第129話 こりゃまずいことになったで!
夏休みが明けてから早くも三週間。
俺は少しばかり緊張した面持ちで東屋へとやってきた。
時は昼休み。
普段ならいつメンで食っている時間だろう。
だけど、今回ばかりは大地との二人きりだ。
どうやら大地には大事な話があるらしい。例のメールで来た時だ。
大事な話ってだけでなんか緊張するのに、なぜか同時に嫌な予感もしている。
こう......胸の奥でザワザワと騒いで仕方ないのだ。
俺が東屋へ来るとすでに大地がスタンバってた。
なぜか姿勢正して座っている。
雰囲気からしてただならぬ気配を感じる。
これは......どれだけ大事な話をする気なんだ?
「よう、大地! 待たせたな」
「気にすんな。学級委員の仕事ぐらい把握してる。
俺こそ急に呼び出して悪い。それもこんな月曜日から」
「別に問題ないよ。話があるってのは事前に聞いてたことだから」
俺は大地の横に座る。
相変わらず並ぶとコイツのデカさをハッキリ感じるな。
とりあえず、平静を装ってフランクに聞こう。
「で、話ってのは?」
「弁当食いながら話そうぜ。昼休みもそう長いもんじゃないし」
「お前がそう言うなら......」
大地が弁当箱を膝に乗せて包みを解いていく。
俺はいつものおかずも入るどんぶり型弁当を取り出した。
大地はおかずを口に放り込み、しゃべり始める。
「正直、こんな真面目な空気出しちゃいるが、話の内容自体は別に真面目に言う必要はないんだよ」
「とはいえ、お前は気合入れて言わなきゃならん内容なんだろ?
つーか、話す相手は俺だけで良かったのか? 相談相手なら空太とかの方が」
「アイツは俺がこれから話すことに関してあまり興味ないからな。
それに隼人に至っては小馬鹿にしてきそうだし」
「アイツも興味がないことにはとことん無関心だぞ?
一応、それっぽい一般論的なアドバイスはしてくれるだろうけど」
となると、空太にも隼人にも共通して興味がない話題ってことか。
ゲーム系なら空太は反応するし、スポーツ系は案外隼人が乗る。
それを踏まえて考えると......人間関係ってところか。
大地は陽キャに属するから話しかけるなら自ら話しかけるタイプ。
それを考慮するなら、これから話すことはまず恋愛系となるだろう。
うぅ、なぜか知らないがすっごくゾワゾワする。
目の前で火がついた導火線がジリジリと火薬に近づいて来てるみたいだ。
「なるほど、それで俺か。まぁ、これから話すジャンルがなんであれ、俺はオールマイティに話は聞くタイプだからな」
「.......つーか、これはたぶん俺なりのケジメだ」
「ケジメ?」
ほう? もしかして恋愛系は俺の思い過ごし?
大地は半分ほど残った弁当を脇に置く。
そして、首の後ろを擦りながら話し始めた。
「実を言うとな、拓海に相談するのが俺にとって一番選択肢として無かったんだ。
それはこれから話すことに関わって来るんだが......あ、別に拓海が悪いってことじゃないんだ!」
「それはなんとなく雰囲気からわかるよ。でも、俺にも話しずらいことって?」
うん、たぶん恋愛系の話だな。もしかして、女子陣の誰かを好きになったとか?
玲子さんは冷静で大人びてて頼りになるし、ゲンキングは話しやすくて親しみがある。
永久先輩とは関わりは少ないだろうけど、それでも知的で可愛らしい所がある。
確かに、この三人は総じて俺が一番関わりが強いだろう。
そう自負できるほどには仲良くなってると思ってる。
特に先輩辺りを好きになったとしたら、大地はまだ俺と先輩が別れてる事実を知らないだろうし、言いづらいのも仕方ないよな。
「あぁ、その人と話したのは少しだけで、他の男子とは話さない中でお前とはしゃべってるところを見かけるからな」
うん、この言葉だけで先輩だけに絞られたな。
先輩に関しては関わらなきゃいけない相手以外には基本ドライだから。
俺に関しては疑似恋人をした仲だから今も話してくれるんだろうけど。
にしても、う~ん、我ながらあまり良い気分はしないな~。
先輩とは正式に付き合ってたわけじゃないのに、妙に彼氏面しちゃってるというか。
大地がどう動こうが俺が止める権利はないんだけど......なんだか乗り気で応援はしてやれない感じ。
こう考えると、俺は割と先輩に独占欲が働いてるのか?
でも、本来の自分を曝け出して落ち着いて接することが出来るのは玲子さんだし。
ゲンキングだってゲームという共通の話題が出来てからは居心地がいいし。
なんか俺ってば最低な三股やろうに感じてきたな。
くっ、俺も時代が時代ならあの伝説の恋愛モンスター高校生のように多重股してみたい!
不味い、己の醜い部分が漏れてるぞ! 隠せ隠せ!
「そっか。でも、別に俺が囲ってるわけじゃないからな。
大地ならサッと話しかけれるんじゃないか?」
言っておくけど、お前はイケメンの類だからな。
乙女ゲーで言うならスポーツ系の活発イケメン。
お前の名前なら他クラスの女子の会話でも挙がるぞ。
そんなことを言ってみたら、大地は話しかけるイメージをしたのか頬を赤らめた。
そして、口元を手の甲で覆った。
「は、恥ずい.......」
「い、イケメンがデレとる.....,」
大地のような活発系をこうも意図も容易くメス顔に。
先輩って実はとんでもないタラシなのか?
つーか、何をしてこんなにも?
「お前は好きな人が出来たって話題でいいんだったよな?」
「うん......」
「相手はどんなんだ?」
「どんなって......そうだなぁ、まず小柄だ」
「お前からすれば大抵小柄だ。もっと別の情報寄こせ」
お前の身長180センチだってな。
もともと180近くあった身長がさらに伸びるってどういうわけよ。
俺にも分けてくれよ、その身長。
「運動が苦手らしい」
やっぱ先輩やないか。
運動できないといったら先輩しかいないし。
「他には?」
「料理が苦手らしい。後、早起きも」
ん? そら先輩と違うか?
だって、先輩は完璧な兄を演じた結果、家事に関してはハイスペックになったらしいし。
「他には?」
「本を読むのが好きみたいだ。特にラノベを読むらしい」
やっぱ先輩やないか。
先輩はここ最近ラブコメのラノベばっか読んでるって言ってたし。
つーか、意外と知ってるし。思ってるよりも話してるじゃん。
「後、勉強が苦手とも言ってたな」
そら先輩と違うやないか。
だって、先輩は昔はそうらしかったけど、今では学年の上位には常にいるみたいだし。
え、待って、先輩じゃない? それじゃ、俺は今まで誰の話を?
「なぁ、大地。今更ながらその相手の名前って?」
「......ん? 東大寺琴波さんだけど」
「........」
ジジジジッ――ドゴオオオオォォォォン!!! と脳内が弾けた。
爆弾が爆発したどころか地球が爆発したような衝撃なんだが。
それぐらいの衝撃があった......。
つーか、俺......一昨日に一緒に買い物行ってたんですがあああああぁぁぁぁ!?!?
まさか大地の想い人が東大寺さんだったなんて。
い、言えねぇ。大地の好きな人と出かけてましたなんて口が裂けて言えねぇ。
さらにその相手が俺のこと好きなんじゃね? って思ってたことも絶対に言えねぇ。
「どうした? 拓海。なんだか顔色が悪いぞ?」
「へっ!? き、気のせいじゃないか? あー、でも少し寒いかな......」
「まぁ、確かにここ最近肌寒い日が出始めたからな。体調気をつけろよ」
「う、うす」
スーハ―......今すぐここから逃げ出してぇ。
とりあえず、一旦距離取って呼吸を整えてぇ。
「なぁ、拓海」
「あ、はい! なんでしょうか!?」
「実はお前に頼みがあってな。もしお前が東大寺さんをなんとも思ってないなら、俺と東大寺さんの仲を取り持ってくれないか? ひいては恋のキューピッドになってくれ!」
「.........あ、はい」
大地に対しての申し訳なさから俺はそうとしか答えられなかった。
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