第172話 後夜祭#2
「スリーポイントシュート対決? 拓海、それ本気で言ってるのか?」
「冗談で言ってるような顔に見えるか?」
「.......見えねぇな、残念ながら」
大地はバスケットゴール下に落ちているバスケットボールを取りに行く。
大きな手でボールを片手で掴み上げると、慣れた手つきで指先でボールを回す。
「言っちゃなんだが、正気とは思えねぇな。確かに、拓海にはシュートセンスがあると思う。
遊びで教えたとはいえ、ぶっちゃけうちのポイントゲッターとして欲しいぐらいだ。だが――」
大地はもう一度シュートする。もちろん、場所はスリーポイントライン。
それは先程と同じようにゴールに吸い込まれるように入った。
「こちとら現役だぞ? しかも、大会を控えてて調整中の身。
大会間近の減量中のボクサー相手に素人に毛が生えたぐらいの相手が勝てると思ってるのか?」
「思わねぇな。思うわけがねぇ。それぐらいわきまえてるっつーの」
「だったら、どうして――」
「だからなんだ? ビビってんのか? 勝負を放棄するってことは不戦勝で俺の勝ちってことでいいよな?」
大地が言いたいことはわかる。正直言って、俺に勝ち目はない。
相手は1年生ながら体格と技術でレギュラーにまで上り詰めた人物だ。
運動神経がよくて、背が高くて、明るい奴で、おまけにイケメンだ。
スペックもスタイルも自分になくて羨ましくて腹立たしい。
俺だっていつまでも良い奴じゃない。
良い奴であろうとはしてるけどな。
そして、俺は悪役だ。
東大寺さんにとっても、大地にとっても。
だったら、今日という日は最後まで悪役らしくいってやる!
「だったら、俺の命令を聞いてもらおうか。何がいいかな。
まぁ、そんなの決まってるか。当然――」
「待てよ、勝手に俺の負けを決めてんじゃねぇ」
「......やる気になったか?」
「例え友達であろうとも素人にイキがられるのは腹が立つ。
いいぜ、乗ってやるよ。ただし、手加減はしねぇからな」
「当たり前だ。むしろ、そんなことしたらぶっ飛ばしてやるからな」
「練習いるか?」
「......少しだけ」
俺はシュート錬を軽くして大地との対決に臨んだ。
先攻後攻はじゃんけんで決め、順番は大地が最初で次が俺だ。
大地が軽くボールをバウンドさせ、己の中にあるタイミングを計り始める。
そして、フォームは唐突に作られ、一投目が放たれた。
―――ポス
ゴールに綺麗に入る。これで俺が目撃して3回連続。
スリーポイントラインって確かゴールから6~7メートルぐらいだったはず。
いやいや、いくらなんでもその精度の高さはおかしいって!?
「ふぅー、なんつーか、今日はやたら調子がいいな。
こんな気持ちなのに.......まさかこんな形で努力の成果が発揮されるとはな」
大地がボールを拾いに行き、慣れた手つきでパスしてくる。
それを受け取った俺の心臓は今にも張り裂けそうなぐらいバックバクだ。
自分で勝負をしかけた手前、逃げることは許されないのは当然のこと。
でも、それでもこちらとしても負けるわけにはいかない。
俺は軽く息を吐き、フォームを意識して遠くのバスケットゴールを見つめる。
遊びでやってた時よりもやたら遠くに感じる。緊張のせいか。
一投目を放つ。それは空中で弧を描き、目標までたどり着く。
―――ガコン
「外れたか」
「結果から言えばそうだが、それでもやっぱちゃんとゴール枠に当たるのはだいぶやべぇ」
勝負なのに相手に賞賛を送るとか、それはとても大地らしい。
俺はボールを回収し、大地に渡した。
「次も決められたらさすがにやばいな」
「決めるぜ、俺は。つーか、さっき聞いてなかったがこれ何点マッチよ?」
「長くてもダレるだけだ。だから、互いに5投して勝敗を決めよう」
「引き分けは?」
「そこはもうじゃんけんだな。サドンデスは長くなりそうだし」
「そうだな。んじゃ、このまま次も決めてプレッシャー与えてやるよ」
大地は2投目を放つ。しかし、結果はゴールのリングにぶつかり弾かれた。
続いて俺の2投目。されど、俺のシュートは再びリングに嫌われる。
「おいおい、そろそろ入れておかないとまずいんじゃないか?」
「煽って調子崩そうたってそうはいかないぜ。
むしろ、お前の方こそさっきの3連続で力を使い切ったんじゃないか?」
「まさか。むしろ、俺はこっからっつーの」
大地は数回ボールをバウンドさせ、自分のタイミングで放つ。
それはボードに直撃し、リングの上を転がって、やがて外れ落ちた。
「くぅ~! 外れた。だが、こっちはまだ精神的余裕がある。
ここでお前が外したら、いよいよもって苦しい展開になるな」
「大地、それってフラグって言うんだぜ」
大地にボールを渡してもらい、ボールを両手で持って手に馴染ませる。
なんというか打ちやすい角度というか位置かあるのだ。感覚の話だけど。
ゴールに向かって構え、狙いを定める。
打つ力加減は先程と同じ。それを思い出せ。
ただし、位置は少し左側に修正。それで入るはず!
俺はゴールに向かってボールを放つ。
ボールは俺を起点として空中に綺麗な弧を描き、ゴールへ誘われる。
ゴールリングの手前でボールが直撃し、空中へ跳ね上がった。
外れたと思われたが、再びリングに当たるとそのままゴールに吸い込まれた。
「入った......うしっ!」
自然と出てしまうガッツポーズ。
いやぁ、やっぱスリーポイント決めるって気持ちいい~!
ってか、どうだ? これで勝負はイーブンだぞ!
「ま、マジか~.......普通あの流れで決めるかよ......」
大地の顔が焦りと驚きの感情で満たされている。
はは、どうやら精神的優位を失ってしまったようだな!
そして、こちらはむしろ精神的に余裕ができた!
「ま、まぁ、これぐらいは想定の範囲内だ。
お前がシュートを決めた所なんて何度も見たことあるしな、うん」
「次はお前の番だぞ。決めてみろよ」
煽り煽られ。それが俺達の普段の勝負でのお決まりの流れだ。
全員が一丁前に負けず嫌いだからこういう言い合いが成立する。
決して仲が悪いからじゃないぞ? むしろ、良いからやってる。
「いいぜ、やってやるよ。俺がこれぐらいで負けるかよ!」
大地にボールを渡し、アイツは深呼吸して気持ちをリセットする。
そして、閉じた目をカッと開けば、勢いよくシュートする。
―――ポス
「んがぁ......!?」
「うっし!」
大地がガッツポーズする一方で、俺は口をあんぐり。
三日天下じゃないけど、もはやそんな勢いで俺の精神的余裕が失われた。
こ、これはまずい! 俺は大地ほど精度が高くない!
さっきのだってぶっちゃけまぐれとも言える! まずい、まずいぞ!
「拓海く~ん、俺、決めちゃいました」
「ぐぬぬぬぬ!」
「入れてみろよ」
「やってやらぁ!」
そして、煽られ意気込んだ4投目は見事に外れた。
その後、最後の一投となった大地は集中してボールを放つも外れる。
それからついに訪れた俺の5投目。
「これが最後だ。これでお前が外せば俺の勝ち。だが、入れれば首の皮一枚繋がる。
さて、お前はどっちかな。やってみろよ、拓海」
ボールが胸の高さで飛んでくる。それをキャッチすると俺は構えた。
焦りもある。不安もある。だが、否定せずに受け止め、心を落ち着けろ。
一度は出来たんだ。なら、できる実力が備わってるということだ。
後はそれをどうやって引き出すか。簡単だ、それこそ“冷静に”だ。
心身相関という言葉がある。体は心に、心は体に影響を及ぼす。
心を落ちつけさえすれば、体には余裕が生まれ、本来の実力を発揮できるはず。
「よし、いける」
俺は膝の屈伸を使い、そのバネを利用してボールを放った。
それは再び空中に弧を描き、ゴールへ。そして――
―――ポス
「なっ!?」
「大地、サドンデスだ。決めるぞ、伝統的な決着方法でな!」
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