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高校時代に戻った俺が同じ道を歩まないためにすべきこと  作者: 夜月紅輝


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第289話 先輩のデートプラン

 週末、永久先輩に言われた通りに予定を開けていた俺は駅の広場に来ていた。

 多くの老若男女が利用する駅の混雑は相変わらずであり、週末であれば特に顕著だ。


 待ち合わせを広場の銅像前にしているが、入り乱れる人々で景色が一刻一秒変わる。

 特に今回は、待ち合わせしている相手が相手だ。

 正直、早々見つけられない自信があるのだが――、


「何か失礼なことを考えているようね」


 そう思っていた俺とは違い、先輩は俺を見つけるのは容易であるらしい。

 俺の身長も平均より小さく、それこそその他の男の中では埋もれる存在のはずだが、よく見つけられたもんだな。


「ワタシがあなたを見つけることぐらい大したことないわ。

 もし、見つけられなくなったとしたら、それはワタシがあなたに興味を無くした時かしら」


「人の頭の中を読まないでください。それから悲しいことも」


「だとすれば、せいぜいワタシの興味を引き続けなさい。

 そうすれば、ワタシがあなたの前から勝手にいなくなることはしないわ」


 .......アレ、これって今デレられてる? 遠回しの告白じゃない?

 そう思うものの、先輩の表情がピクリとも反応してないので気のせいだろう。

 この人が攻撃しようとする時って大体自爆覚悟の特攻が多いし。

 ともあれ――、


「おはようございます、先輩。今日はよろしくお願いします」

 

 ある意味、冬本番という季節の中、先輩のモコモコ具合も凄い。

 ロシアの民族衣装ではないが、それを彷彿とさせる服装。


 幼さが見た目に出るも、理知的な瞳と蠱惑的な口元が色気を出している。

 その可愛いと大人っぽいの絶妙なバランス、是非とも写真で収めたいぐらいだ。


「そういう律儀なのは好きよ。少し堅苦しいけどね。

 でもまぁ、えぇ、おはよう」


 俺の挨拶に対し、先輩は透明感ある双眸を向け、わずかにほほ笑んだ。

 瞬間、わずかでも周囲の雑音が消えるような気がしたのだから、我ながらチョロい。

 頬にほんのり帯びる熱をごまかすように周囲へ首を巡らし、


「それで今日はどこへ行くつもりなんですか?」


 今日が先輩とのデートという自覚は、さすがの俺にもある。

 となれば、何か最低限のプランを用意して望もうと気張るのが俺だが、あいにく先輩から「何もしなくていい」とお達しが来ているのだ。


 つまり、それは先輩がデートプランを考えるということで。

 しかし、恋愛経験が俺と一緒でゼロの先輩が一体どんなプランを立てるというのか。


 それが楽しむでもあり、少し不安でもある。

 とはいえ、たぶん先輩のことだから最初は本屋――


「言っておくけど、今日は本屋に行くことはないわ」


「......」


「なんで『え、どうしたんですか?』みたいな顔するのよ。

 確かに、私は本屋大好きっ子かもしれないけど、別にあなたと行く必要はないもの」


「まぁ、そうですけど......」


「それにそんなので時間を潰すのはもったいないわ。

 本を蔑ろにするなんて、自分ながらおかしなことを言ってる気はするけどね」


「では、どこに行くんですか?」


「こっちよ」


 俺の質問には答えてくれず、先輩は左肩にかけた小さめのショルダーバッグを左手でかけ直し、先行して道案内する――かと思いきや、二歩進んだ所で止まった。


 今にもついて行こうとした俺の初動も僅かな身じろぎで終わる。

 一体どうしたんだろうか。何か忘れ物......って雰囲気でもなさそうだ。

 それだったらもう少し慌ててもいいだろうし、だとすれば一体?


「ねぇ、覚えてる? 初詣の時のこと」


「初詣? はい、覚えてますけど......」


 先輩に誘われ、その後琴波さんと会い、さらに流れで玲子さんとゲンキングにも会うで、俺としては忘れられない初詣の思い出となった。


 ましてや、もうすぐ二月が終わるとはいえ、まだ二ヶ月しか経過していないのだ。

 忘れる方が難しいと言えるぐらいで、それがどうしたのだろうか?


「せんぱ――」


 「い」と最後の言葉を言い切る前に、先輩が振り返った。

 頬を上気させた先輩がおずおずと差し出したのは自分の右手。

 視線を彷徨わせ、それでも最終的に俺の顔を視線で射抜くと、


「あ、あの時の続き......エスコートが足りないわ」


「――っ!」


 言葉はどこか上から目線であるが、声が弱々しいために迫力も半減以下。

 むしろ、ツンデレキャラがツンを隠してデレてる感じは可愛いの方が溢れてる。


 そういう意味では、ある意味こっちの方が攻撃力が高いと言いますか。

 途端に、鼓動が激しく脈を波立たせ、厚着してきたのが馬鹿らしく感じるほどには発熱する。


 もうこの時点でつけていた手袋の意味はない。

 むしろ、外気に触れさせれ冷ましたい気分だ。

 しかし、俺は差し出された右手に対し、左手を伸ばせば、


「手袋は取るのが礼儀なんじゃない?」


 険のある視線で指摘された。

 しかし、頬が赤いため、これまた違う威力がある。ダメだ、可愛い。

 最近の俺もよくよく感情に忠実になってきてる気がするな。

 まだ心の中で言ってる分、マシだと思いたいが。


 自分の変化を自覚しながら、俺は左手の手袋を外した。

 瞬間、ホカホカだった左手が冷気に触れ、一瞬ヒヤッとしたがすぐに慣れる。

 サウナの後に水風呂に入って、少しして体が適応する感じに近いか。


「その手袋貸して」


「手袋?」


 改めて手を伸ばしようとした時、先輩が突然手袋を要求した。

 え、今の流れ完全に手だと思ってたけど、まさか勘違い?

 それは、いや、俺の早とちりだったのかぁ.......。


 肩透かしと気恥ずかしさを同時に味わいながら、俺は手袋を渡す。

 それを受け取った先輩は右手――ではなく、左手につけ、


「はい」


 そう、言葉短く、もう一度右手を差し出した。

 確かに、先輩は両手ともに素手だったので寒そうとは思ったが、まさかこれが狙い?

 いや、だとしたら、それはあまりにも――


「策士すぎるだろぉ.....」


「早くなさい」


「あ、はい......」


 実際、先輩がどういうことを考えて行動してるかはわからない。

 なんせ俺の買い被りみたいな、思い込みみたいなことが多々あるからだ。

 しかし、「先輩ならやりかねない」というイメージが俺にはあるわけで。


 俺の中の火力発電やら地熱発電やらが凄い勢いで活発化し始める。

 それによって全身の熱が温度を増し、もはや半袖でいられる気分。

 しかし、突然脱ぐのも不安なので、俺は右手で顔を覆いつつ、そっと左手を差し出し、


「遅いわよ」


 少し尖った言葉を聞きながら、左手のヒンヤリとした感触を味わった。

 しかし、それも束の間、熱が温かい方から冷たい方へ移動するように、先輩の掌から感じる体温も自分の体温と混ざり合って平均値に......ってなんかキモすぎるな、これ。


「――ぃ!」


 そう思った矢先、五指に絡みつくように細い指先が指の付け根を捉える。

 いわゆる「恋人繋ぎ」という状態だ。

 驚きで固まってる俺の手が開いているため、完成度は半分だが。

 確かに、確かにこれは初詣の時と同じだが――、


「今日はもう誰にも邪魔させないわ。あなたもワタシだけを見ること、いい?」


「......は、はい」


「よろしい」


 自分も恥ずかしいだろうに、その朱に染まった顔を、耳を一切隠そうとせず視線をぶつける先輩。

 その視線も恥ずかしさに瞳を揺らし、それでもなお気高くその場に立ち続けている。


 もはやこの時点で一体そのお願いを誰が断れようか。

 少なくとも、リアルでの恋愛経験ゼロの俺には抗いようのない力だ。


 天災に見舞われ自然の驚異に畏怖する一般人のように、今の状況をただ受け入れるしかない。

 そこに、振り回わされてる事実に悪く無いと思えている感情をひた隠しにしながら。

読んでくださりありがとうございます(*‘∀‘)


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