火の精は最初で最後の雪の中で舞う
武 頼庵(藤谷 K介)様が主催されている「街中に降る幻想の雪」の参加作品です。
また、しいな ここみ様が主催された「純文学企画」にも参加させていただきました。
世の中の自然は、4つの要素で成り立っており、それぞれに精霊と呼ばれる守護霊がいる。それは、水と風と土、そして火。私はその火の精なのだ。
火の精は、種族なのでそれなりの数がいる。私は今まで必要なところに火を与えたり、反対に不要なところには火を消したり、また火の大きさを調節したりと、元々与えられた役割である火に関することを管理してきた。しかし、火の精はこの世の生き物に比べれば寿命が長いものの、永遠ではない。そのため、火の精にも定年退職と言うものがあるし、死も必ず迎えるのである。そして、私はもう寿命まで100年もないほどに迫っていた。
定年退職した後は、何もすることがなく、ただ宛もなくそこら辺を適当にぶらぶらとしていただけだった。それは楽しいものではなく、ただひたすら退屈であった。そのため、私は何か寿命が尽きる前に、今までしてみたかったことをやろうと思った。それは、雪国に行き、雪を観賞することである。仲良くしていた風や土の精で、雪を見たことがある者達は口を揃えてこう言うのだ――雪はとても綺麗だと。私だってその美しい雪を1度ぐらい見てみたいものだ。周りの火の精達には反対されたが、それを無視して雪国へと向かった。
思い切って飛び出してみたものの、やはり慣れない旅と言うのは大変だ。予め用意していた荷物が重いし、雪国は真反対にあるため、とても遠い。休憩しながら行くものの、なかなか辿り着くことが出来なかった。
3年ほどかけてようやく目的地の目前に辿り着いた私は、呼吸を整えながら目的地の雪国に入った。そこはとても冷たいところでありながらも、一面が真っ白で、みんなが言っていた通り本当に美しいところであった。周りは誰もおらず、いるのは私ただ独り。これは自分がここを好きに遊んで良いと言うことだった。
私はまず始めに雪玉を作って投げてみた。体を思いっきり動かしたのは何時ぶりだろうか。 よく体を動かして働いていた時のことを思い出す。
次に雪だるまを作ってみた。まずは先ほど作った雪玉を転がしてそれぞれ大きさが異なる大きな雪玉を作る。そして、荷物に入れていた木炭で目や眉、鼻、口を、枝で両手を付けて、バケツを上に乗せて帽子にし、手袋を枝の上に乗せ、マフラーは2つの雪玉の間に巻いて完成させた。火に関することしか行ったことがないため、それ以外のものを自らの手で作り上げたことに対して感動を覚えた。
その次は雪兎を作ってみた。まんまるではなく、下は平べったくて楕円型である。そして、椿の葉で耳を作り、南天の赤い実で赤い目を付けた。今までは動物達を見守っていたものの、触れることは無かったので、動物に初めて触れられたような気がした。
雪投げや雪だるま・雪兎作りに疲れた私は、思いっきり大の字になって寝転がった。雪がクッションとなり、全く痛みを感じることはない。空の上からは雪の結晶が降り続いている。それぞれ形に違いがあるものの、どれも目が吸い込まれそうなほど綺麗に輝いていた。そして、雪の層に落ちても新たな姿で美しく存在していた。私はその光景を暫くの間その態勢のまま静かに見守っていた。
そろそろまた遊ぼうと体を起こそうとするが、なかなか起こすことは出来なかった。もう体が弱り始めているのは嫌でも知ることとなった。
勿論火の大敵である水から出来ている雪に触れれば、命を急速に縮めるということは分かっていた。周りに反対されなくてもそうなることは分かっていた。しかし、どうせもう命などすぐに尽きる。それならば、急激に命を削ることになったとしても、最後に楽しいことをしたかった。実際に現在今までで1番楽しくて、生き生きとしている。後悔なんて全くない。
私は力を入れて起き上がる。少しフラフラはするものの、まだすぐに命が尽きるわけではない。ならば、最後には大好きな舞をして私の物語を終わらせたい。
最後の力を振り絞って可憐に舞う。この美しい雪に包まれながら。
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