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高校時代に戻った俺が同じ道を歩まないためにすべきこと  作者: 夜月紅輝


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第179話 クラゲはクジラの夢を見る#1

 永久先輩から突然の絶縁宣言をされた翌日。

 言うまでもなく俺は上手く寝れず絶賛睡眠不足であった。

 とはいえ、休日なので二度寝をすればいいのだが、あいにく寝れる感じでもなく。

 なので、日課である朝のジョギングをすることにした。


 季節は10月後半。ともなれば、いくら季節がずれてんじゃねぇかって思うような秋の陽気でもさすがにこの時間は肌寒い。


「とはいえ、走れば早々に体が温まってくるから関係ないけど」


 玄関前で軽く準備運動して無理しないペースで走り始める。

 そんなダイエットかつ運動不足の意味として始めたこのジョギングも今では立派な趣味となっていた。

 特に音楽を聴きながら、誰もいない道を走るのは何とも気分がいい。


 そんな習慣も続けば少しずつ効果は表れ、前よりも気持ちお腹が凹んで体が軽くなったような気さえする。

 毎月末に体重を図っているが、今回ばかりは努力の成果が表れるのではないかと楽しみである。


「......」


 そんないつもなら心躍らせることを考えても、お気に入りの音楽を聴いてもやはり気分は一定値から上がらない。

 そして、脳裏に思い浮かぶのは先輩からのあの言葉。

 強い言葉ほど印象に残るとはまさにこのことだろう。


 ぼんやりとジョギングすること数分。交差点の前に出た。

 赤信号で止まっていれば、突然後ろからドンと体重がかかってきた。

 小刻みに揺れる体、異様な体毛、ヘッヘと浅く早い呼吸――まさか!?


「ゲンキング家のゴールデンレトリーバー!?」


「クゥ~ン」


 ジョギングで度々会う友人ならぬ友犬である。

 であれば、当然その飼い主もいるわけで――


「よ、よっす.......」


 ゲンキングがどこかよそよそしい態度で挨拶してきた。

 先程から直視できないのからチラチラと目線が合う。

 そして、妙に頬に朱に染まっていた。


「おはよう。調子はどう?」


「だ、大丈夫......たぶん、うん、大丈夫」


 自分の胸に手を当てながら答えるゲンキング。

 先程から妙に態度がおかしい。なんというか緊張しているような。

 もしかして、俺が演劇の件を咎めると思っているのだろうか。

 まぁ、事が事だけにそう思われるのは仕方ないことだと思うけど。


「あ、あの......今日も一緒にお散歩する?」


「いいよ。歩こっか」


 というわけで、俺はジョギングをやめてゲンキングと一緒に散歩することにした。

 ちなみに、別に今日に限ったことでなはく、時折こうしてどこかで会ったなら一緒に歩いていたりする。


 まぁ、今日に限っては誰かと話して気分を解消するのはアリだろう。

 それにゲンキングを咎めるつもりはなくても、やはりあの演劇に関しては聞きたいし。

 それはそれとして、よく聞かれる可能性を踏み切って誘ってきたな。


「なんというか文化祭あっという間に終わったな」


「そだね。文化祭の準備期間にたくさん練習して、レイちゃんからのスパルタ特訓を受けて......家でおばあちゃんから白い目で見られた時はなんとも言えない気持ちになったなぁ~」


「俺の場合は隠れてコソコソやることは禁止されて、母さんの前でしか練習してはいけないって感じだったな。

 なんでも、俺の親父が元売れない役者らしくて、役の練習に付き合ってたとかなんとかである程度ノウハウを知ってるらしくて」


「なるほど、それであんなに演技が上手かったんだね。

 どっからあんな言葉が出てくるのかと思ってたよ。

 わたし視点からもちょっと......いや、だいぶ気持ち悪かった」


「おう......そっか。まぁ、そういう風に思われるための演技だったしな。

 とはいえ、嬉しい反面確かなメンタルダメージがあるのはなぜだろう」


 やっぱり生の女子高生からの意見だからだろうか。それとも友達だから?

 なんにせよあまり深く考えないことにしよう。

 ヘイトキャラが上手くいった。なら、それでいい。


「あぁ~~~~っ! で、でも、わたし的にはそういう強引? なのも悪くないとは思った!

 うん、だから大丈夫! わたしは拓ちゃんならアリ!」


「そっか、ありがとう」


 慌ててフォローしたせいでだいぶやばいこと言ってるが紳士なのでスルーしよう。


「でもまぁ.......うん、大丈夫.......」


 小さな声で言わないで! 難聴系じゃないから普通に聞こえてるんだって!

 ゲンキングが頬を染めているせいでなんとも言えない空気感が漂う。

 このままでは苦手な話題に突入する。その前に話題を切り出そう。

 となれば、聞く話題は一つしかない。


「なぁ、ゲンキング聞いていいか? あの演劇のこと」


 そう切り出した直後、やはりゲンキングの顔が曇った。

 本人的にも聞かれることは覚悟していただろうが、やはり答えづらい感じなのだろう。

 だけど、逆に俺は話を聞かないと気が済まないのだ。許してくれ。


「深く聞くつもりはない。だから、答えられる範囲で答えてもらっていい。

 どうしてゲンキングは隼人の策に乗ったんだ? あの文化祭で何があった?」


 ぶっちゃけ単純に頼まれて断れなかったから仕方なくって感じなら、それはそれで無理やり納得する覚悟はあった。

 しかし、ゲンキングの口から放たれた言葉はそうじゃない理由だった。


「正直ね、乗らない手もあったんだ。

 ううん、乗らない方がきっとわたしらしかったのかもしれない。

 わたしは自分の意思もなくフワフワプカプカと浮いて流されるクラゲだから。

 クラゲならクラゲらしく最後まで誰かのためにいるのがらしさだと思うの」


「だけど、ゲンキングはクラゲになり切れなかった?」


「そうだね。でも、クラゲだって思うんじゃないかな。

 スイスイと泳いでいく魚を見て、イルカを見て、果てはクジラを見て。

 もっと遠くへもっと自由にもっと自分の思うままに泳いでみたいって。

 その時、わたしは大きな一歩を踏み出したの。サナギが羽化するように」


「それが隼人の策に乗った理由.......?」


「かな。うん、たぶん......いやきっとそう。

 ほら、自分よりすごい人が近くにいるとさ劣等感を感じるじゃん?

 そしたらさ、悔しくて苦しくて羨ましくて仕方なくなるじゃん?

 だからもし、その人に立てるチャンスが来たらわたしは手を伸ばす。見たい景色を見るために」


 ゲンキングは明るい口調で言うが、きっとその言葉の重みは計り知れない。

 成績優秀、眉目秀麗、文武両道、品行方正、あらゆる誉め言葉の四字熟語を並べても足りないぐらいの完璧超人である玲子さんの隣にいて何も思わないはずがない。


 光は強ければ強いほど注目を集める。

 それを端から見るだけならきっと浅い羨ましいという感情で済むかもしれない。

 しかし、それがもしそばにいるものなら、照らさてる光で作り出される影に覆われるその人は、きっと俺が想像する以上に強い感情を持っているに違いない。


「拓ちゃん、今日って何か予定あったりする?」


「いや、特にないけど........」


「そっか、良かった。ならさ、少しだけ寄り道してもいい?」


 そんな言葉に誘われてついていった先は少し広めで芝生の生えた公園だった。

 自分の家にある公園よりも少し遠くにあるそこは普段あまり行かない場所だ。


「この公園ってよく来るの?」


「う~ん、たまにかな。愛犬(ルンちゃん)の機嫌がやたら良い日とかにたまにね。

 でも、今日はわたしの用のためにこの公園に来た。わたしも自由に泳ぎたいから」


 公園のベンチの前に来ると、ゲンキングはルンちゃんの首輪からリードを外した。

 瞬間、ルンちゃんは芝生の上を思うがままに自由に走り回る。

 その姿を一緒に見ながら、ゲンキングは言った。


「聞いてくれる? クジラに憧れたクラゲの話」

読んでくださりありがとうございます(*‘∀‘)


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