言った様子で説明したのだが、これはまだ氷山の一角である。


「で、ですが殿下……。確証はないのですよね……? ラティルド男爵家の夫人が、もしもリナリーを身篭った状態で男爵家に嫁いだとなれば、ラティルド男爵は激昂するのでは?」

「──いや。そうとも言い切れないんだ」


 トルソンの言葉にアレクが首を横に振って否定する。

 そして、アレクの言葉の後にエドワードが続けるようにして言葉を紡いだ。


「当時のラティルド男爵夫人……元は準男爵家の娘だったらしいんだが……。とても優秀で、準男爵とは言え実家は裕福。ラティルド男爵夫人は貴族学園に入学後、優秀でとても美しい女性だったらしく男性貴族達にとても人気だったようでな」

「卒業と同時にラティルド男爵と婚約し、その後二年ほど公爵家に働きに出ていたらしい」

「そして、働いている間に公爵の子を身篭り、そのまま男爵と婚姻。夫人に惚れ込んでいた男爵は生まれて来た娘が自分の血を継いでいないと分かっても、離縁することなど出来なかったのだろう。実際、結婚後も夫人に手を出そうとする貴族男性が多かったみたいだからな」


 アレクとエドワードの口から語られるラティルド男爵家の過去に、フィファナは驚き、呆然としてしまう。

 リナリーの出生の秘密に、ラティルド男爵家の過去。

 アレクとエドワードが語った内容が真実なのだとしたら、確かにリナリーを伯爵家の妻にしようと働きかけるのも無理は無いように思える。


(侯爵家以上の高位貴族は難しいにしても、仕事の都合で関係を持った伯爵家……それに、タナストン伯爵家は歴史は長い家ですものね……。タナストン家と縁続きになることは、何かと都合が良かったでしょうし……)


 フィファナが考えている内に、アレクとエドワードはテーブルに出した書類の中から何枚かを取り出し、分かりやすいよう一番上に載せた。


「ラティルド男爵家を調べて行くうちに、なぜかカートライト公爵家の名が頻繁に出てくるようになってな……。一番初めはラティルド男爵夫妻が罪を犯し、処刑された後。なぜかカートライト公爵家がタナストン伯爵家に事業提携を提案し、融資も行っている」

「今までタナストン伯爵家とは一切関わりの無かったカートライト公爵家が、突然伯爵家と関わりを持つようになった。これだけでは偶然の一致かもしれない、と思う所だが……。恐らく伯爵家が男爵家に何をしたのか……何かの拍子で知ったのだろうな」


 悪党は鼻が利くものだ、とエドワードは吐き捨てるように言い、怒りを滲ませた笑顔で告げる。


「──そうしてカートライト公爵家は他家の弱味を握り、自分の手足として駒として使っていたのだろうな。調べてみればカートライト公爵家がひっそり繋がりを持っている家が複数出てきた。表向きは上手く関わりを隠しているが、細部まで確認すればカートライトの名がどこかしらに出てくる」


 アレクの言葉を聞いたトルソンも、ハリーも硬い表情で書類を食い入るように見つめている。

 その内、ハリーが信じられないとでも言うように、とある書類から視線を上げ、アレクに話しかけた。


「王弟殿下……この書類も、本当ですか……? リンドット伯爵家の名が……」


 リンドット。

 それはマリーが嫁いだリンドット家の名で。

 ハリーもエラも、フィファナと同じく友人の家の名前が記載されていることに少なからずショックを受けている。

 アレクはハリーの問いかけに深く頷いた。


「ああ。間違いではない。……恐らくリンドット伯爵家もカートライト公爵家に弱味を握られて使われている……」

「数年前に、リンドット伯爵領が酷い水害被害にあっただろう? 当時の伯爵……前伯爵に資金援助をしたみたいだ。カートライトのここ最近の関係の結び方は以前に比べて些か雑だ。……時間が無くて急いているのかもしれんな」


 エドワードの言葉を聞いてはいるものの、ハリーもエラも、信じられないと言う気持ちの方が大きいようで二の句を紡げず、ぐっと押し黙ってしまった。


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