第251話 うっ、今更ながらこの立場辛れぇ
雑談をしながら、人込みをかき分け、俺達はついに拝殿まで辿り着いた。
巨大な門のくぐった先には、荘厳で威厳を感じる建物がある。
さらに、その前には長蛇の列を作る参拝者の姿もあった。
「これは時間かかりそうだな」
「まぁいいさ、どうせ時間は有り余ってるしな。
それよりも、これ終わったらおみくじでも引いてみないか?」
「いいだろう。この俺の強運を見せてやる」
「ふっ、お前らごときが俺の結果に勝てるわけないがな」
とかなんとか再び雑談を始めながら、数分後に俺達はお賽銭箱の前まで来た。
末広がりと言う意味で8円を賽銭箱に向かって投入。
二礼二拍手の手順で両手を顔の前に合わせると、神様に祈りを捧げた。
確か、こういう場合って神頼みをするんじゃなくて、今年頑張ることを言うんだっけな。
例えば、「今年は英検2級を取ります。頑張るので見守っててください」とか。
となれば、俺の場合は一つしかないだろう。
それはもちろん、今俺を取り巻く環境に決着をつけることだ。
クリスマスの時にも宣言しちまったしな。もう退路はない。
とはいえ、こんな状況になってるやつって俺ぐらいなんじゃないか?
もはや神様も「今更か?」と言わんばかりに笑ってそうだが。
一礼をすると、俺達は早速おみくじへと向かった。
全員がおみくじを持った所で一斉にオープン。
まずは各々でおみくじの内容を見ていく。
「.......ふむ」
最初に見たのは「願望」だが、これは思い通りに叶うらしい。
むしろ、叶ってくれなきゃ困るのだが。
下手したら殺されるぞ......周囲から。
で、「待ち人」は来ず。まぁ、いるしね。それも近くに。
なんだったら、びっくりするほど関わり深いから。
これ以上増えられてもカオス極まれりになるだけなんよ。
最後に。「恋愛」は......相手を見極めよ、か。
今更何をって思ったが、選ぶ立場の人間が真面目にやらないといけないよな。
審査......はさすがに傲慢すぎるな。何て言ったらいいんだろ。
ともかく、俺は自分の心と相談しなきゃいけなさそうだ。
「なぁ、結果はどうだった? 俺は中吉だ」
するとその時、大地が唐突にそんなことを言ってくる。
そんな言葉に、空太が「チッ、負けた。俺は末吉だ」と呟いた。
いや、おみくじに勝負とか特にないから。これ個人戦だから。
「お前らはどうだった?」
「俺は大吉だった。内容的にも概ねいい感じだな。隼人は?」
「俺は逆だな。俺も一応大吉だったが、内容がとても喜べるものじゃない。
めちゃくちゃ注意を促してくる」
あるよな、そういう類の大吉。
もはや大吉だからと素直に喜んでもいいのかわからない。
あれらの内容ってどういう風に決めてるんだろうな。
いや、決めてるとかいう考えがすでに汚れてるか?
そんなことを思っていると、突然俺のスマホが音を立てた。
誰かから着信が来たようだ。一体誰が......おぉ、永久先輩だ。
内容は簡単に「あけましておめでとう。鳥居にいるわ。迎えに来なさい」というもの。
あの人、日を増すごとに俺に対する扱いが雑になってきてないか?
まぁ別にいいんだけどさ。こっちの用事も大概済んだし。
大地と空太には申し訳ないが、俺はここで離脱させてもらおう。
「大地、空太、悪いがこの後予定があって一足先に抜けさせてもらうわ」
「なら、俺も同じだ。めんどくさいが、こっちから呼び出した手前行かなきゃ出しな」
俺の言葉に同調するように、隼人もスマホをいじりながら言った。
俺にはそのスマホの相手が透けて見えるぞ。勇姫先生だな?
「そっか。んじゃ、俺達もちょっと食って帰るとすっか」
「俺、ケバブ食ってみたい」
というわけで、俺達はその場で解散すると、早速鳥居に向かった。
拝殿に向かう流れに逆らうことに難航しながらも、なんとか到着。
すると、そこには鮮やかな淡いピンクの晴れ着を着た先輩の姿があった。
加えて、その隣には情熱的な赤色を基調とした晴れ着を着る琴波さんの姿も。
「あれ? 拓海君! あけましておめでとう~。今年もよろしくね」
「あけましておめでとう......あれ、もしかして待ち合わせでもしました?」
てっきり一人かと思っていたんだが......。
そう思った瞬間、突如として先輩が頬を膨らませてプイッと顔をそっぽ向けた。
その姿はまるでふてくされた子供のようである。
なるほど、どうやら先輩にとってイレギュラーな事態であったらしい。
「うちは莉子ちゃんと来ててね。で、先輩を見かけたら挨拶しようかと思って。
けど、ここで拓海君に会えるとは思わなかったよ。
ねぇ、莉子ちゃんせっかくだし一緒に......ってあれ? どこにもいない」
琴波さんは周囲をキョロキョロと見渡すが、そこには安達さんの姿は無い。
そのことに琴波さんが不安そうな顔をすると、彼女のスマホに一通のメールが。
「な、なるほど......そういうことか......よし!」
琴波さんはスマホと睨めっこしながら頷けば、今度はその視線を俺達に向ける。
まぁ、さすがに睨んでは無かったが、顔は真剣そのものだ。
「あ、あの、よければご一緒させてもらってもいいですか?」
「嫌よ」
「即答!?」
な、なんという素早い否定形の返答だ。俺でなきゃ見逃しちゃうね。
まぁ、その気持ちもわからんでもないが......。
だって、先輩からすれば二人で行きたかった感じだろうし。
ここまでわかってて優柔不断なのはさすがに良くないよな。
「悪い、琴波さん。実は俺は先輩との先約があって。
だから、琴波さんとは一緒にいけない。
でも、この時の埋め合わせは必ずするよ」
って、この期待を持たせるような言い方って言わない方が良かったか?
俺は単純に気を遣って言っただけなのだが、どうにもこうにもプレイボーイの言葉に変換される。
俺が妙な自己嫌悪に陥っていると、隣からは妙な熱視線を感じた。
チラッと覗いて見れば、先輩が赤らめた頬でボーッと見てくる。
え、あれ? 俺何かそんな見られることしました!?
「そっか、わかった。それじゃ約束だよ」
その一方で、琴波さんは短く言葉を言い捨てると、その場から離れていった。
その時の表情は、笑顔でこそあったが硬かった。
だって、琴波さんの笑顔は、基本的に背後に花畑のエフェクトが幻視できるしね。
「ハァ......」
ちゃんと決断出来た達成感と、断った罪悪感が同時に沸き起こる。
なんとも複雑な気分だ。しかし、これが俺に課せられた役目なのだ。
この気持ちと戦う覚悟は持ったはず。
「さ、先輩、どこから行きます? あ、来たばかりでまだ参拝してないですもんね。
なら、拝殿の方へ向かいましょうか。ただ、だいぶ混むと思いますけど」
「そ、そうね......なら、そこまでエスコートしてくれるかしら。
そ、それから......その、こ、これも.......」
そう言って、赤い顔のままの先輩はそっと俺に右手を差し出した。
左手の裾で口元を覆い、目線は俺がいる方と反対側に向けながら。
何か持ってるって感じでもなさそう。ただ手を出した感じ。
え、あ、ん? 何その手? その手がどうかしたのか?
「えーっと、その手がどうかしました?」
「あーもう! なんでこう肝心なとこで鈍いのかしら!
て、手を握ったらって提案してるの!
ほ、ほら、人も多そうで迷ったらいけないし?
こんな恥ずかしいこと言わせないで! 早く!」
「あ、ハイ......」
そう改めて提案されると、なんだか緊張するな。
スゥ―、い、いいんだよなこれ。いいんだよな?
俺は無意識に手汗をズボンで拭うと、そっと右手で握った。
「拓海君.......」
「そ、その、手汗が急にでその......気持ち悪かったら言ってください」
「そっち右手。欲しいの左手」
「あ、すみません.......」
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