第135話 俺の知らない青春関係図なんだけど
大地が断ってから早くも数日が経った。
文化祭実行委員としての仕事も少しずつ始まり、今日は初回会議だった。
「――ってことでよろしく頼む。それじゃ、これで会議を終わる」
二年生の先輩がそういって会議を終了させた。
初回ってことで大まかな流れを聞いた感じだ。
それと運営側になったことで本番までは日々が忙しくなることに、もうすでに少し嫌な気分を抱えている。うぅ、筋トレしたい。
「なんだか忙しくなりそうだね」
「まぁ、今のところは大丈夫だと思うけど」
俺が席を立ちあがると、同じくして隣に座っていた東大寺さんが立ち上がった。
さて、俺もそろそろ帰るとするか。
そんなことを思いながら、教室までの道中は東大寺さんと話した。
「まずは文化祭の出し物を決めなきゃだね。早川君は何かやりたいことある?」
「やりたいことかぁ......」
そう言われるとパッと思いつくことがないな。
なぜなら、俺はリアルでの文化祭でロクな思い出がないからだ。
例のごとく不良グループに言い様にいじめられたからだ。
詳細は省く。これ以上は思い出したくもない。
とりあえず、この高校がどの程度の規模で何が出来るのはさておき、無難に漫画とかの文化祭のイメージを羅列してみよう。
「文化祭と言えば、なんだろう......喫茶店、コスプレ、お化けやしき、劇とか?」
「あぁ、いいね~。メイド喫茶とかやっぱ漫画とか見ても憧れるよね。
こう、一人では恥ずかしくて中々出来ないけど、皆が一緒なら出来るかもっていうか」
「東大寺さんはメイド服を着てみたいの?」
東大寺さんからそんな言葉を聞くとは思わなかった。
しかし、意外でもないというのは、彼女の元が陰キャであることを知ってるからだろうか。
俺が素朴にそんなことを聞いてみると、東大寺さんはピクッと反応した。
そして、赤らめた顔でもってこっちを覗くように見てくる。
「は、早川君はうちのメイド姿......見たいですか?」
こ、これは試されてるのか!?
俺がメイド服を見たいかどうか。
本音を言えばみたいに決まってる!
可愛い子が可愛い服を着る。
一体その何を止めるというのだろうか。
しかし、ここで俺が東大寺さんの好感度を上げるような言葉を選んではいけない。
かといって、無理に嘘をついて傷つけるようなことはしたくない。
求めるべきは50点の回答。ザ・普通の回答。
「男なら見たいに決まってるだろ。
あ、となると、玲子さんやゲンキングもメイド服になるのか、ふむ」
そんな都合のいい言葉は思いつかなかったので、話題の方向性をズラすことにした。
質問には答えるけど、すぐに話題が逸れそうな話題をこちらから出す。
所謂“男ってそういうとこあるよね”みたいな回答が来ればいいんだ。
さて、思春期特有の俗物に対しての東大寺さんの反応は――
「えへへ、見たかって言われた......」
つ、都合よく言葉が切り抜かれている!?
これじゃ、ただ俺が東大寺さんのメイド服姿が見たいみたいな話しになるじゃないか!?
いや、実際そんな話はしてたけども!!
「ゲンキングとかメイド服が似合いそうだよな。
やっぱ、ああいう元気系がやると様になるかもしれない」
すまないゲンキング、少しだけネームを利用させてくれ。
無理やりもう一度話題を取り上げてみたがどうだ?
「うぅ、唯華ちゃんの話ばっか......」
わかりやすく頬を膨らませてらっしゃる。
相変わらず表情の差分が俺が関わってきたどの女子よりもわかりやすい。
話題に出した俺がここからどう話題を膨らまそうか考えていると、「あっ、そういえば」と東大寺さんの方から話しかけてきた。
「早川君、最近唯華ちゃんと話してる姿をあまり見ないけどどうかしたの?」
「え?」
まさか東大寺さんからそんな話題が飛び出してくるとは思わなかった。
俺がゲンキングと話してないのは、彼女の方から「東大寺さんの意識からわたしを消そう」と提案されたからだ。
その話がされたのは俺がゲンキングの家に凸った時。
唐突に接触しないように言われたのはびっくりしたが、彼女的に東大寺さんの意識下にいるうちは動きずらいとのことで、それ故にこの数日間は彼女と一言も会話してない。
「どうしてそんなこと聞くの?」
この話題は少なくとも東大寺さんには関係ない話だ。
彼女の方からそれを聞いてくるのは道理に沿わないんだが......。
「なんていうか、ここ最近唯華ちゃんと話してて元気がないなって思うの。
一見すればいつも通りの明るさなんだけど、その笑顔が無理して作ってるっていうか」
まぁ、ゲンキングの場合は陰キャを偽って陽キャを演じてるし、そりゃ無理が顔に現れることもあると思うが。
しかし、「ここ最近」っていうワードが気になる。
「前に話してた時は違ったのか?」
「うん、全然違う。もっと自然体で明るかったっていうか。リラックスしてたっていうか。
だけど、唯華ちゃん、早川君と話さなくなってからなんか変なの」
あのゲンキングが俺と話さないだけで変に?
あんまり想像はつかないが、東大寺さんがそこまで心配するならそうなんだろう。
「代わりに、よく薊君と話してる姿を見かけるんだ。
これって、唯華ちゃんが薊君に好意を持ってるってことかな!?」
ん? なんか流れが変わったぞ? なんでそんな話になった?
この子の中で一体どういう会話の流れになってるんだ?
「待った、東大寺さん。急に言ってる意味が理解できなくなったんだけど。
もう少し整理して俺に話してみてくれる?」
「えーっと、早川君は唯華ちゃんのことが好きで」
「え?」
「え?」
俺と東大寺さんは思わず顔を見合わせた。
とりあえず、続けてもらうか。
「続きを聞かせて」
「う、うん。で、早川君は薊君と友達で、唯華ちゃんは二人の間で揺れ動いてるって感じだと.......これまでは早川君と距離が近かっただけで」
「何その三角関係が生まれてる青春。俺知らない」
この子の中で一体どうしたらそのような関係図が作成されているのか。
その話を鵜呑みにするのなら、東大寺さんを含めるともっとややこしいことになるんだけどね。
「え、早川君は唯華ちゃんが好きなんじゃないの?
この前だってあんなにハッキリと......」
東大寺さんの脳内だとすでに四角関係が構築されてるのかぁ......。
「俺は東大寺さんが何を考えてるか分からないけど、ゲンキングのことは好きだよそりゃ。
だけど、それがハッキリとした恋愛感情かと問われたら微妙だけど」
「それじゃあ、実は唯華ちゃんは薊君のことが好きってこと?」
「いや、それも違うんじゃないかな」
さすがにそれは決めつけが過ぎるって。
それに俺は大地の好きな人が東大寺さんって知っちゃってるわけだし。
え、東大寺さんってこんな恋愛脳だったの?
「ってことは、早川君はフリーもフリーってこと、か。
えへへ、なんか凄か事知ってしもうた」
急に東大寺さんがめっちゃニコニコした笑顔を浮かべる。
同時に、俺はなんかとんでもないミスをしてしまった気がした。
これはむしろ勘違いさせた方が正解だったのでは?
「でもでも、早川君は違うってのは分かったけど、まだ唯華ちゃんが否定してるどうかはわからないんだよね!?」
「え?」
「よし! もしこれが本当だったらうちら恋のキューピッドになるかもしれないね!」
「ちょ待って――」
「なんか楽しくなってきた! それじゃ、明日から調査開始ね!」
東大寺さんは走り出すと一足先にクラスへと戻っていった。
俺はポケットからスマホを取り出すとゲンキングに「緊急会議!」とだけメールした。
読んでくださりありがとうございます(*'▽')
良かったらブックマーク、評価お願いします




