第178話 唐突過ぎる展開
俺は重たい足取りで歩いていけば遠くに我が家が見えてきた。
こんなにも家に帰りずらい日がかつてあっただろうか。
あぁ、母さんが見ていたドラマのワンシーンを見たことあったけな。
あの時は確か妻に連絡もせず残業した夫が妻の機嫌に苦悩して――
「......」
おかしい。俺の部屋の電気がついてる。カーテンの隙間から漏れた光が見える。
まぁ、十中八九そこに永久先輩がいるのだろう。気が重い。
......ん? 今、カーテンがわずかに揺れなかった? もしかして見てた?
もしそうならこんな所でちんたらしてるのは火に油を注ぐ結果にしかならない。
不味い、たった今俺の退路は失われた。死地に飛び込むしかないのか。
まぁ、どのみち俺が家に帰るには避けては通れないんだけど。
「ハァ......うしっ!」
俺は頬をパシンッと叩き、これから挑む我が家という名の魔王城のために気合を入れる。
ここで俺が気を付けなければならないのは――1つ目、絶対に嘘はつかない。
2つ目、辛気臭い顔をせず空気を読みつつ返答。
3つ目、決して相手を否定せず、親身になって聞き役に徹する。
以上、咄嗟に思い付いた俺のルールでもっていざゆかん! 魔王城へ。
俺はゆっくりとされど着実に足を前に進め、玄関前で深呼吸。
気持ちの準備が整えば、意を決してドアノブを掴み、ドアを開く。
ドアの隙間から少しずつ光が差し込み、同時に腕を組んで仁王立ちする先輩が。
「おかえりなさい。遅かったわね。何をしてたのかしら?」
「......真っ直ぐ家に帰ってました」
本当は道中でゲンキングのおばあちゃんに会って荷物運びしてたなんてイベントあったけど、それは家までの帰り道での出来事だし嘘は言ってない。
先輩が俺の言葉の審議を確かめるようにじーっと視線を浴びせて来る。
その視線による圧で俺は少しずつ冷や汗をかき始めた。ど、どうだ!?
「......嘘はついてないみたいね。もしくは小賢しくつく嘘が上手くなったか」
「まさか先輩には嘘はつきませんよ」
「その言葉を信用することにするわ。一応、あなたは文化祭では功労者だものね」
そういえば、先輩って暇かよって思うぐらいには演劇見に来てたな。
結局、この人全公演を余さず見たんじゃないか?
「今、失礼なこと考えなかった?」
「まさか! 先輩がまた俺の家にいつの間にかいることには驚きましたけど、ここにいて聞きたい話は想像ついてますし」
「さすが私の親愛なる後輩ね。話が早くて助かるわ。ちなみに、上げてくれたのはお義母様よ」
「それも察しついてます」
うちの母君は“俺の友達”と聞けば途端にセキュリティーが甘くなるからな。
一応何度か忠告はしてるんだが、どうにも治る気配はなさそうだな。
まぁ、それでも人の見る目はある母さんだからいいけど。
俺はドアを閉め、先輩と一緒に自室へ行った。
「先輩、何度も言いますが俺の部屋で待たれるのはちょっと......俺だって男なんですし......」
「大丈夫よ。相変わらず探してみても卑猥な物は見つからないし、部屋の中も特にイカ臭くないわ」
「イカ......!? 先輩、もう少し言葉を慎んでください!」
「何か問題あったかしら? 同じ日本語という言語よ? ならば、男女で差別する方がおかしいわ」
なんだか頭が痛くなった。
どうやら先輩は言葉であればなんであれ羞恥心を抱く方がおかしいと思うご様子。
であれば、前回に「お兄ちゃん」発言の時の態度はなんだったのか。
問い詰めたいけどキレられたら面倒だし我慢しておこう。
「ちなみに、最近官能小説ジャンルを開拓してみたの。意外と面白いわね、アレ」
「聞いてませんし、良かったですね。で、アイスブレイクは済みましたか?」
「別にそんなことを意識してはなしたわけじゃないのだけど......ま、いいわ。話の切りも良いしね」
先輩は相変わらず俺のベッドの上で足を組み、腕を組み、目の前であぐらをかく俺を見下しながら聞いた。
「で、アレはどういうこと?」
アレ......つまり、最終公演での隼人のしでかした一件か。
なぜ諸悪の根源ではなく俺にツケが回ってくるのか。
これが中間管理職の辛さとでも言うのか。
働いたことないから適当言ってる自覚はある。
「一応、今日の午前中にでも主犯格に直接話を聞いてきたよ。
大体察しついてると思うけど、アレは俺に東大寺さんを当てるためと、同時に大地のケジメをつける意味もあったらしい」
そして、俺は文化祭の最終公演での出来事も含め、午前中のことを話した。
「ふ~ん、そう。それであんな感じで金城君が話を改変したわけね。
まぁ、金城君が関わってる時点で普通の演劇になるとは思ってなかったしね。
ただ、最終面はほぼほぼアドリブ合戦でだいぶ混沌としてたけど。
ぶっちゃけあの時はメンタルダメージが大きすぎてあまり覚えてないのだけど、あなたが頑張って流れを元に戻そうとしていたのは知ってるわ」
「まぁ、あの時は俺も何がなんだかさっぱしだったし......まさかあそこまでめちゃくちゃになるとは思いませんでした」
あの時点では俺の敵もとい注意すべき人物は隼人と東大寺さんだけだったからな。
そこにゲンキングと大地も加わって......ってあれ? なんであの時ゲンキングも味方したんだ?
「そういえば、先輩はゲンキングが隼人に味方した理由って知ってます?」
そう聞くと先輩はギロッとした視線を向けてきた。え、何急に怖い。
「あなた、その言葉本気で言ってるのかしら? さすがに冗談よね?
それは同じ女として見過ごすことはできないわ」
「え......だってゲンキングは俺に加担する理由が――ぁっ!?」
突然、先輩の足が頭にのしかかり、カーペットとキスしそうになる。
「頭を垂れなさい、この豚。あの気持ちがわからないほど鈍感だったとはね。
いえ、深層でそうあり続けたいとでも願ってるのかしら。
そういえば、あのキャラ被りもワタシもわかりやすい意思表示されたことはなかったわね」
「あ、あの.......何を言って――」
「あなたって人に愛されることがそんなに嫌い?」
相変わらず踏まれた状態(さっきよりも重さが増してる気がする)で先輩から言われたのは何の脈絡もない質問。
しかし、この回答で何かを試している。そのことはわかった。
「まさか好かれることは嫌いじゃないに決まってるじゃないですか。
嫌われれてたら今こうして先輩と話せてませんし」
「言葉を濁さないで。ワタシは“愛される”って言ったのよ? 好かれるかどうかを聞いてるんじゃない」
俺は先輩の足を払いのけてゆっくりと上を向く。
なぜだろう。酷く感情が冷たくなってる気がする。
まるでこれ以上の熱を与えるなと言わんばかりに。
「それって何か違うんですか?」
瞬間、先輩が衝撃を受けたように目を大きく開く。
そして、そっと目を閉じ、聞こえるような大きめなため息を吐いた。
「......ハァ、わかったわ。いや、わかってたわ。
でなければ、ここまでやる意味ないもの。でもまぁ、引き際かしらね」
先輩は立ち上がると、荷物を取ってドアに向かう。
そして、ドアノブに手をかけると、立ち止まって言った。
「一度あなたとの関係を壊すことにするわ。
ワタシが納得する理論を持ってきて。それまでこれで絶縁よ」
「.......え?」
絶.....縁.....?
読んでくださりありがとうございます(*‘∀‘)
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