第133話 一先ず協力してくれるらしい
放課後から無事脱出? した俺は予定通りゲンキングの家にやってきた。
何気女子の家に自分の意志で行くのが初めてだったから緊張している。
しかし、ゲンキングなら気の置けない仲だし大丈夫だろう。
そして、ゲンキングの家のインタホーンを鳴らそうとしたその時、後方から声をかけられた。
「あら、拓海君じゃない」
「あ、ゲンキ......じゃなかった唯華さんのおばあちゃん」
そういえば、ゲンキングはおばあちゃんと暮らしてたんだったよな。
ゲンキングの両親とは顔を合わせたことないけど、共働きだったりするのだろうか。
「こんな遅くにすみません。少し唯華さんに用があって」
「構わないわよ。それよりも、唯華の所にこうして来るってことはもう恋人になったのかい?」
「もう」とは? まるで俺がゲンキングと恋人になるのは当然みたいな言い方するなぁ。
「まさか。唯華さんは普段の私生活はどうかわかりませんが、結構人気あるんですよ」
実際、告白されてフラれたという男子の体験談を聞いたことある。
それに俺を使いぱっしりにしてラブレターを渡したことも実はあったりする。
そのラブレターの時はかなりの動揺っぷりだった。
だけど、内容を読んだ瞬間冷めたのを見たのは、勇気を振り絞った男子が気の毒に思えたよな。
そんなことをゲンキングのおばあちゃんに伝えると「まっさか~」みたいな顔をしている。
まぁ、オフモードのゲンキングのズボラさを考えるとそう思えないんだろうな。
「でも、結局恋人もいないんでしょ?
せっかく高校生にもなって......乙女の花は短いというのに。
唯華に用があるんでしょ? なら、中に入っていいわよ」
「あ、いや、すぐに済む話なんで。それにご両親に迷惑をかけることに......」
「唯華は高校から通うのに近いって理由でこの家に住んでるだけだから、気にしなくても大丈夫よ。
それに仮に込み入った話になったとしても、すぐに友達の家にお邪魔できるから大丈夫」
それの一体何が大丈夫なのだろうか。
このおばあちゃんは割と自分の孫を安売りするよな。
すぐに恋愛の話に絡めたがるところもあるし。
ともかく、俺はおばあちゃんの許可を得てゲンキングの家にお邪魔した。
前に来たことあるのでなんとなく部屋の場所は把握している。
二階に上がってすぐの部屋。
ドアの前でノックしようとした時、ドアの向こう側から妙な声が聞こえてしまった。
「んっ........ハァハァ、ふぅんっ......くっ、あっ」
妙な荒い息遣いと嬌声にも似た高音ボイス。
思春期の思考が一瞬ゲンキングのあられもない姿を想起させてしまった。
だが、すぐに頭を振って妄想を拭う。
いやいやいや、ゲンキングに限ってそれはない。
これはアレだ、何かエッチなことしてると思っていたら、全然違うことで自分がムッツリなことがバレるパターンのやつだ。進〇ゼミでやってた。
というか、むしろそうじゃなければこっちが気まずいって話なわけで。
そんな現場目撃してしまったら、そもそもなんかもう色々変わってきてしまうわけで。
俺はハッキリと聞こえるように敢えて強めのノックをした。
すると、ドアの奥からは「おばあちゃん、何?」という声が聞こえてきて、数秒後にドアがガチャッと開いた。
「料理手伝えとか無理だよ、ハァ。今、リング〇ィット中で......」
ドアを半分ぐらい開けた所でゲンキングと目が合った。
今の彼女は言葉通り運動ゲームをやっていたようで、まるでヨガをやる女性が着るようなスポーツウェアを着ていた。
「......よっ」
「.......」
ゲンキングは頭が真っ白という感じの表情で、サッとドアだけはキッチリ閉めた。
数秒後に聞こえるドアの向こうからのドタバタ音。
「え、なんで!? なんでここに拓ちゃんが!? え、えぇ!? どうして?
まさかおばあちゃんがまた勝手に招き入れたとか?
拓ちゃん、頼まれたら断れなさそうだし。っていうか、今の格好見られた!?
え、こんな薄着見られたとか恥ずかしすぎる!! 死ねる!!」
動揺と困惑と恥かしさってのが言葉から手に取るように伝わってくる。
こんな動揺したゲンキングは稀なので、なんか少し新鮮な気分になった。
数分後、開かずの扉かと思えたドアが開く。
恥ずかしそうに頬を染めたゲンキングの顔が先に隙間から覗かせ、その後招き入れてくれた。
「と、とりあえず、どうぞ......」
「......お邪魔します」
ジャージを羽織っていたゲンキングは、俺を部屋に入れると一人ベッドに座った。
俺はというとゲンキングの前にちょこんと座る。
「とりあえず、突然お邪魔してごめんな。驚かせただろ」
「ま、まぁね。レイソぐらいしてくれればまだ良かったと思うけど」
「実は送ってたんだよね。でも、気づいてないようだったから、アポなしで凸らせてもらった」
ゲンキングは自分のスマホで通知を確認し始めた。
「あ、本当に来てた。タイミング的に気づかなかったか~」とすぐに嘆いていたが。
丁度、ゲンキングがゲームを始めて少しした辺りだったかもな。
「拓ちゃんが女子の家を尋ねる最低限のマナーがあることは分かった。
だけど、わたしからの反応が戻ってくるよりも先にここに来たってことは、拓ちゃんの用事がそれだけ緊急性があるってことでしょ?」
「さすが太陽神。全てを見通す目はさながら天地統べる天照大御神の如し」
「久々に言われたな、それ。って、そう言うのいいからさっさと用件」
相変わらずオフモードのゲンキングは基本的に返しもローテンションだ。
雰囲気から余計なことに体力を使わせるなという意思が伝わってくる。
しかし、ここに来た以上俺も引けない。
俺は力強く床に両手をつけた。
そして、完璧な姿勢でもって額で床にキスをする。
見よ! 俺のこの完璧な土下座を! そして、どうか願いを聞き入れてくれ!
「俺にどうか力を貸してください!」
「初手で土下座!? え、とりあえず、話を聞くから頭上げて!」
「そ、そうか。実は――」
そして、俺はゲンキングにこれまでのことを正直に話した。
東大寺さんからの思わせぶりなアプローチから、大地からの恋愛協力について。
こんなこと頼めるのはゲンキングしかいないってのをアピールしながら。
「ハァ、マジか......」
案の定、ゲンキングは呆れた様子で頭を抱えている。
やはりこういう反応になったか。しかし、俺も一人では無理だ。
「――というわけで、どうにか東大寺さんを上手く誘導できる人材が欲しい!
そこで誰とでも分け隔てなく接することのできるゲンキングに力を貸して欲しい!」
「別に誰とでも仲良くできるわけじゃないよ。
ただまぁ、拓ちゃんの言いたいことはわかるし、実は願ったり叶ったりなんだよねそれ」
ん? どゆこと?
「薊君からはわたしにも協力要請があったんだよ。拓ちゃんよりも早くにね。
けどさ、さすがに男子の方が中々難しいっていうか。だから、ね?」
これはなんという僥倖だろうか。
まさか大地がゲンキングにも協力を頼んでいるとは思わなかったが。
ただ、この場合に限っては好都合とでしか言えない。
「ってことは、ゲンキングは俺の協力をしてくれるってことでいいんだよな?」
「まぁ、そういうことになるかな」
よし、思ったよりもスムーズにゲンキングの協力を取り付けたぞ!
これなら後は時間の問題だ。大地の魅力なら意外と何とかなるだろ。
こういっちゃ失礼だが、東大寺さんは一つのことに突っ走るだけであって、もしその魅力に気づいたならチョロそうだし。
「ただし!」
「ん?」
ゲンキングがビシッと人差し指を突き付けて来る。
「しばらくの間、拓ちゃんはわたしに近づかないで!」
.......え?
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