第189話 勇姫先生の恋愛講座#1
愛名波さんこと勇姫先生に駆け引きで負けた俺は、彼女に案内されてとある喫茶店にやってきていた。
駅に近いその場所は割に同年代の女の子達が多く来るらしく、他校の生徒とはいえこういう場所は緊張する。
しかし、俺も一度目の俺とは違う。
この一年で多少なりとも女子と関わってきた。
だから、背筋を伸ばして堂々としてろ。
そう、俺は大丈夫――
「なにずっとソワソワしてんの? さっさとメニュー選びなさいよ」
「あ、はい......」
「ねぇ、これ美味しそうじゃない?」
普通に見透かされた。体は正直ということか......なんだか恥ずかしい。
考えてみれば、こうして女子と一緒に喫茶店とか来たのって数える程度しかない。
買い食いは何度かしたことあるのになぁ。全然勝手が違う。
「俺はダイエット中なので紅茶ぐらいにしとくよ」
「そう? なら、あんたの奢りだしたまには大きいのいっちゃおっかな~♪」
「やっぱ俺の奢り確定なのね」
あの時は半分冗談だと思ってたのに......。
「授業料の代わりよ。いいじゃない、パフェ奢るだけで女子のこと知れるんだし」
「押し売りも甚だしかったけどね」
「うっさいわね。それで負けたあんたが悪いのよ。さ、注文しましょう!」
ウッキウキの勇姫先生。そんな顔されたらこっちも悪い気はしない。
にしても、恋愛講座とは一体何をするつもりなのか?
ましてや、勇姫先生にそんな語れるほど恋愛経験があるというのか。
まぁ、あくまでこれは俺に何かを仕掛けるための状況なんだろうけど。
「そういや、あんたに恋愛講座してあげるとか言ったじゃん?
でもさ、あんたのこと知らなきゃなんも出来ないし、まずあんたのこと教えてよ」
「俺のこと? 知って意味あるのか?」
「数学が苦手な子に数学教えたって意味ないでしょ?
数学という科目そのものが嫌いなのか、二次方程式や確率とかで苦手意識を持ったのか。
そういうことを知らないと話すにも話せないでしょ」
意外にも本格的だ。彼女からまさかそんな言葉が飛び出すなんて思わなかった。
ってことは、予想外に本当に俺に恋愛講座なんてことをしようとしているのか?
「俺のことを話すのはいいけど、正直俺は誰かと恋愛するつもりはないよ。
今の環境が十分っていうか、それ以上を求めてないっていうか.......」
「今のハーレム状態が居心地良いって?」
「ハーレム状態!? いやいやいや、何言ってんの?」
ここ現実世界ぞ!? どこの異世界ファンタジーの話始めるんだ!?
そんな俺に対し、「ダメだコイツ」みたいな顔でため息を吐く勇姫先生。
チラッと見える八重歯が大変ヲタクに刺さるが、今はそれどころじゃない。
「何って見たまんまのことだけど。もしかして自覚ない?
自覚ありで放置してるんだとしたらヤバイんだけど」
「.......」
「え、もしかして自覚ある? ヤッバァ.......」
「いやいや、まぁその.......好意が透けて見えると言いますか、色々ありまして......。
でも、俺が何言ったところで簡単に意思が変わるような人達じゃないから、なんとか自然消滅にならないかなぁと」
「めっちゃ最低な奴じゃん。やきもきさせてる時間が一番その人を苦しめてるって思わない?」
「おっしゃる通りです.......」
ぐうの音も出ない正論。めちゃくちゃ心が痛い。
とはいえ、強欲な俺は今の距離感が壊れることも気にしている。
壊す覚悟もない臆病者......それが俺。
ハァ、なんというか、恋愛から遠ざかろうとする度に関わってる気がする。
「まぁいいわ、そんな意気地のないあんたをアタシが男にしてあげる。
人は動き方次第でどうにでも関係性の維持は出来るものよ」
「勇姫先生......ってことは、先生が過去に告白された男子とは今も交友があるってこと?」
「あるわけないじゃん」
「.......」
「.......」
途端に目を逸らす勇姫先生。あっという間に説得力が無くなってしまった。
そんな先生は咳払いして気を取り直すと、「話を戻すわ」と言って聞いてくる。
「まぁ、私のことはいいのよ。で、まずはあんたのことを聞かせて。話はそこから」
「話すって言っても何から話せばいいか......」
「なら、私が適当に質問するからそれに答えて見て。
まずあんたは恋愛に対してどう思ってる? いや、もっと広く恋愛って何だと思う?」
「そりゃ、当然.......」
そして、言葉を紡ぎ出そうとした瞬間、途端に言葉が喉に引っかかって出て来ない。
まるで空気を吸えているのに吐き出せないような感じ。
当然知っていて当たり前のような言葉に対し、自分なりの回答すら出てこない。
「そんなつまること?」
「それは......生物としての繁殖活動に伴う感情の働きなんじゃないかと」
「ふ~ん、なるほどね。それじゃ、なんでその活動にその感情が必要だと思う?」
「より効率的に番い......家族を形成するためだと思う、はい」
「別にあんたの意見を咎めるつもりはないし、自分の意見なんだから堂々と言いなさいよ。
でもまぁ、そうね、今のでも少しあんたのことが見えたわ。
あんた、中途半歩に地頭がいいのね。だから、苦労するんだと思う」
中途半端って.......俺自身、そこまで頭が良い方じゃないぞ?
これは単なる努力の成果だ。それでしかない。
だけど、それで勇姫先生の意見を聞かないのは違うな。
「どうして中途半端だと思うんだ?」
「まず頑張って頭のいい回答を作り出そうとしていること。
頭の良い人はそもそも恋愛なんて抽象的な言葉に迷わない感じするし、バカもある意味迷わないわね。
どっちにしろ、自分なりの答えを持っているって感じ。
それに聞いといてなんだけど、アタシが思う頭の良い人はあんな回答しない」
それはそう。俺も言ってて、何言ってんだ自分って思ったから。
どう考えてもそんな専門家みたいな答え方を普通の人はしない。
「アタシが思う頭の良い人は勉強とかできるのは当たり前で、それ以上に適切に言葉を理解できる人だと思う。
その人だってあんたと同じ答えを持ってたとしても、アタシなんかを相手にそんな答えを提示してもそもそも伝わるかどうかわからないでしょ?」
「それは.......」
「違うって思う? 本当に?
頭の良い人達が数学の解法で盛り上がってる一方で、アタシ達はT〇KTIKの流行のダンス動画で盛り上がってる。
普通、その両者が楽しくおしゃべりしてるってイメージつきづらくない?」
それは......確かに。
ヲタクのボッチ男子がクラスのギャルと関わるようなありえなさ。
あれがあくまで成立してるのはフィクションだからだ。
普通に考えて、現実にいるギャルに対してボッチはリアルに幻想を抱かない。
脳裏の幻想が壊れるから。ソースは俺。
一度目の俺の過去の経験からというべきか。
「ま、そういうと、今現在限りなく可能性が低いことが起きてしまってるわけだけど......こんなことが他で起こることはそうそうない。あんたにもわかるでしょ?」
「人間、形成したグループを侵害されたいとは思わないし、侵害してまで関わりを持とうとは思わない」
「そういうこと。話がそれちゃったけど、そういうわけであんたは中途半歩ってわけ。
まぁ、今の言葉で伝わったとはアタシは思わない。アタシバカだから。
でも、バカはバカなりに考えてることはあるのよ。ずっと能天気じゃない」
「別にそう思ってるってことは.......」
「いいのよ、客観的に見ればそう思われる行動してるし、自覚もある。
それじゃ、質問の続き。あんたは恋愛が好き? それとも嫌い?」
読んでくださりありがとうございます(*‘∀‘)
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