第202話 まさかの訪問
俺は柊さんの言葉に沈黙を貫いた。
イジメにはイジメる方に問題が大きいが、イジメられる方にも問題がある。
その言葉に酷くイラついてた時期は確かにあった。
俺がイジメられたきっかけは、たまたまフィギュアの帰りに目をつけられ、挙句にサンドバックにされたのが原因だ。
これで一体何の原因があるというのか。
もし見た目なんて言葉を言う人が居ようものなら、今すぐにでも殴りに行きたい。
そう思うほどにはこの言葉には抵抗がある。
そういう言葉を言う権利があるのは、結局実体験がある人に限るのだ。
あの痛みも、苦しみも、辛さも、ほんの微かな見栄も経験がないとわからない。
だから、正直やり返さないことの美徳というのは、酷く気持ち悪いと思ってる。
やり返さないと相手と同じ土俵に立つ? だからなんだ。
こっちは命がかかってんだ。なぜ一方的に受け身である必要がある。
ただでさえ多対一でやられてるというのに、こっちがそこまでして正々堂々をする方がおかしい。
だから、柊さんが言った「やり返す」という言葉を否定することはできなかった。
むしろ、その言葉には支持してしまいそうになった。
だけど、今の俺には守るべき居場所がある。
やり返さない方が偉いとかそういうのじゃない......ただ、迷惑かけたくないだけだ。
それにどうせやるならぶっちゃけ一人の方がいい。さじ加減ができる。
たぶんだけど、この人がやろうとしているのは容赦のないやり返しだ。
「どう~? やられっぱなしって性に合わないでしょ~?」
「その気持ちには正直賛成だ。けど、俺は乗らない」
「......どうして~?」
「俺の今いる場所は人生かけて出来上がった場所だ。それを自ら壊すようなことはしたくない」
「ってことはたくちゃんはその場所を守ることが大事ってことか~。
ふ~ん、なるほどね~......どうりでゆうちゃんが苦戦するわけだ。捉えてる本質がズレてる......」
「ゆうちゃん......? どうしてそこで勇姫先生が出てくんだ?」
「も~、女の子の小言は聞いちゃダメなんだぞ~。
たくちゃんはもう少し難聴系主人公見習った方がいいよ~」
「いや、そういうタイプって今じゃそこまで好かれないと思うし。
それこそ踏切近くで電車通ってぐらいじゃないと大抵聞こえるし」
とはいえ、聞こえたからと言ってそれが理解できるかといえば別の話だ。
大抵は自己完結故の独り言でしゃべってるわけだし。
もはやそこまでで察せられたら、俺はその人のことをエスパー使いだと思うだろう。
「交渉決裂か~、ちぇ~~~~」
柊さんは不満そうに席を立ちあがった。
どうやら帰るつもりのようだ。それに合わせて俺も立つ。
そして、支払いに関して、俺が奢ろうとすると「友達に奢られるの好きじゃないから」という理由で、キッチリとドカ食い分の支払いをしていった。
「それじゃ、また学校でね~」
「それじゃ、またね」
喫茶店の前、柊さんは椎名さんにエスコートされて帰っていった。
その時の表情はまるで一緒にボウリングしたかのような清々しさ。
今までにないタイプに俺は静かに恐怖し、柊さんを怒らせてはいけないリストに登録した。
―――数日後
日々、冬の寒さが強まる一方で、今日は晴れていて風も穏やか。
なので、とても気持ちのよい一日であり、休日の今日は午前中から長めのランニング。
すると、とある家の塀で片手をついて腰を曲げてる男性を発見した。
「......あのー、大丈夫ですか?」
なんか雰囲気が深刻そうだったので声をかけてみた。
すると、40代ぐらいの優しそうな顔をしたその人は、へこへこした態度で返答する。
「あ、大丈夫ですよ.....へへ......痛っぅ!? あったぁ.......腰がぁ.......」
「もしかしなくてもギックリ腰じゃありません......?」
「あはは、実は数日前にやっちゃってね......ここ最近は大丈夫だったんだけど、急に痛みがぶり返して.......痛つつ.......」
「あの、もしよろしければ、家まで行くの手伝いますよ。
歩くのすらしんどいなら背負うこともできます。
ただ、その時は汗臭いの我慢してください......」
「ははっ、そこまで.....うぐっ!........ごめん、やっぱお願い......」
というわけで、俺はその男性を背負って歩き出した。
なんとも不思議な感覚だ。
まさか見知らぬ人をおんぶする日が来ようとは。
行き先を教えてもらいながら歩いていると、その人は暇だったのか話しかけてきた。
「君は中学生かい.......?」
「.......実は高校生です」
「あ、ごめん! そんなつもりじゃ......痛っ、ば、罰が当たったようだ。
高校生ならこれからうんと伸びると思うよ。
僕は中学の時に一気に伸びて、その後同じ高校に入った僕より小さかった友達に、あっという間に抜かれたからね。
むしろ、高校の時こそ伸び率が高いと言っても過言じゃない」
「そうなんですか。それは期待できますね」
なんか必死にフォローさせてしまった。申し訳ない。
「にしても、高校生か.......どこ高か聞いてもいい?」
「ここら辺の近くの彩静高校ですよ」
「へぇ、彩静高校! 実はそこにうちの娘も通ってるんだ。
あそこの文化祭は凄かったなー。特に劇が見てて印象に残ってるよ」
まさかの同じ高校の親御さんかい! にしても、今の言葉はどっちだ?
単に話の文脈が二つなのか、繋がっているのか。
後者だとすれば、この人は同じクラスの誰かということになるけど。
いや、さすがにそれは考えすぎか.......?
「へぇ、そうなんですか。それは良かったです。実は自分あの劇に出ていたもので.......」
「そうなの? あ、でも、よく見たら確かに面影あるかも......あ、もしかして、悪の親玉やってなかった?」
「はい、その役をやってました」
「あー、やっぱり! なんというか最高に気持ち悪かったよ!.......って、あ、変な意味じゃないからね!?
純粋に褒めてるだけの話だから......うぐっ! あたたたた........」
「わかってますから大丈夫です。
むしろ、僕はそういう印象を抱いてもらえるような演技をしたんですから。
それを感じ取ってもらえたのだとしたら、それはもう演じ冥利に尽きたというものというものですよ」
「そっか、それならよかった。
にしても、三姉妹をやっていた子達も素晴らしい演技だったし、可愛らしかった。
うちの娘も負けてないとは思うんだけど、まぁあの子はそういう舞台で前に出るタイプじゃないからなぁ......」
なんか新情報がサラッと流れてきたんだが?
「うちの娘」という言葉で女子ということが確定してしまったし。
なんならわざわざ比較して出るようなタイプじゃないという言葉まである辺り、同じクラスも確定。
え、なんかどんどん勝手に絞られていくんだけど。
意外と身近な人物の親御さんだったりする?
「前に出るのが苦手なタイプなんですね......」
「苦手というか単純にやる気がないだけって感じかな~。
まぁ、任されたならキッチリやり通す娘ではあるんだけど。
そんなことに時間を取られるぐらいなら遊んでるか、メイクの勉強してるかだし」
な、なるほど、少なくとも内気な性格とかではないらしい。
もっと言えば陽のタイプの人間だろう。
遊ぶのが好きということはそういう事だ。
加えて、陰の者がメイクの勉強とか考えずらいし......いや、これはさすがに偏見か。
なんとなーく着々とハマっていくピースに「う~ん」と唸る俺に、答え合わせの時間が迫ってきた。
それは謎の親御さんの「見えてきた」という声。
その人が指をさした方向にはなんだかいかつい木造の塀があった。
なんというか非常に見覚えのある建造物というか.......ここって――
「着いたよ。ごめん、入り口もう少し入った先だからそこまでお願い」
「......」
勇姫先生もとい愛名波勇姫の家だった。
読んでくださりありがとうございます(*‘∀‘)
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