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フェイント  作者: 坂本健太
5/13

第2幕 躍動

 息子が土曜日の午前中にも登校することとなり、休日にぽっかりと暇な時間ができてしまった。

「ジムに行ってくるわ」


 インターネットで市営運動公園にトレーニングジムがあることを知り、ちょっと通ってみることにした。1回2時間以内で330円。朝8時30分から開いているのがありがたい。入会金や年会費なども不要で、3日坊主になっても損をすることはない。


 おれは結婚と同時にサッカーを引退していた。そのせいか、結婚してから最初の10年は、毎年きっちり2kgずつ体重が増えていった。その後の5年間は、ずっとダイエットを続けているつもりだが、一向にやせる気配がない。毎食必ず野菜から食べるようにしているのに、だ。やはり家族の食べ残しを、代わりに全て食べているのがまずいのだろうか。


 コロナ禍のせいで、土曜日の朝っぱらからトレーニングをする人は多くなかった。ストレッチで体を温める。物心ついた時から体は硬かった。ゆっくり息を吐きながら、前屈や開脚を行い、少しずつ可動域を広げていく。焦りは禁物だ。


 おもりを持たずに、レッグランジとサイドランジをやってみる。5回も続けると、膝がギシギシと悲鳴をあげだす。175cm90kgのDB体形を片膝で支えるには、筋力が弱りすぎている。見よう見まねで、クロスブロックの姿勢を作ってみる。やはり安定しない。股抜きを多く使うフットサルでは、クロスブロックは必須の技術だが、現状では難しそうだ。


 若いころに腰を痛めたせいで、下半身のウエイトトレーニングをすることはできない。ベンチプレスやラットプルダウンで上半身を少しいじめる。かなりブランクがあるので、負荷は軽めにし、回数を多くこなした。最後に自転車を30分漕いだら、汗だくになってしまった。


 土曜日の午後や日曜日には、あいかわらず河川敷に行っていた。息子はやはりサッカーに相当の未練があるらしい。5号球を使い、芝生用のスパイクシューズでシュート練習をする。


 ペナルティーエリアの外から、インサイドキックでボールを高く蹴り上げる。

 ゴールから5~6mまでの距離に近づくと、ボールが回転しながら斜めに落ちてくる。

 最近、息子が凝っているドライブシュートだ。おれの手が届かない位置でゴールネットに突き刺さると、本当にうれしそうな表情をする。


 土曜日に登校しなくてよい日には、卒業したスクールの練習に参加させてもらっていた。

ミニゲームにも混ぜてもらい、楽しそうにボールを蹴っているが、頭1つ分の身長差がある小学生が相手だと、本気でプレイするわけにはいかない。ちょっとぶつかっただけで倒してしまいそうになるし、ボールを思いきり蹴って、顔面にでもぶつけたら大変だ。


 そんな息子を見ていて、おれも覚悟を決めた。

「8月からONESに入るぞ。練習が日曜日だから、次の日学校に行くのがきついかもしれないけど。とりあえず夏休みの1か月やってみて、きつかったらまた別の方法を考える。さっそく明日、シューズを買いに行くぞ」


「わかった」少し浮かない表情で答える。期待よりも不安が多いときによく見せる表情だった。


 8月最初の日曜日、息子を連れて中学校の体育館に行くと、南コーチが1人でゴールを組み立てていた。4か月ぶりに会ったコーチに挨拶をしたあと、

「息子をチームに入れてください。それと、このチームって年齢制限はあるんですか?」

「いえ、中学生以上なら、誰でも入れますよ」

「じゃあ、おれもフットサルやります」と告げた。


「えっ、お父さんおいくつなんですか?サッカーかフットサルの経験は?」

 南コーチが目を丸くして聞いてきた。前回の体験のときは、おれは息子がプレイするのを見ているだけだった。


「49歳です。以前、職場のサッカーチームで、ゴールキーパーを6年やっていましたが、ブランクが15年くらいあります」


 南コーチは少し考えて

「わかりました。ケガには十分気をつけて、無理をせずに頑張ってください。うちのチーム、今、ゴレイロがいないんですよ。助かります」と言ってくれた。


「キーパーも、ちゃんとしたコーチから習ったことはなくて、自己流です。戦力としてはあまり期待しないでください」

 どうやらおれは、南コーチより年上で、チーム最年長ということになるらしい。


 小中学校で4年間(常に2軍)、社会人で6年間(地区リーグの2部と3部を行ったり来たり)サッカーを続けてきた。この数年間、息子の練習につきあっているあいだ中、ぶすぶすとサッカー熱がくすぶりつづけていた。


 大学生の時に腰を痛めていたが、ひざや足首は無傷で残っている。体が重くなり、フィールドプレイヤーとして走り回るのはとてもできないが、ゴレイロだったら……。

 なによりもうすぐ50歳、今を逃せば2度とサッカーができないかもしれない。後悔はしたくない。最後のチャレンジだ。


 もちろん、クラブチームをあっという間に退団してしまった息子が心配だ、という思いもある。南コーチにも「息子は走るのが苦手だ」ということは伝えていたが、フットサルは、考えようによってはサッカーよりきつい。息子が練習についていけるようになるまで、励ましながら、二人三脚でやっていこう。


「じゃあ早速、今日から練習できますか?まずは、いつものリフティングでウォームアップをしましょう」


「え、ゴレイロもリフティングやるんですね……」

 おれのリフティングの過去最高記録は、27回だ。いきなり大きな壁が目の前にあらわれたような気分だ。


 足裏を使ったパス交換や、ボールタッチの練習をした後、3対3のミニゲームにも加わった。

ミニゲームの3セット目の途中で足がもつれ、視界がせまくなってきた。

「やばい、立ちくらみだ」


 あわてて姿勢を低くして、ゆっくりと呼吸する。なんとか倒れなくてすんだが、すぐには立ち上がれない。みんなの邪魔にならないように、全速力で這って、コートの外に出た。


「給水してください」

 南コーチの休憩の合図を聞き、息子が水を飲みに戻ってきた。

「パパ、大丈夫?」

「なんとかね」

 息子も荒い息をしていたが、何度か深呼吸をして水を飲んだら落ち着いたようだ。


 南コーチも様子を見にきてくれた。

「お父さん大丈夫ですか?無理はしないでくださいね」

「いけます」

「わかりました。大丈夫だったら、次はゴレイロに入ってください。

 次は2対2。ピヴォとゴレイロをつけてやります。ピヴォのターンからのシュートありです」


 ジムで少し運動していたとはいえ、まさかフィールドプレイヤーと同じ練習をさせられるとは思っていなかった。


 しかし、ゴレイロの練習ならスタミナはあまり関係ない。急いでニーパッドとエルボーパッドを身に着けた。インターネットで予習し、ゴレイロはグローブを着けないことが多いことは知っていた。ちょっと不安はあったが、とりあえず素手でやってみることにした。


 小学生時代に剣道を、大学生時代にアメリカンフットボールをやっていたおかげで、ボールに対する恐怖心はほとんどない。くわえて、サッカーを合計で約10年、息子専属のゴールキーパーをこの4年ほどやっているので、シュートに対する反応には少し自信があった。


 2対2からのシュート練習なので、まともなシュートが飛んでくることはそれほど多くない。たまに飛んでくるシュートは、両手両足を使ってサイドに弾き飛ばす。


 ゴレイロは、無理してキャッチする必要はない。オフサイドがないため、ボールを持っていない敵の選手がゴールの近くに詰めていることが多い。キャッチミスしたボールを押し込まれるくらいなら、遠くに弾いてしまったほうが安全だということだ。


「あのおっさん、ゴレ専だったのか」

 若いチームメイトの表情が変わった。リフティングもまともにできない、どたばたと見苦しく走っていたおっさんが、急にいきいきとして、次々にシュートを弾き出す。


 この日はゴール枠内に飛んできたシュート17本のうち、11本を弾き出した。ゴールを決められたのは3本。残りのうち2本はキャッチし、1本は腹で受け止めた。


 シュートを腹にぶつけてきた高校生が、すまなそうな顔をして

「大丈夫ですか?」

と聞いてきたから、お腹を2回叩いて

「全然、O.K.」と答えてやった。

 高校生は、不思議そうな顔をして列の後ろに戻っていった。体重90kgの脂肪の壁は伊達じゃない。

 

            *


 練習は、きついというより暑かった。パパも心配していたが、8月はフットサルをはじめる時期としては最悪だった。


 滝のような汗が身体じゅうを流れている。パパは自分の落とした汗で、何度か足を滑らせていた。「ケガしないでよ」と言ってやる。パパがケガをしたら、誰が帰りの車を運転するんだ?


 パパが倉庫からモップを持ってきて床を拭いた後、ゴールの後ろの壁に立てかけていた。

 スクールと違って人数が少ないから、自分の番が回ってくるのが早い。20分おきくらいに、給水タイムがあったからなんとかなったが、頭がぼーっとしているところに「パラレラ」とか「トンパ」とか言われても、よくわからない。


 パパはいつも「スポーツをまじめにやっている人に、悪い人はいない」と言っていたが、

ONESのチームメイトもみんないい感じだった。


 練習によく来ているのは、年上から順に、

 パパより背は低いが、ごつくてよく日焼けしている「丈二さん」。スタミナはあまりないようだ。ピヴォかフィクソに入ることが多い。


 ひょろりと背が高く、色白な「ひろさん」。いつも穏やかで、プレイもスマートだ。長い足を活かしたパスカットやシュートブロックが得意だ。


 高校2年生の「数馬君」はサッカーの経験者で、高校のバスケットボール部にも所属しているらしい。スタミナのお化けだ。パッと見は少し不良っぽいが、話してみるとそんなに怖くはない。


 あとの3人はコーチが運営する小学生チームの卒業生で、フットサル経験が長い。

 高校2年生の「勇樹君」は、1番年下の僕にもよく話しかけてくれる。

 高校1年生の仲良しコンビは「諒君」と「慎介君」。2人ともぼくより背が低い。いつも2人で楽しそうに笑い転げている。


 諒君は時々、強烈なシュートをパパのお腹にぶつけている。ぼくの中ではこの人がエース候補だが、シュートが力任せで、枠を外すことが結構多い。パパも、諒君のシュートが顔面に飛んできたときは「ちょっと怖かった」と言っていた。


 慎介君は足が速く、カウンターを食らったときも、素早くゴール前に戻ってきて、決定的なピンチを救ってくれる。


 当然、みんなぼくより年上で、フットサル経験も長い。足が速くてテクニックもあるので、対戦メニューで勝つのは難しい。


 想定外だったのはパパだ。ぼくがみたところ、ONESで1番DBなのはコーチで、その次がパパだ。走るのは、間違いなくパパが1番遅い。


 なのに、パパがゴールの前に立つと、シュートがほとんど決まらない。確かにパパの体は重くて硬いから、クロスブロックやフェンスはできない。


「ケガするから」と言って、セービングもしない。

 だけど、ゴール前でドリブルしていると、パパが鬼のような勢いで突っ込んできて、はるか彼方にボールを蹴っ飛ばしてしまう。


 コースを狙ってシュートを撃っても、両手両足で弾き飛ばされる。腹や顔面にボールがぶつかってもびくともしない。


 南コーチも感心して

「シュートコースの読みと、反応がすばらしいですね」と言っている。

 パパはすました顔をして

「別にお前のシュートなんか、ぶつかっても全然痛くない」なんて言っている。

 

「今日こそパパからゴールを奪ってやるぞ」

 とりあえず、ささやかな目標ができた。


            *


 ONESの練習の前日は、できるだけ公園に行って体を動かす。夕方からは近所の温泉に行って、温浴と冷水浴を繰り返して血行をよくする。49歳のおっさんにとっては、ケガが1番おそろしい。練習当日も朝から暇をみつけては、ストレッチをして体をほぐす。


 その日は運悪く、どうしても土日の2日間で県外に出張しなければならなかった。高速バスに3時間乗り、帰宅したのは午後5時過ぎ。軽く腹ごしらえをしてから、息子と一緒に体育館に行った。


 ONESは練習開始時にウォーミングアップを兼ねてみんなでリフティングをする。おれも息子の足を引っ張らないようにと、必死でボールを蹴り返す。


 子どもの頃からリフティングは苦手だった。特に左足の甲にボールをまっすぐ当てるのが、どうしてもうまくいかない。

 対面にいた諒君がおれにパスを返そうとしたが、1mほど右にずれた。左足を踏ん張り、懸命に右足を伸ばしたときに、左足のふくらはぎに鋭い痛みが走った。


「あれ、つったかな?」

 と思い、足を曲げ伸ばししたが、一向に痛みはひかない。またも懸命に這って、体育館のすみっこに避難する。


「南コーチ、軽く肉離れしたみたいです」

 これまで、2回ほど肉離れを起こしたことはあったが、いずれも真冬のことだった。まだ暖かいこの時期に肉離れを起こすとは、やはり筋肉が相当劣化しているらしい。


 丈二さんが様子を見にきて

「ぼくもフットサルをはじめてから、3回くらいやっちゃいました。サポーター巻いておくと、肉離れ予防になりますよ」と教えてくれた。


「そういうサポーター見たことありますけど、ファッションで着けてるんじゃなかったんですね」

 日常生活にはあまり影響なさそうだが、大事をとって1か月ほど練習を休むことにした。


            *


 パパは自分で「1か月間はボールを蹴るの禁止」と言っていたが、その間もぼくの練習にはつきあってくれた。


 痛めていない右を軸足にして、左手でボールを投げれば、あまり痛くないらしい。ゴールに入ったボールは投げ返してくれたが、入らなかったボールは全部自分で拾いに行かなければならない。


 走るのは、相変わらず得意ではない。

 パパも「身長が伸びるこの時期に、激しいトレーニングをするのはあまりよくない」

 と言って、無理して走らせようとはしなかった。


 スピードが無いのに、ドリブルで相手を抜くのはたいへんだ。友達と遊びながら「ダブルタッチ」や「股抜き」は練習していたが、フットサルの練習ではなかなかうまく決まらない。


 パパに相談したら、

「間合いと体重移動が大切だ。その2つを考えながら、いろいろ試してみろ」と言われた。


 南コーチは月に1度、平日の夜に練習試合を組んでくれる。終わるのは午後10時過ぎになるし、会場は家からちょっと離れている。


 ぼくが試合に出れるのは「宿題が全部終わっている」ときだけだ。

 ぼくの宿題が終わっていない日でも、パパは

「ゴレイロはおれ1人しかいないからな」と言って、1人で試合に行ってしまう。


 明日は祝日で、学校が休みだ。宿題を提出する必要がない。はじめて練習試合に参加できる。


 相手は社会人ばかりで構成された「ジャガーズ」。見た感じでは、20歳代から40歳代前半のメンバーが多いようだ。


 ゴレイロはサッカーの県1部リーグにも所属しているらしい。アップ時のシュート練習を見たが、至近距離からのシュートを両手でなんなくキャッチしている。両サイドのシュートもきれいな横っ飛びでセービングする。


「すげえな、てつ。あれが本物のゴールキーパーだ。パパのはなんちゃってゴレイロだ。あんなすげえシュート、パパには弾くのがやっとだ」


 練習試合は、10分やって5分休憩のセットを、時間がくるまで繰り返す。ONESの今日の参加者は8名。


 最初のセットは高校生4人組が出場。ただし、ゴレイロだけはおっさんだ。


 ピヴォの数馬君は、チームでも1番テクニックがあり、社会人を相手にしてもなかなかボールを奪われない。本当はキック力も凄まじいのだが、ピヴォに入ったときは、あまり自分でシュートを撃とうとしない。

 数馬君からのリターンを、諒君が思いきりシュートしたが、残念ながらクロスバーを大きく超えてしまった。パパが手を叩きながら

「ドンマイ。ナイスシュート」と声をかける。


 ゴールクリアランスからの相手の攻撃は、勇樹君と慎介君が中心になって必死に防ぐ。勇樹君は冷静な判断が、慎介君は俊足を活かした守備範囲の広さが持ち味だ。


 何度か危ない場面もあったが、パパが体のあちこちでボールを弾いてゴールを守った。1セット目は、双方無得点のまま終了。


 休憩時間に南コーチに呼ばれた。

「せっかくだから哲也君も試合に出てみましょう。ピヴォは丈二さん。フィクソはひろさん。慎介君と哲也君が両アラ」


 夢中でボールを追いかけた。練習では、ローテーションやピヴォ当て、パラレラなどを習っていたが、すぐに相手が詰めてくるので、ボールをとられないようにするのが精いっぱいだ。


 1人でボールを持って攻め上がっても、コーナーに追い詰められ、結局は相手にボールを奪われてしまう。パスを出そうとしても、味方もマークを外すために常に動いているから、うまく狙いを定めることができない。正直、どうすればいいのか全く分からない。少し泣きそうになってきた。


「てつ、1回戻せ」

 パパの声がした。とっさにかかとで、真後ろにボールを蹴る。


「ナイスパス」

 ひろさんがフォローしてくれていた。


「てつ、外に開いて。ボールをもらったらすぐ前を見て」

 指示通りサイドラインいっぱいまで開くと、ひろさんからパスが飛んでくる。ターンして前を向く。ピヴォの丈二さんとの間には、相手のフィクソがいる。ダブルタッチで1人かわすと


「てっちゃん」

 逆サイドの慎介君が斜めに上がってきていた。右のインサイドキックでパスを出すと、慎介君がノートラップでシュートを撃った。惜しくもボールは、ポストの右側にそれてしまった。


「いいぞ、てつ。失敗してもいいから、思い切っていけ」

 パパが後ろから声をかけてくれる。

「これがコーチングってやつか」少し落ち着いてきた。


            *


 ジャガーズはもともとサッカーのチームで、希望者だけが週に2度、夜に集まってフットサルをやっているらしい。そのため勝ち負けにはあまりこだわらず、プレイを楽しんでいるようだ。無理してシュートするのではなく、パスやフェイントで相手を崩してからゴールを狙ってくることが多かった。


 ディフェンス陣の頑張りもあり、あまりシュートが飛んでくることはなかったが、やはり経験値も体力も相手の方が上回っている。4セットを終了した時点で、ONESは、3対1とリードされていた。


 息子はまだ戦術がよく理解できていないようで、オフェンスにはうまく関われていなかったが、ディフェンス時には、必死で相手に食らいつき、簡単に抜かれることは多くなかった。


「いいぞ、てつ。間合いを考えて。むやみに足を出すなよ」

 息子の対面が苦し紛れにピヴォに出したボールを、ひろさんが長い足を伸ばして弾いた。


 こぼれ球を慎介君がダイレクトでピヴォの丈二さんへ。丈二さんは体を1度右に振り、フィクソがつられたところを反転して左足でシュート。ゴレイロが横っ飛びでボールを弾く。目の前に転がってきたボールを、息子がゴールのど真ん中に蹴り込んだ。


            *


「てつ、ナイスシュートだったな。初めての練習試合で、しかも相手は県リーグのゴールキーパーだ」


 練習試合からの帰り道、車の中でいつもの反省会を開催した。こういうとき、パパはいつもよかった点を褒めることからはじめる。


「まあ、相手が倒れていたしね」

「そうだけど、落ち着いて枠内にきっちり決めたのは、やっぱりすごいぞ」


「でもパパ、相手が大人だと、どうしても当たり負けしちゃうんだ。どうすればいい?」


「う~ん、パパはあまり当たり負けしたことないからなあ。気をつけてるのは、できるだけ重心を低くして、相手の下からカチあげるように当たるってことかな。あとは、スピードでかわすか、手を使って相手を近づけないようにするとか……」


「でも、スピードには自信ないから。かわすのは難しいよ」


「てつはまだ体ができてないから、当たり負けするのはしょうがない。今度の日曜日に南コーチにも相談してみろ」


「うん、土曜日も河川敷で練習しよう」

 ゴールは小さいし、ゴレイロが上手だとシュートを決めるのはかなり難しいが、サッカーと比べると人数が少ない分、ボールにさわれる回数は多い。なんだか少し、フットサルも楽しくなってきた。


 土曜日は13時頃に息子が学校から帰ってくる。昼食を食べて休憩した後、16時から2時間程度練習する。市が管理する河川敷のグラウンドは、誰でも無料で使うことができるが、クラブチームが予約をして、優先的に使っていることもある。


 その日はたまたま先客がいなかった。秋も終わりに近づいていたから、雑草もあまり伸びていない。

いつもパス交換からはじめて、1対1やクロスボールからのシュートなどを行った後、最後は必ずフリーキックで締める。走り込みやラダートレーニングは、原則やらない。


「今日は色んなドリブルをやってみるぞ」

 カラーコーンを並べて、ダブルタッチや股抜き、カットイン、キックフェイント。ボールタッチはそこそこうまいのだが、お世辞にもスピードがあるとはいえない。無いものねだりをしても仕方ないので、かわりにフェイントの重要性を教えてやった。


「いいか、てつ、サッカーは騙し合いのスポーツだってよく言われるけど、人数が少ないフットサルでは、フェイントはもっと重要だ。てつがフェイントで1人かわしたら、人数的にぐっと優位になる。

 足先だけでフェイントしても、なかなか引っかかってくれない。体重移動とか上半身の動き、視線なんかも使って相手をだませ。簡単じゃあないけどな」


 ゴレイロも同じだ。近くの選手にボールを渡すと見せかけて、空いたところにロングスロー。ニアサイドを固めると見せかけて、ファーサイドに飛び込むなど、攻撃だけでなく守備にもフェイントを活用する。


 河川敷で練習していると、色んな人がボールを蹴りにやってくる。

 1番多いのは親子連れだが、高校生がミニゲームをしていたり、この人ひょっとしたらプロなのでは?と思うような上手な人がリフティングをしていたりすることもある。


 その日は、ミャンマーから技能実習生で来日しているシンさんが、1人で練習をしに来た。息子はアジア系の外国人とはあまり話したことがないらしく、ちょっと腰がひけている。


「ぼくは、ミャンマー人だけで作ったサッカーチームに入っている。今度、日本人のチームと試合があるから、練習しに来た」


 ちょっとなまりはあるが、日本語は上手だ。使い古したスパイクと、表面が大部分剝げたボールを持ってきていたが、リフティングやボールタッチをみたところ、結構レベルが高い。


「一緒に練習しないか?」

 と言ってくれたので、パス交換やフリーキックの練習につきあってもらった。最後は、シンさんが「イングランド式シュート練習」の球出しをやってくれた。シンさんがボールを蹴るところを見ていたら、少し足を引きずっているように思えて、なんだか気になった。


「シンさん、ケガしてるの?」

 と聞くと、シンさんは

「大丈夫、ほとんど治ってるから。もう痛くないよ」

と笑いながら答えた。


 サッカーは世界中で人気のあるスポーツだから、サッカーを続けることで、いろんな国の人と仲良くなれる。


 その後も、シンさんが仲間と一緒に練習しているところに何度か遭遇したが、息子も「こんにちは」と言って、パスを出すくらいには打ち解けている。コーチと相談して、1度練習試合の相手をしてもらおうか……


            *


 ぼくがサッカーを始めて、4年が経っていた。待ちに待った世界大会が開催される年だ。今回は時差の関係で夜中の試合が多かったが、眠いのを我慢して家族みんなで応援した。


 パパは昔からサッカーを観ているだけに

「日本がグループリーグを突破するのは難しいだろう」

と言っていたが、ぼくは、なんとか頑張ってくれるんじゃないかと期待していた。


 学校も世界大会の話でもちきりだった。先生まで授業中にサッカーの話をする。放課後はクラスメイトと公園に集まって、サッカーの練習をした。みんなが日本代表の活躍に熱狂していた。


 今年の世界大会には、意外なおまけがついてきた。同じクラスの甲斐君が

「おれもフットサルやりたい」

と言い出したのだ。甲斐君は陸上部に入っているが、小学生のときはサッカーチームに入っていたし、高等部に進学したらサッカー部に入りたいと言っていた。


 パパに相談すると

「チャンスだ。ONESに誘ってみろ」

と言う。ONESの練習は自由参加だから、毎週来るのは大体7~8人だ。10人集まれば、5対5の紅白戦ができる。


 甲斐君はぼくの家の近くに住んでいるから、パパの車で一緒に練習に行くこともできる。

 年末が近づいたある日、甲斐君が母親と一緒に練習体験に来た。パパも加わり、3人でボール回しなどのウォーミングアップをする。


 甲斐君はリフティングやボールタッチはまだまだだが、ぼくよりもはるかにスピードとスタミナがある。給水タイム中、ぼくとパパがハァハァ言っている間も、平気な顔をしてボールを蹴りつづけていた。


 スクールに通っていたときは、同じクラスの男子は1人もいなかったので、甲斐君がONESに入ってくれたのは非常に心強い。


 練習が終わった後、甲斐君から

「リフティングはどうやって練習すればいいんだ?」と聞かれた。

「わからない。スクールで練習してたら、いつの間にかできるようになってた」

ぼくも、どうすればそんなに足が速くなるのか教えてほしい。


            *


 フットサルでは「股抜き」を狙ってくる相手が多い。南コーチもその1人だ。

 南コーチはひざを壊しているらしく、練習中もみずからプレイをすることはあまり多くない。しかし、この人のシュートはとにかく取りづらい。


 ゴール前で1対1になったときは、腰を十分に落として、両足の幅も少し狭くする。正直、しょっちゅう股を抜かれるのは、ゴレイロにとっては屈辱だ。


「今日こそは」と思って慎重に対処するのだが、いつも気がつくとボールはおれの真後ろを転がっている。


「お父さん、股を抜かれないようにするには、クロスブロックが有効です。あとは、フェンスとかも練習しておくといいですよ」


「はい」体育会出身のおれとしては、コーチの指示に対する回答は、これしかない。しかし、クロスブロックを習得するためには、体重をあと10kgほど落とす必要があるだろう。


 これは推測でしかないが、おそらく南コーチが使っているのは「トーキック」だ。インステップキックやインサイドキックを蹴るフォームから、トーキックでシュートすることにより、ゴレイロの読みとタイミングをはずしているのだと思う。


「南コーチ、みてろよ。今度こそ止めてやる」

 息子に便乗してはじめたフットサルだったが、今の生活の中で、フットサルをやっている時間が1番楽しい。ほかにもいろいろなスポーツを経験してきたが、フットサルが1番だ。


「フレンドリーカップって、おれたちは何をすればいいんですか?」

「お父さんたちには、運営と試合のサポートをやってもらいます。参加費は無料です」


 3月の祝日に、南コーチが運営する小学生チームと合同でイベントを開催するという。おれも息子も特に予定はなかったので「参加する」と返事をした。


 当日はあいにくの土砂降りで、気温もあまり高くなかった。集合時間の午前9時少し前に体育館に到着すると、南コーチが荷物を運んでいた。

「今日はよろしくお願いします。お父さんたちは、まずゴールを出してください」


 折り畳み式のゴールを息子と2人がかりで運び、組み立ててから砂袋で固定する。終わったと思ったら、ペナルティーエリアを示すテープ貼り、得点板の設置と、立て続けに指示され、戸惑いながらもなんとか準備を進めていった。合間を縫うようにして、ニーパッドとエルボーパッドを装着し、軽くストレッチをする。


 親子連れがたくさんやってきたので、受付を設置し、誘導を手伝った。


「おはようございます。今日は小学6年生の卒業を記念して、久しぶりにフレンドリーカップを開催します。

 5チームで予選リーグを行い、上位2チームで決勝戦を行います。勝利が勝ち点3、引き分けは勝ち点1です。


 社会人チームの5人がサポートメンバーに入ります。哲也君親子がAチーム、丈二さんはBチーム、数馬君と勇樹君はCチームに入ってください。


 小学1、2年生はゴール1回につき5点。3、4年生は4点。5、6年生は3点ゲットです。小学1年生は、チームに何人でも入ることができます。


 今日はゲストとして、平峰大のフットサルサークルにも来てもらっています。それでは楽しんでいきましょう」


「そういうことか」

 Aチームは小学6年生5人組だった。そこにおれと息子がサポートとして加わる。


「誰かゴレイロやりたいやつはいるか?」

 念のため聞いてみたが、誰も手を挙げない。


「じゃ、ゴレイロはおれがやるから、あとの6人のうち誰が試合に出るか、話し合って決めといてくれ」

 Aチームは、3試合目と5試合目に出番があり、その後2試合をはさんだ後に、平峰大と対戦することになっていた。


「2試合終わったら、観客席で昼飯だ。子ども達にケガをさせないように気をつけろよ。目標は平峰大に勝つこと。以上」

 息子との打ち合わせの後、パス交換や1対1など、2人で軽くアップをした。


            *


 スクール時代に、いつも小学生相手のミニゲームをしていたので、やりづらいのはわかっていた。ぼくの肩ぐらいの高さに相手の顔があるから、思いきり当たるわけにもいかない。ちょっとぶつかっただけで、倒れてしまう。


 味方も小学生ばかりだ。割と上手だとは思うが、1人で持ち込もうとすることが多く、パスを出そうという意識はあまりない。


 最初の2試合ではぼくは何もできなかったが、パパが決定的なシュートを2回止めてくれたこともあり、なんとか引き分けに持ち込むことができた。試合時間はランニングタイムで8分の前後半だったから、まだあまり疲れてはいない。次はいよいよ平峰大との試合だ。


 おにぎりを食べながら、パパと作戦会議を開く。

「向こうは割とガチだね。2連勝で合計9得点している」とぼくが言うと


「金髪のお兄ちゃんがうまいな。ボールをこねる系だ。ゴレイロは結構前に出てくる。

 てつがゴールしても1得点、小学生がゴールしたら、3得点だからな」

とアドバイスしてくれた。

「わかった」


            *


 小学生中心のメンバーでは、大学生を相手にするのは厳しいようだった。足は長いし、パスやドリブルのスピードが違う。こちらがドリブルで攻めても、中盤ですぐにボールを奪われてしまう。押し込まれる時間が続いたが、なんとか無失点で耐えていた。


 金髪君の強烈なシュートを腹に受けた。足元にボールが転がる。素早く拾って前をみると、ハーフウェーラインの手前にいた息子と目が合った。


 上がっていた敵フィクソの頭を超えるようにふわりとボールを投げると、走り込んだ息子の右前方にポトリと落ちた。


「んんっ!」息子がこれまでのフラストレーションを吹き飛ばすように、右足を思いきり振りぬいた。ゴール右下に弾丸のようなシュートが飛んでいく。


 敵ゴレイロが左手を伸ばして、懸命にセービング。バチンと音をたてて、ボールがゴール前に転がった。


「てつ、惜しい!」

 そこへピヴォの虎太郎君が走り込み、立ち上がろうとするゴレイロの頭上に思いきりボールを蹴り込んだ。


「ゴール。3点!」朝からずっと主審を続けている南コーチの声が高らかに響いた。


            *


 平峰大は、小学生に負けるのを恥ずかしいと思っているようだった。今日はじめてリードを奪われて、顔色が変わっている。


「大人気ないなぁ」

 平峰大の怒涛の攻撃がはじまった。きれいなボレーシュート、セカンドポストへのシュートのようなパス、最後はコーナーキックからパパの股を抜いてシュートを決められた。ぼく達はなすすべもなく、前半のうちに4点をとられ、逆転を許してしまった。


「やっぱり大学生は強いわぁ」

ハーフタイム。小学生のみんなは、あっという間に4点も取られて、沈み込んでしまっている。


「まだ大丈夫、たった1点差だ。こっちがシュートを1本決めれば、一気に3点入って逆転だ。あきらめるな」

 パパが息を切らしながらも手をたたき、みんなを励ますと

「確かに」「そうだった」「まだいけるね」

 小学生の元気がもどってきた。


 平峰大が1点を取ったとしても、小学生に1本シュートを決められるだけで3点が入り、逆転されてしまう。


 そんな判断だったのだろうけど、後半開始時から平峰大はあまり攻めてこなかった。1点差を守りきろうという構えで、こちらが何度攻め込んでも弾き返される。


 息子を呼んで耳打ちをする。

「ポジションチェンジしてフィクソに入れ。パラレラやってみるぞ」


 平峰大のメンバーは、スピードや体力はあるが、足裏を使ってプレイしているのは、金髪君と丸坊主君の2人だけだ。こちらはみんな体は小さいが、フットサル経験は長い。小学生チームでもパラレラくらいは習っているだろう。


            *


 パパのゴールクリアランスを受けたぼくは、右アラの太一君にパスを出して、斜めに駆け上がった。意図を察した太一君が右前方に緩い縦パスを出してくれた。


 ぼくの斜めの動きにとまどった大学生チームのマークがずれた。

 ボールに追いついたとき、敵ゴレイロは目の前まで詰めてきていた。


「シュートコースは、空いていない。ピヴォは?」


 虎太郎君はセカンドポストに入ってくれているが、敵のマークがついている。

「それなら」


 ボールを右足裏でコントロールして、前に押し出す。ゴレイロが縦に反応する。

「と、見せかけて」


 右足をボールの前に着地させ、左足の裏側を通すようにして、バックパス。フリーだった左アラの健吾君へ。


「フリーだ。落ち着け」

「絶対、浮かすなよ」


 健吾君はインサイドキックでゴールの真ん中にボールを転がした。

「ゴール。3点」

「やったー!」


            *


 子どもたちの笑顔が爆発した。グータッチをしながら自陣に戻ってくる。

「最後まで守り切るぞ」太一君が叫んだ。


「みんな下がってゾーンディフェンス。ボールを持っているやつは、2人ではさんで!ボールを奪ったら、相手陣内に持ち込んで、コーナーの近くでキープ」


 息子は必死に相手の前に立ちはだかって、攻撃を遅らせる。おれは、ゴールライン上に陣取ってコーチングに専念した。シュートを2本撃たれたが、ディフェンスがしっかり寄せてくれていたのでコースが甘く、なんなく弾き出すことができた。


 さいわい、残り時間は長くはなかった。虎太郎君がドリブルで敵陣内にボールを運んでいるところで、南コーチの笛が3度響いた。


「6対4。Aチームの勝ちです」

 息子と協力してつかみ取った、初めての勝利だった。


「このまま最後まで勝って優勝しよう!」

 調子にのった健吾君が叫ぶ。みんな大盛り上がりだ。


 ところが・・・・・・

 予選リーグ最終戦の相手は、数馬君と勇樹君がサポートしているCチームだった。ほかに小学3年生が2人と、小学1年生が5人もいた。


「相手が9人もいる。ずるい」

「仕方がない。そういうルールだ」


 ゴレイロの数馬君からのロングスローを、勇樹君が前線でトラップして、小学生にシュートを撃たせる。

 なんとか右手で弾き出したが、こぼれ球にむらがる小学生たち。あっという間の5失点。

その後も同様の作戦で、計4本のシュートを決められ、16対0の惨敗となってしまった。

 1勝1敗2引き分けで勝ち点4。リーグ戦の順位は3位となり、決勝には進めなかった。


            *


 試合に負けた後は、パパと2人で得点板係と時計係をやった。

 決勝戦は平峰大とCチームの対戦だ。当然、数馬君と勇樹君がいるCチームを応援する。

試合は平峰大が優勢に進めて、4対0とリードしていたが、最後の最後に小学1年生がゴールを決め、5対4でCチームが逆転優勝。


 パパが「こういうイベントだから、小学生が優勝するのがいいんだよ」と言った。

「なるほど、大人の余裕ってやつね」


 表彰式とモップがけをすませてから、パパが運転する車で帰宅した。

「平峰大に勝ったときは、ほんとうに嬉しかったよ」


「次はハンディキャップなしで勝ちてえな。南コーチが今度練習試合を組んでくれるって言ってたぞ」

 シャワーを浴び、ストレッチをしてから、晩御飯を食べた。気がついたら朝になっていた。


 まだ春休みが終わらないうちに、平峰大との練習試合が実現した。さすが南コーチだ。仕事が早い。

春休みの宿題は順調にこなしているようなので、息子も連れて行く。甲斐君は今日がデビュー戦だ。


 高校1年生の仲良しコンビと、息子、甲斐君のヤングチームが先発した。もちろんゴレイロだけは、おっさんだ。


 ちなみにアダルトチームは、おれ、丈二さん、ひろさん、南コーチの計4名しかいない。40代以上がもう少し増えたらアダルトチーム対ヤングチームで紅白戦ができるのに……


 甲斐君のスピードとスタミナには目をみはるものがある。息子なら絶対に追いつけない裏へのパスにも軽々と追いつく。ただし、パスがちょっと強いと、うまくトラップできず、ボールが足から離れたところをディフェンスに奪われてしまう。ゴール前でボールを受けたときも、うまくターンしてシュートに持っていくことができない。大丈夫だ、甲斐君。息子もONESに入って約半年。ほんのちょっとだが、スピードもスタミナもついてきた。


 息子と競い合って、ちょっとずつうまくなればいいよ。



 平峰大のゴレイロは、結構前に出てきて攻撃にも参加してくる。おれがゴールクリアランスからピヴォを狙ってロングスローをしたら、数馬君にきれいに渡って、無人のゴールにシュートを決めた。


 おれもパントキックで一発狙ってみようかと思ったが、最近、あまりパントキックの練習をしていないのを思い出して、やめておいた。変なところに飛んでいって、息子や甲斐君の後頭部にでもぶつけたらかわいそうだ。

 土曜日、息子が学校に行っている間に練習しておこう。


「この前は思いきりシュートぶつけちゃって、すみませんでした。お腹、大丈夫でした?」

 金髪の松山君も、見た目は派手だが、話してみると真面目な好青年だった。


「お腹は鍛えているからね。あれくらいのシュートだったら全然痛くないよ」


「お父さんも若いですね。おいくつなんですか?」

「いやいや、もうすぐ50歳になっちゃうよ。髪の毛がこんなだから、ちょっと若く見られるだけ」

 独身時代は丸坊主にしていたが、なぜかママや娘が嫌がるので、最近は

「バリカンで上を6mm、下を3mmにしてください」

 とオーダーする。息子にも

「丸坊主は楽でいいぞ」

 とすすめているのだが、断固として拒否される。


 ONESと平峰大は同じくらいのレベルで、お互いにちょうどいい練習相手だった。その後もたびたび練習試合を行った。


 息子も松山君とは打ち解けることができ、大学生活のことについて色々と教えてもらっているようだった。

「そうだ、てつ。行きたければ大学に行ってもいいけど、できれば地元の大学に通ってもらった方が、経済的には大助かりだ」

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