第208話 勢いで押された感はある
合コン――略さず言うと”合同コンパ”。
飲み会などで親睦を深めることを目的とし、主に男女の出会いの場という意味合いで使われる。
当然、その言葉は知っているが行ったことは一度もない。ましてや、誘われるなんて。
その合コンを提案してきたのはクラスの男子である山田と田山。
実にややこしい名前だが、髪があるほうが山田で、坊主が田山というわかりやすい特徴はある。
それはともかく、そんな二人から出た言葉が意外過ぎて疑ってしまった。
「......それ本気?」
「そりゃ、もちろん」
「男なら一度は夢見るだろ?」
夢見る......と言われると案外そうでもない。
自分の体形は自分が一番理解している。
それに、そもそもそういう話に縁がない。
だからかそういったものに特別興味を持つことはなかった。
「別に二人はそういうタイプじゃないじゃん。どっちかっていうと陰寄りだし」
山田と田山は誰しもがパッと思い浮かべるような陽キャタイプではない。
どちらかといえば、片方の机で集まって週刊漫画の話や買ったゲームの感想を言い合うタイプだ。
むしろ、合コンと聞いたら「美人局か?」と疑うタイプとさえ思っていた。
「それは、その......な?」
「やっぱり......ね」
なんか急に二人して顔を見合わせてソワソワし始めたんだけど。
陰キャ特有の”童貞丸出し”と呼ばれるタイプのキョドり方だ。
なんというか......うん、これが童貞って感じだよな。俺もだけど。
「その合コンに参加するにしろしないにしろ、答えるには先にそっちの考えを聞かせろ。
何か隠してないか? そんな感じがするぞ」
「「ギクッ!」」
わかりやすく反応したな。
そして、俺が睨みを聞かせていれば二人は白状した。
「そうだな、ハッキリ言おう......俺達が目立つ気がするから!」
「ぶっちゃけ太っている人より痩せてる人の方が魅力的に見えるだろ!」
「本当にぶっちゃけたな。俺が望んだしいいんだけどさ」
確かに、世の女性が男を選ぶとして太っているか否かで判断するなら、当然後者だろう。
デブ専なんてそれこそごく少数だったりするんじゃないか?
まぁ、見た目もだらしなく見えるしな。
そういう意味で、俺はなんとかその見た目のレッテルから逃れようと頑張ってるわけだけど。
「まぁ、俺がお前らをヨイショするのはわかったんだが、それをお前らは活かせるのか?
ポッとでの童貞がその場の勢いで務まる領域じゃないと思うんだが」
「そこは大丈夫。勇者であるお前がいるからな」
え、俺?
「その見た目でありながら委員長という立場を活かして数多の女子と交流。
そして、短い期間とはいえ、その見た目で上級生の女子と付き合っていたという事実」
「見た目擦り過ぎじゃね?」
「だが、実際事実でしょう! それに山に登った時だって、あの陽キャ女神ポニテ女子の元気さんに肝試しに誘っていた勇気! 僕達はその行動力をとても評価している!」
なんか言い分はアレとしても高評価なのはわかる。
つーか、ゲンキングの評価ってやっぱ回りの女子から見れば陽キャ枠なんだな。
......なんか変に優越感を感じるな。
「つまり、俺に女子との中継役をさせて二人の株を持ち上げろと?
風の噂だが、そういう飲み会は何よりも空気感を大事にしてるって聞くぞ。
楽しい空気ってこと。さらにそれを維持し続けるってことだ」
一度目の人生でやってたどこかのギャルゲーで友人キャラが話していた。
合コンは出会いの場であるが、同時に次の出会いをセッティングするための催しだと。
つまり、一度目でいい感じになれなくても、相手がこの合コンに楽しんでくれれば、次もまた会ってくれる可能性があるということだ。
その友人キャラはその積み重ねが大事だと言っていた。
だからこそ、世の童貞は勘違いする。奴らは一撃で仕留めようとする、とも言っていたっけ。
例えるなら伝説のポ〇モンを弱らせずに、ボール連打で捕まえようとしているということだ。
それを聞いた時は全く経験のない俺でも納得したものだ。
そんなの言葉に、二人の言葉は――
「そりゃもちろん!」
「あんま僕達を舐めないことだね!」
と、答えた......ハァ。
「一体どこからその自信が出て来るのか......。
言っておくけど、自分の得意ジャンルの話はご法度らしいぞ。
お前らで言えば漫画やゲームの話だな」
「「......」」
「急に自信なくして黙り込むなよ」
「助けてタクえもん~~!」
「秘密道具を出しておくれよぉ~!」
「ええい、うるさい! それが難しいなら行かないことだな!」
「「だが、断る!」」
「お、お前らぁ......」
まぁ、別に俺が望んでセッティングされた合コンじゃないし。
それに火傷するのはこの二人だし.......いい薬になるだろ。
しかしまぁ――
「なぁ、やっぱ行かなきゃダメ?」
「当然だろ!」
「僕達が行くということは早川も来るも同じ」
「お前ら.......!」
大変調子のいいバカ二人である。もう一周回って心配になってきた。
まぁ、俺も合コンというのがどういうものか気になっていたし、経験がてらに行ってみるか?
どうせ二人のヨイショするだけだし、男女での打ち上げと思えば.....まぁ。
「ハァ......わかったよ」
「「やったぁー!!」」
調子のいい奴ら。
「そういえば聞き忘れてたが、そもそもどういう経緯で合コンを開くことに?」
「実はな――」
そう言って山田がウザいドヤ顔しながら説明を始めた。
とある休日、二人がゲーセンで遊んでいると、たまたまUFOキャッチャーでフィギュアを取ったシーンをどこぞのギャル二人が見ていたらしい。
そこからギャル二人に絡まれた二人は、UFOキャッチャーの腕を見込まれて色々取っていたらしい。
すると、そのお礼として合コンのセッティングをしたようなのだ。
そう聞くと案外脈なしと思えなくもない......気がする。
希望的観測かもしれないが。
なるほど、その下りがあったからこの二人はチャンスを逃したくないんだな。
夢と幻想に包まれたヲタクに優しいギャルがいるかもしれない。
それこそ、きっと伝説のポ〇モンに出会ったような気分なんだろう。
ちなみに、ゲンキングが合致しそうだが、あの子はファッションギャルだし。
「ハァ......まぁ、そうだな。頑張れ」
「頑張るのはお前だよ!」
「僕達をヨイショしてくれなきゃ困るよ!」
「行く前から他力本願やめーや。そんなんじゃ、いざ二人っきりになった場合に困るだろ」
「そこは......ほら、ギャルがリードしてくれるかもしれないし?」
「そもそもそのチャンスが巡ってくるかも怪しいし......」
「そこは自信ねぇのかよ」
ということで、今週の土曜日の夕方頃に合コンの開催が決定した。
決定してしまったというべきか、正直乗り気じゃないが約束した手前破るのも忍びないし。
問題はこのことをどうやって隠し通すかということだ。
少なくとも、永久先輩、東大寺さん、ゲンキングにバレるのは不味い気がする。
東大寺さんは告白してきた相手だし、ゲンキングにもその疑惑はある。
そして、永久先輩にはここ最近女子との接触過多で捕まったばかりだ。
これ以上先輩の逆鱗に触れるのはまずい。
このままでは家に定住される。
「とりあえず、バレないことを祈りつつ、悟られないような行動を心がけよう......っ!」
何か視線を感じて振り返る。
しかし、特に誰かが見ていた様子はない。
不安を感じすぎて自意識過剰になっていたか?
「にしても、まさかこんなことがあるなんてな。二週目奇想天外すぎるだろ」
読んでくださりありがとうございます(*‘∀‘)
良かったらブックマーク、評価お願いします




