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高校時代に戻った俺が同じ道を歩まないためにすべきこと  作者: 夜月紅輝


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第259話 ゲンキングとゲーセンへ

 初詣が終わり、一年の最終学期が始まった。

 始まったといえ、特に何かあるわけではなく。

 強いて挙げれば、学期末試験が嫌だな~と思うぐらい。


 そんな俺の新年初めての休日は、我が友ゲンキングに捧げていた。

 その理由は、初詣で大した絡みをしていないからというもので。

 いや、それは俺の責任なのかとは思うが......まぁ、結局来てるしなぁ。


「ここだよな」


 いつも利用する駅――の一つ隣の駅。

 言うなれば、隣町の駅にて俺はゲンキングと待ち合わせしていた。

 指定してきたのは、あっちなので詳しいことはよくわからない。


「拓ちゃん、お待たせ!」


 少しすると、ゲンキングが大きく手を振りながら、元気よく現れた。

 服装はニット帽を被り、白いパーカーにジーパンと結構ラフな格好をしている。


 まるで男友達と一緒に遊ぶかのような錯覚に陥るが、見た目が陽キャギャル系なのでそのギャップが割と刺さる。


 もっとも、性根がヲタクなので、可愛らしい恰好も好きであれば、ああいったラフな格好も好きという単にストライクゾーン広めであるだけの話だが。


「待った?」


「いや、さっき来たところ」


 駆け足で近づいてくるゲンキングに、俺は冷える手先をダウンジャケットのポケットに突っ込みながら返答した。

 瞬間、彼女は口元に手を当てて、少しだけ目を細め――


「うわぁ~、テンプレ~。拓ちゃんもモテ男が板についてきたね」


「いや、実際さっきだけど......たぶんゲンキングが一本遅かったぐらいかな?」


 正直に答えると、ゲンキングが「わかってないなぁ~」と肩を竦める。

 それから両手の左拳を腰に、右手の人差し指を俺の顔に向ける。


「いい?拓ちゃん。時に正直に言わない方がいい時もあるんだよ。

 言いたいことがあってもグッと堪えて面白いを優先することも必要」


「俺は一体なんの指導を受けてるんだ?

 っていうか、返答しなかったらしなかったで、それはそれで違うって思うだろ」


「それはそう」


「理不尽」


 俺がそうツッコみをすると、ゲンキングは頬を崩した。

 まるで「そのやり取りを求めてました!」と言わんばかりの笑顔。

 そんな表情をされると、こっちも毒気を抜かれるってもので。


「さぁ、盛大に頑張ってもらおうか。荷物持ち君」


「ゲンキングの仰せのままに」


 そして俺達は出発した。

 とはいえ、俺は未だゲンキングの行く先を知らない。

 なので、いい加減聞かせてもらおう。俺の今日の旅路を。


「どこに行くんだ?」


「そりゃもちろん、ヲタクの聖地秋葉原――と言いたいところだけど。

 今日は普通に、ゲーセンでぬいぐるみやフィギュアを漁る。

 んでもって、日頃のストレスを消化するために拓ちゃんにはサンドバックになってもらう」


 そう言って、その場で軽くシャドーボクシングを始めるゲンキング。

 サンドバックになってもらうと言うが、基本何してもこっちはサンドバックだ。

 もっとも、それでもここ最近は勝率がいい。


「なるほど、放課後の特別版ってことか。

 にしても、最近は逆に俺が勝ってストレス与える側だけど大丈夫そ?」


「ぐぬぬぬ、言うようになったじゃねぇか。

 今日はボッコボコの、けっちょんけっちょんの、ぐっちゃぐちゃの、ドッロドロにしてやるかんな!」


「俺は次第にペースト状にされるのか?」


 ゲンキングから敵視を受けつつ、俺達は早速彼女の行きつけのゲーセンに向かった。

 その場所は休日であるからか、朝から多くの人で溢れている。

 当然ながら、同年代ぐらいの人達も多くいるようだ。


 もっとも、女性の割合は少ないようで、周囲からは妙な視線を送られるが。

 まぁ、ゲンキングが気にしてないので、俺も気にしないようにしよう。


 店の中に入れば、様々なゲーム台が並ぶ中を見ながら、ゲンキングに最初の予定を尋ねた。


「さて、ゲンキング。早速今日のプランを教えてもらおうか。

 まずは何をするつもりなんだ?」


「最初は手慣らしにUFOキャッチャーと行こうじゃないか」


 互いの指先を絡み合わせ、ほぐすように動かすゲンキング。

 その雰囲気は、極端に例えるならばリングに上がる前のボクサーだ。


「手慣らしでそれなんだ......言っておくけど、俺はその類は苦手だぞ?

 上手くいった試しがないし、なんなら普通に買うより高くつくって感じで」


「ふっふっふー、ならばこの太陽神にお任せあれ。

 君の暗く閉ざされたUFOキャッチャー道を明るく照らしてしんぜよう」


 ゲンキングは得意げに言うと、少し歩いた先にあるUFOキャッチャー台に一人駆け足で移動し、パッと100円を投入。

 ガラス越しに見えるのは、某ラノベがアニメ化した際に販売されたフィギュアの箱だ。


 得意げな顔をするゲンキングは、右に動き始めたUFOキャッチャーを目標の位置で押した。

 そして、彼女はUFOキャッチャー台を横から眺め、奥行きを調整しながら再び押す。


 すると、UFOキャッチャーはアームを広げ、降下し始めた。

 それはガッチリとフィギュアの箱を捉えるも、アームは箱の側面を滑って行く。


 あ、惜しい!......と思ったのも束の間、そのアームの先端は箱の開封部分の隙間に滑り込む。


「うぉ、上がった......!」


 俺の予想と反して、UFOキャッチャーはフィギュアの箱を持ち上げた。

 なんというか、アレってあんなに綺麗に持ち上がるもんなんだな。


 UFOキャッチャーが取り出し口に景品を落とす。

 ゲンキングはそれを取ると、それはそれは素晴らしいドヤ顔を俺に向けた。


「ふふん、どうよこれ? この実力! 恐れおののいたか!」


「普通にスゲーな。フィギュアを一発取りしてるとこなんて始めてみた。

 これは素直に脱帽っす。さすがゲンキング。さすゲン」


「ふははは、もっと褒めたまえ!

 んで、気分が良いからもっと我が実力を示してやろうぞ!」


 そう言って、ゲンキングはUFOキャッチャー台を見て周りながら、唐突に台に近づくと100円を投下。

 そこから最低でも5手以内で次々と景品を取っていった。

 UFOキャッチャーのプロだ。プロがここにいる。


 時間経過とともに、俺の両手にはゲンキングが取った景品を入れた袋で溢れていく。

 まさかこんな形で荷物持ちになるとは......にしてもこれ、普通に黒字レベルの成果だな。

 にしても、ゲームセンスがあるとは知っていたが、こんな才能もあったとは。


「どう? 凄くない?」


 ゲンキングが再びドヤ顔を見せる。

 やや赤らめた頬に、小悪魔とでも言うような邪気を帯びた瞳。


 しかしそれでいて、子供のように純白さは、彼女の魅力をこれでもかと表現していた。

 もしかしたらゲンキングが付き合いやすい要因は、陰キャという属性を共有している以外にもあるかもしれない。


「ん? どったの......?」


 怪訝な顔をするゲンキングがこちらの顔を覗いてくる。

 その視線に俺の脳裏を悟られないように少し目をズラしつつ、「あ、いや......」と言葉を漏らしながらも話題を変えた。


「そう言えば、随分と雰囲気明るくなったよな。

 もう以前のダウナーモードは影も形も無くなったというか。

 オンラインゲームをやってる時も......あ、いや、あの時はだいぶキレ散らかしてるわ」


 たまにブーチューブショートで見かける、FPSゲームをするストリーマーのアレだ。

 その言葉に、ゲンキングが眉をひそめた。


「ちょっと、拓ちゃん? わたしはそんなにキレ散らかしてないよ。

 あの時はあのボスがスゲーいやらしい奴だっただけで。

 普段はもう少しおしとやかなはずだよ」


「自分で言うと説得力の無さがこの上ないな」


「なにを~~~~!」


 容赦なく指摘すれば、ゲンキングは俺の肩を殴って来た。

 まるで心の中の不満をぶつけるように。

 しかし、それも数発で止めると、俺の疑問に対する理由を答えた。


「わたしがこうなったのは、絶対に拓ちゃんのせいだよ。

 拓ちゃんがわたしと関わったから、わたしは変わらないといけなくなった」


「......後悔してるか? 俺と関わったこと」


「べっつに~。レイちゃんと一緒にいる以上、必然的に距離感は近くなってただろうし。

 けどまぁ、拓ちゃんがあそこまでお節介だとは思わなかったけど」


 ゲンキングが俺の顔をジロッと見た。

 最初は睨むような目つきも、すぐに柔らかいものに変わっていく。

 そして、「冗談」と言外で伝えるかのように、笑みを浮かべ――、


「だけど、あそこで関わってくれなきゃ、今ほど楽しい学校生活は無かったと思う。

 それだけでもまずは感謝かな。

 わたしは本当の意味で理想のわたしに成れた気がする」


「......そっか。それなら良かった」


「なんか少ししんみりしちゃったね。

 んじゃ、ここからはペース上げてくよ? ついて来いよ、相棒!」


「OK、ブラザー!」


「いや、そこ合わせてよ」


 それから、俺達は気の向くままにゲーセンで遊び続けた。

 ミニバスケのシュートゲームをやったり、二人でガンアクションをやったり、エアホッケーで対戦したりと、それはもう昼飯とか何も考えずに時間を過ごしていった。


 そんなぶっ続けで遊び続ければ、さすがに体力も尽きるもので。

 小学校の時、散々走り回ってた気がするけど、あの時の体力は一体......。


 妙な感慨深さを感じながらベンチに座る俺達二人。

 壁に背中を預け、俺は大きく息を吐いた。


「ふぅー、ほぼ全部やったかな」


「おかげで気が付けば財布がなんだか寒々しい感じになっちゃったけど」


 そう言って財布の中身をチェックするゲンキングが、妙にチラチラ横目で見てくる。

 その声に反応しようとすれば、彼女の方が先に仕掛けてきた。


「ねぇ、最後にプリクラ撮らない?」


「え?」


 俺はその提案に思わず固まった。

 まさか女子からプリクラを提案されるとは。

 とはいえ、それはいいのだろうか?


「どうしたの? もしかしてこういうの苦手だった?」


「あ、いや、そういうわけじゃなくて......その、本当にいいのか?」


 言葉には出来ない不安が、そこにはあった。

 俺とゲンキングは仲が良い。それは自他ともに認めてることだ。


 だが、その距離感は親友以上恋人未満と不安定で、歪んでいて、曖昧だ。

 思い出が良いものばかりとは限らない。

 そして、俺がその思い出を良いものにする保証もない。


「拓ちゃん、考えすぎ。わたしが望むの。それで終わり。いいね?」


 そんな不安が顔に出ていたのか、答えは決まり切っていたとばかりにゲンキングは言った。

 それから仕方なさそうに肩を竦めると、彼女は俺の手を取る。


「わたしが望む思い出に、君はいて」


 そう言って、ゲンキングは俺をプリクラ台の中に連れ込んだ。

 プリクラの中は案外狭い。俺が横にデカいだけかもしれないが。

 いや、これでも勇姫先生のおかげでだいぶ痩せてる方で――


「今は何も考えなくていいよ。ただ楽しもう」


 そんな明後日の言い訳の最中、ゲンキングがやや硬い声色で答えた。

 顔はカメラに向けたまま、横目に見ることもせずに。

 その態度に妙な感じをする部分もあったが、俺は言葉のままに飲み込んだ。


「わかった。作ろう、思い出」


 そして俺はゲンキングの気の済むままに、今日という一日を過ごした。

読んでくださりありがとうございます(*‘∀‘)


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