第214話 合コンに暗殺者
「でさ、アタシ美術系の学校に行きたいって言ってるんだけど、親がなんか納得してくれなくてね。
親的には『そんなので食っていけるのは一握りなんだから』って意見らしくて、なーんか上手いこと説得する言葉とかないかな?」
「確かに、それは辛いな。こっちはそんなんわかってるだよってな。
その上で覚悟を持って行きたいって言ってるんだしな」
「そうそう、ほんとそれ! ハァ......どうやったらわかってくれるかな。
アタシの親ってアタシの行動には基本寛容的なんだけど、なぜかそれだけは微妙な顔してんだよね.....」
現在、俺は茶髪ギャルことアカリさんから相談を受けていた。
事の発端は、金髪ギャルことミカコさんが田山と近くで話したいと言い出したことだ。
恐らく同じ絵を描く者同士で興味が湧いたのだろう。
すると、それをきっかけにアカリさんが俺を指名し、席替えするにまで至っている。
故に、今の俺の隣にはアカリさんがおり、その奥に勇姫先生。
向かいの席では田山、ミカコさん、奥に山田と座っている。
そして、なんで俺がアカリさんから相談を受けているのかというと、俺の合コンの師であるギャルゲーの友人キャラが言っていた「とりあえず何か褒めとけ」という行動を忠実に行った結果である。
流れで言うと、俺がアカリさんのマニキュアを褒めた。
アカリさんが反応し、マニキュアについて色々語り出した。
俺が聞き役に徹しているといつの間にか話が少しずつズレていき、仕舞には相談された。
ぶっちゃけ突然相談された時は内心パニックだったよ。
とりあえず、当たり障りのないように共感の姿勢を示しているが、これでいいのか。
わからない。こういう時のセオリーがわからない。
とはいえ、料理が来たことやアカリさんのヲタクのようなマシンガントークのおかげで、幾分か時間は過ぎた。
しかし、これでもまだ始まって30分ぐらいというところ。
合コンの終了時間の相場がわからないため、とりあえず1時間ぐらいしたら帰ろうかと考えてるが......果たしてそう上手くいくものだろうか。
「俺的な意見を言うと、たぶん親御さんは不安に思ってるんじゃないかな。
ほら、高校までとかだとまだ自分の目の届く範囲にいることが多いじゃん?」
あんまりマジレスするのはよくない気がする。
だけど、なんかアカリさんが目線合わせてガッツリ聞いてくるし、言えることは言っておこう。
「けど、大学とか、アカリさんが行きたがっている専門学校系だと近隣にはなくて、場合によっては県外に出る必要もある。
そうなると親御さんからの目から離れ、もし困ったことがあってもすぐに助けてやれない」
「あー、なるほどね......確かに、そう言われるとアタシがこういう感じだと不安にも思うよね」
「だから、そうだな......アカリさんがやってる言葉で伝える姿勢は大事だと思う。
結局、言葉で言うのが一番伝わりやすいと思うから。
それに加えて、親御さんの不安を拭うようなマジな姿勢を見せれればなおグッドと思う。
聞いてる限り、アカリさんの親御さんは優しい人みたいだから、不安さえ拭えれば信じて送り出してくれんじゃないかな」
「そっか......」
アカリさんは少し赤く頬を染め、目線を落とした。
そして、突然俺の手を取ると、くぎ付けにするような目線を送ってくる。
「ありがと! なんかやる気出てきたかも! アタシ、認められるように頑張る!」
「そ、そっか......応援してる」
「なんか急に変な相談しちゃったのはごめん。
けど、それを親身になって聞いてくれるとか拓海君チョー良い人だね!」
「あ、ありがとう......」
なんかここまで純粋な目でグイグイ来られるとどう対応していいかわからない。
とはいえ、無事にアカリさんの話題には決着がついたみたいだ。ふぅー良かった。
その時、ポケットにしまっていたスマホがバイブする。
俺はアカリさんが手を離したタイミングで一息つくためにチラッとスマホを見た。
送信主は勇姫先生......え? 内容は――
『おい、アタシの友達を口説くな』
いや、待って! 全然そんなつもりはないんです!
なんかだいぶ困ってそうだったから自分の意見を言ってみただけです!
っていうか、あれ? 今、勇姫先生って山田と話してるはずじゃ......?
俺はスマホから視線を移し、勇姫先生をチラッと見る。
気分がいいのか、美味しそうに料理を食べるアカリさんの横で、勇姫先生は現在進行形で山田と話していた。
心なしか山田が楽しそうに見える。
まぁ、勇姫先生はなんだかんだ話術に長けているからな。
一方的に聞いてるわけじゃなくて、適度にちゃんと話を聞いてることを示すように、しっかりと話題に沿った返答する。
とてもスムーズに会話が続くから、話の止め時がわからないんだよな。
これ、俺が最近勇姫先生から抱いた印象である。
最初の頃は勇姫先生からの敵愾心が強すぎて気づかなかったけど。
『こっち見んな』
あ、ごめんなさい......待て、今どうやって返信した!?
もう一度見ても勇姫先生は山田と話したまま.....いや、違う!
よく見ると勇姫先生の左手が背中に回っている。
ま、まさか、その状態でスマホを持って返信してるのか!?
勇姫先生、えげつない特技を持ってるな!?
『いいか、今から用件だけ伝える。返信はするな』
う、うす!
『コンパの終わり目安は居間から三十分後。
そのつもりで何とか持ちこたえろ。
それともう一度いう口説くな、異常」
ちょくちょく語彙変換がミスってるが、それでも十分内容は伝わる。
なるほど、勇姫先生的にも1時間を目安で行動していたのか。
それなら話は早い。後、口説いてない。
俺は残り30分なら10分ごとにトイレに行って時間を潰そうと思い立ち、早速一度目のトイレに向かった。
実際、尿意もそれなりにあったため、用を足してスッキリ。
「なんとかなりそうだな......」
合コンのことはずっと不安視していたが、案外なんとかなりそうだ。
アカリさんもミカコさんも人の好さそうな感じだし。
なにより、勇姫先生の存在が大きい。いやぁ、感謝感謝。
後はなんとか耐えるだけ――鏡に人影!?
「動くと殺す。スマホを出すと殺す。しゃべっても殺す。
わかったらゆっくりと目を閉じろ」
俺の全身からブワッと冷や汗が噴き出た。
鏡に映っているのはゲンキングであり、ナイフの代わりにスマホを逆手に持っている。
アレで殴られたら普通に痛い。故に、俺は指示に従って目を閉じた。
すぐ近くから聞こえていたはずの喧騒はどこかへ消えていく。
代わりに背後からの圧がものすごく感じる。
ある意味暗殺者と言っても差し支えないかもしれない。
「拓ちゃん、これは何かな? 随分と楽しそうだね。
私達の好意を無下.....とは言わないけど、答えない割には合コンする余裕あるなんて。
さっき話していた子は可愛かったね。へ~、ああいう子がタイプ? 聞かせてよ、そうなの?」
「.......」
ゲンキングの問い詰め方が鬼怖い。
もしかしなくても、一番敵に回しちゃいけない相手を敵に回したかも。
「とりあえずさ、こんな場所じゃ他のお客さんの迷惑になるから移動しよっか。
あ、安心してよ。拓ちゃんの楽しいお話を聞きたい人にレイちゃんと琴ちゃんもいるからさ」
な、何も安心できない!
「大人しく来るよね。つーか、来い」
「.......はい」
ゲンキングの「目を開けろ」という言葉に、俺は目を開ける。
鏡に映っていたゲンキングは夜より暗い目をしていた。
......俺が背中に付きつけられてるのスマホじゃなくて、実はマジのピストルかもしれん。
「歩け」
「はい.......」
そして、俺の合コン後半戦は難易度エクストラモードに突入した気がした。
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