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高校時代に戻った俺が同じ道を歩まないためにすべきこと  作者: 夜月紅輝


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第175話 感情直球ガールは終わらせない#2

 とうとう東大寺さんに告白されてしまった。

 聞き間違えようのない正真正銘の想いの詰まった青春のワンフレーズ。

 まさか自分にこんな状況が訪れるとは微塵も思っていなかった。

 思うわけもない。俺の精神位置は陽か陰なら確実に陰の者だから。


 そんな陰のものが報われるなんてラノベの世界だけだと思っていた。

 そして今、そんな状況に今置かれている。まるでその世界に入ったみたいだ。

 となれば、そこから始まるラノベはきっと見ている方が胸焼けする甘い未来が続くのだろう。


「......」


 口が縫い付けられているかのように開かない。

 そして、砂漠にいるかのように無性に喉が渇く。

 わかっている。俺がしようとしていることが東大寺さんを傷つけるからだ。


 俺が求めていた日常は俺が途切れさせた縁を繋ぎとめる日常だ。

 漫画で例えるなら、ほのぼのとした日常四コマ漫画だろか。

 だから、決して誰かが傷つくようなことはあってはならない。


「俺は......」


 しかし、それは所詮俺のわがままだ。

 母さんに養ってもらっていた時のような甘えた世界に浸っているだけ。

 責任も負わず、覚悟も持たず、決断もしないのはあの時と何も変わらない。


 そんな俺を変えるために今の俺がある。

 俺は良い人を目指しているが、結局良い人にはなり切れない。

 それを認める時がきっと今だ。

 中途半端な優しさは止せ。

 それはかえって不誠実なはずだ。

 だから、答えるんだ。「東大寺さんとは付き合えない」って。


「俺は――」


 肺の空気が抜けきったような気分で声を絞り出そうとする。

 慣れない状況で心臓がバクバクと耳元まで聞こえてくるようだ。

 それでも、なんとか言葉を紡ぐ。


「東大寺さんと――」


「ここでちょっと待ったターイム!」


「!?」


 東大寺さんが突然両手を突き出し、大きな声で叫んだ。

 そんな声にまるで猫だましを食らった気分になる。

 ......へぇ?


「ちょっと待ったってその......え?」


「あはは、ごめんね? 急に大きな声を出しちゃって。びっくりしたよね。

 でも、これは前から決めてたことなんだ。って言っても、前ってさっきだけど」


「えーっと、その......俺はどうすればいいんですか?」


 思わず敬語になっちゃった。でも、この気持ちはありのままだ。

 先程の告白タイムが嘘のように東大寺さんがのほほんとした雰囲気を出している。

 なんか俺のさっきまでの緊迫した気持ちがバカみたいだ。


「あのね、今からすっごくズルいことを言うよ」


「ズルいこと......?」


「それはもうね、ほんとにほんとにズルいこと!

 拓海君にも迷惑かけると思うし、何より他の子達にも悪いと思う。

 でも、それでも、うちは諦めきれなかったから、まだ足掻けると思ったからこのチャンスをもらった。

 諦めるのはほんとにほんとにほんとーに全力を尽くしてそれでもダメだった時だと思うから」


「そのチャンスって......もしかして――」


 その時、俺は大地との会話を思い出した。

 それは俺が大地を焚きつけるために勝負を仕掛け、最終勝負のじゃんけんで負けた時のこと。

 その勝負で取り決めた罰ゲームの内容で大地は俺に言った。


―――拓海、お前への要求はこうだ。“東大寺さんからの要求を受け入れる”だ。


 大きな展開が続いてすっかり頭から抜けていた。

 あの言葉はこの時のためだったのか。

 まさかあの時から......いやずっと前から結果が見えていたのか。

 

 ......どうやら俺はアイツに対しとんでもないことを言ってしまったようだ。

 アイツにケジメをつける覚悟を持たせるなんて、俺に言える資格なんてないのに。

 今更ながらに気付く鈍さ。相変わらずこういう所がダメすぎる。


「うん、薊君が言った言葉で合ってるよ。

 そして、うちの要求はこう――うちがもう一度告白するまで返事は待って」


 東大寺さんから告げられた言葉は告白としてはあまりに定石はずれだろう。

 最初の彼女の行動はもはや「はい」か「いいえ」の二択を迫っているようなものだった。

 だから、俺は答えを出さなければいけなかった。


 しかし、その告白した本人から回答の延期を告げられた。

 その言葉に俺は戸惑いとともに安堵した。いや、してしまったというべきか。

 だって、これならば一時的にでもこの思考や状況から逃れられるから。

 にもかかわらず、俺の口は相反するように質問の言葉を口にした。


「......それでいいのか? それって東大寺さん的に辛いんじゃ......」


「それって今後も脈なしってこと?」


「あ、いや、そんな意味で質問したわけじゃ.......」


「ふふっ、ごめんね、いじわるな言い方しちゃったね。

 でも、前にいきなり振ってきたお返しってことでおあいこにしてくれると嬉しいな」


「それはまぁ......」


 あれは完全に俺の勝手な都合でやった行動だし、そう言われたなら自業自得な結果として受け入れるしかあるまい。

 .......ん? あれ? 待てよ、何か重要なことを忘れているような。


 あの時は東大寺さんに大地へ矢印を向けようとして取った行動で、だけどその行動は結果的には失敗になって、今や大地から告白を受けた東大寺さんから告白されるという稀有な状況。

 .......あ、ってことはもしかしてもしかすると東大寺さんにやった俺の行動の意味バレてる?


「あ、あのさ、東大寺さん.......」


「ん? どうしたの?」


「.......あ、いや、ごめん、上手く言葉にできないからちょっと整理させて。

 その間に東大寺さんが言いたいことがあったら聞くから」


 あっぶねぇ、なんで確かめようとしてんだ。血迷ってんじゃねぇ!

 東大寺さんのあの言い方ではまだ気づいているかどうか判断つかねぇじゃないか。

 もし気づいてない状態で安易な質問をして気付かせてみろ。

 この関係が破綻しかねないだろうが!


 ......って、これこそ何言ってんだ。本当に血迷ってんじゃないか俺?

 そもそも東大寺さんを振った時点でその覚悟を持って行動したんだろうが。

 なのに、今更東大寺さんの優しさに甘えようとすんな!

 ハァ、今日はもうまともな思考できるかわからんな。


「なんというかうちが聞くのもなんだけど大丈夫? 微妙に顔色悪いけど。

 って、うちが困らせてるんだよね。ごめんね、無茶なお願いして」


「いや、そうじゃない。そうじゃないんだ。

 なんというか自分の曖昧さ加減に嫌気がさしてさ。

 ただそれだけ、東大寺さんとは全く関係ないよ」


「そうなんだ......で、その、うちの要求というかお願いはそれなんだけどいいかな?」


 東大寺さんが困り眉をして覗き見るように見て来る。

 その些細な行動だけでドキッとしてしまう思春期の体。

 いや、それは体のせいなのか、はたまた完全に意識し始めてしまったからか。

 もし後者であれば少し気持ち悪い。あまりにも意思がブレブレだ。


「あぁ、もちろん。告白した当人から言われたなら受けるしかないし、それに大地との約束だからな」


 これは逃げだ。逃げれる道があることに安堵している。

 責任を持つ覚悟がないのか、もしくは責任を持つ気が無いのか。

 どちらにせよ、恵まれた環境なのに俺はいつまで経っても昔から変わってない気がする。

 

 ......いや、この思考をまず止めることか。

 変わりたいと願い続ける意思はある。

 それを叶えるための努力を怠るつもりもない。

 だから、少しずつでいい。いい加減目を向けよう。

 俺を取り巻く周囲の関係性に。俺が望まない相手の気持ちに。


「時間取らせてごめんね。それじゃ、戻ろっか。まだ皆いるかな?」


 東大寺さんが先に体育館から出る。そして、数秒後に俺が出た。

 俺から伸びる長身の人影はドアを閉めると同時に暗闇に閉ざされた。

読んでくださりありがとうございます(*‘∀‘)


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