第254話 安達さんに嵌められたね
「へぇ~、それじゃ年末におばあちゃんとテレビ通話してたのか。
でも確か、琴波さんって引っ越してこっちに来たわけだよね?
年末年始はおばあちゃんの家に帰らなくて良かったの?」
「最初はその予定だったんだけどね。
おばあちゃんの方から『無理して帰ってこなくていい。テレビ通話で顔を見てるから』とか言われて。
まぁ、比較的連絡を取ってる方ではあるんだけど」
「仲が良いんだな」
そういや、自分の祖父母とかどうしてるのだろうか。
母さんからそこら辺の話を聞いたことがなかったな。
よし、今の自分に色々整理ついてみたら聞いてみるか。
そんなことを思いつつ、琴波さんと雑談をしながら、売り場までやって来た。
その場所は相変わらずで、どの時間帯でも人が長蛇の列をなして並んでいる。
まぁ、人が求めてるものなんて大抵一緒というわけなんだろうけど。
「なんか凄い並んでるね......これは時間がかかりそう」
「話してればあっという間だと思うよ。
そういや、琴波さんはおみくじ引いた? 俺はなんと大吉でした」
時間を潰すために、俺は早速話題を提示した。
すると、琴波さんは目線を斜め上にしながら、あごに人差し指に当てる。
そして、何かをハッと思い出すと、突然スマホをポチポチし始めた。
写真でも撮ってあるのかと思ったが、別にそういうわけじゃないらしい。
なぜなら、特にスマホの画面を見せるような様子がないから。
それから、スマホと睨めっこして『ヨシ』と呟くと、目線を俺に向ける。
「確か、中吉だったような......内容は忘れちゃった。
でも、比較的良いことが書かれてた気がする。
確か、『待ち人で来る』って書かれてたよ」
その瞬間、琴波さんは目をキラキラさせながらそんなことを言ってきた。
一方で、俺はその言葉に対してどう返答すればいいかわからなかった。
え、それはその......返答への催促的なコメントでよろしいのですか?
だとすれば、非常に申し訳ないのだが、まだハッキリしたことはなくて。
「拓海君のはなんて書いてあったか覚えてる?」
「なんて......と申しますと、それはその”待ち人”での文章コメントという認識でよろしくて?」
なんか変に敬語みたいな口調になってしまった。
その質問に対し、琴波さんは返答こそしなかったが頷きで肯定した。
つまり、これは......その言葉の内容いかんで何かを判断しようとしている?
「確か、そこの文章では『来ず』とか書かれていたような......あ、財布の中におみくじの結果入れてたかも」
俺は変に深読みすることは止め、財布から大吉のおみくじを取り出す。
それを東大寺さんに見せると、なぜか彼女は食い入るようにそれを見た。
そして、彼女は腕を組み、一人でに何かを納得するように頷いていく。
「ふ~む、なるほど......わからん」
「なら、なんでそんなに真剣に見たん?」
琴波さんから飛び出た言葉に思わずツッコんでしまった。
一体この子は何がしたかったのか。時折行動が謎である。
琴波さんは難しい顔をしながら言った。
「確かね、莉子ちゃんからおみくじの内容を見れば、その......相性.....的なものがわかるって言われたの!
だから、ちょっと見て確かめようと思ったんだけど、その時食べてたからあげの美味しさで半分以上聞き流していたせいで、あんまり覚えてなくて......」
「なるほど......」
おみくじで相性......? これまで聞いたことのない概念だ。
それで相性なんてわかるものなのか?
もしかして、安達さんからからかわれてるんじゃない?
そんなことを思っていると、それを実行した琴波さんは「犯人に事実を確かめる!」と意気込んですぐさまレイソし始めた。
直後、「えー」や「そんなぁ」といった言葉が飛び出し始めたので、おおよそ想像はついた。
「拓海君、うち......騙されてたぁ。
莉子ちゃんから『そんなんあるわけないじゃん』とか言われたぁ」
「うんまぁ、だろうなとは思ったね」
「そんなぁ。相性わかんないじゃん......」
琴波さんは騙されてたことよりも、そっちの方が落ち込む理由に当たるらしい。
そのことに関してはノーコメントで。何か言える立場でもないしな。
「とりあえず、別の話題にしようっか。そうだなぁ......話題、話題は......」
俺が今の分が悪い話題を流そうとすると、突然琴波さんが「あっ、なんか来た」と声を出した。
その声に視線を向けてみると、来たのは人ではなく、返信らしい。
そして、琴波さんはその返信内容を読み上げ始めた。
「えーっとね、莉子ちゃんから続けざまにレイソが来てね。
で、二人でやってみたらってことでなんか文章が送られてきたの。
今読み上げてみるね」
そう言って、琴波さんは内容を読み始めた。その一文がこうである。
「あなたは氾濫した川で人が溺れていることに気がつきました。咄嗟に助けを呼ぼうにも、周りには人がいません。その時、あなたならどのような行動をしますか?」というものだ。
そして、それには四択があり、それぞれ――
A:川の水が落ち着くまで待つ。
B:泳いで助けに行く。
C:ロープを投げて助ける。
D:舟の代わりになりそうなもので助けに行く
.....というのが内容だ。
一見、何かの心理テスのように聞こえる。実際そうかもしれない。
俺が選ぶとすれば、Cが妥当であろう。
Aについて言えば、氾濫した川が落ち着くまでなんて、一体どれだけ時間がかかるか。
どんなに早くても一日以上はかかるだろう。
つまり、確実に溺れてる人は死ぬ。
Bで言えんば、ミイラ取りがミイラになる。
助けに行って一緒に溺れるなんてよくある話だ。
そもそも氾濫した川で泳げるのだろうか。
そして、最後にDについて言えば、氾濫した川で舟の代わりになるものなんてない。
もっと言えば、そんな場所に何を浮かせたところで流されるだけだろう。
つまり、選ぶとしたらCなのだが、正直これもどうかと思う。
ロープの先端に浮き輪をつけたところで、あっという間に流されるだろう。
加えて、溺れた人も川に流される。
そこへピンポイントにロープを投げて、それを相手がキャッチしてくれるだろうか。
「う~ん、なんかどれもダメそうな......」
なので、四択と言いながら、俺の答えはこの中に選択肢はない。
その気持ちに関しては琴波さんも同じであるようだ。
とはいえ、選ばなけば話が進まないので、一旦答えを出そう。
だけど、その答えすら出したくない自分もいる。
なぜなら、出題者があの安達さんだからだ。
「俺はCかな。琴波さんはどう?」
「私は主人公が超人で豪運の持ち主だと信じてBにする。で、答えは.......へ?」
琴波さんが回答してから数秒後、妙な声を漏らした。
顔を急に真っ赤にしては、チラチラと俺の様子を見る。
その反応で俺は察したね。
やはりというべきか、安達さんはからかってきたのだと。
でも、回答した手前答えは気になるので聞いてみよう。
「それでその回答で何がわかるの?」
「へ? あ、いや、別に? なんもわかることはなかよ??」
「めっちゃ目が泳いでるじゃん。そんな動揺する答えでもあったの?」
「全っ然、うちが実は目隠しプレイとか好きかもしれんとかそげんことは......あっ」
語るに落ちる。
琴波さんはその言葉を体現したように、口を滑らし、無事フリーズ。
その瞬間、俺は全てを察した。
あぁ、これはたぶん変態向けの心理テストなのだと。
それもやるとしても、普通同性同士でやる類のネタ心理テストであると。
つーか、これ......琴波さんが俺と一緒にいることを知って送って来たよな?
新年の一発目からなんつー気まずい空気にさせてくれとんじゃ。
そう本人に怒りたいが、こうなってしまった以上もはやどうすることもできない。
特に東大寺さんが意識してしまっている以上、何を話しても反応が悪いのだ。
「えっちでごめんなしゃい......」
そんなことを顔を赤らめながら言わんでくれ。
なんか俺が妙なプレイを巧妙に仕込んでるみたいじゃないか。
もういい加減落ち着いてくれ。全て安達さんが悪いんだから!
そうしてしばしの無言の時間が続いた。
並んでいた俺達はようやく最前列に来る。
つまり、ここからは東大寺さんの買い物で時間を潰せるというわけで――
「あ、拓ちゃん」
その時、名前を呼んだ声に目線を向けた。
目の前には巫女装束に身を包んだゲンキングに玲子さんと、玲子さんに雰囲気が似ている少女がいた。
そして、その玲子さん似の少女は俺を目の敵にするように睨んでくる。
おっと、俺はまだ何もしてないはずだぞ.......?
読んでくださりありがとうございます(*‘∀‘)
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