第124話 また俺の知らない所で何か起きてる感じですか?
最近、俺の周りが妙にソワソワしてる気がする。
そう思い始めたのは夏休みが明けて二学期が始まってから間もなくの頃。
いつもと変わらない日常が始まるのかと思いきや、それはとある人物の登場によって少し変わった日常を見せることに。
その人物とは――東大寺琴波さんだ。
「......」
俺はチラッと東大寺さんの方を見る。
今の彼女は安達さんと楽しそうにしゃべっている。
相変わらず表情が対象的な二人だ。
正直、過去を振り返っても東大寺さんと何かあったような接点はない。
突然話しかけらたことがあったが、まさかあんなグイグイ来るタイプだとは。
もっと大人しいタイプかと思ってた。
なぜなら、俺は前の東大寺さんの姿を知っているから。
もちろん、それは学級委員としてクラスメイトの顔を見る機会があったからだが。
前の彼女は一言で表すなら大人しい陰キャ女子と言った感じだ。
眼鏡をかけて猫背で基本特定の一人としか話さないといった具合がそう感じた。
しかし同時に、努力家であることはなんとなくわかってた。
ある日、放課後に図書室に向かってみると安達さんに勉強教えてもらっていたし、体育祭が近い時には大地と一緒にグラウンドの端で二人三脚の練習をしていたのを知ってる。
だから、そんな東大寺さんの夏休み明けの姿には目を見張るものがあったが、同時に相当な努力をしたんだろうなと感心もしたもんだ。
そんなわけで、東大寺さんに関しては俺も一目置いているのだが、逆に言えばそれだけ。
配信者の配信を見ずに、切り抜きで楽しんでるような感覚に近いというべきか。
というか、現時点で俺も問題が山積みだから、東大寺さんに目を向けてる余裕がないというか。
結局、夏休みでの永久先輩の告白? みたいな言葉に対して、もしかしたら他の二人もそうだったのでは? と思ってしまってその気持ちを確かめずにはいられない。
なんつーか、ずっと心の奥で妙なソワソワがあるんだよな。
勘違いだったら俺が恥ずかしいだけで終わる。
しかし、仮にそれが本気だったら、それはそれで大問題だ。
とりあえず、玲子さんに聞くのは非常に緊張するから、フレンドリーなゲンキングから探りを入れたいとは考えてる。
「そう考えてると俺もソワソワしてる人間の一人だなぁ......」
そう呟きながら廊下を歩いていると、階段に向かう曲がり角付近で割と大きな声が聞こえた。
「四角関係!? どうしてそうなるの!?」
「いや、それはあくまで琴ちゃん視点というか......というか、四角関係ではない」
四角関係? 琴ちゃん? .....あ、琴波か。琴波って東大寺さんの下の名前だったよな。
なんだか気になる言葉がオンパレードだけど、ひとまずさっきの声は玲子さん?
玲子さんがいるってことは、たぶんゲンキングもいるし、最近だと永久先輩もいる。
永久先輩は相変わらず同学年に友達がいないようだ。
まぁ、本人が行動に移さない限り友達も出来ようないと思うけど。
「すーはー」
俺は深呼吸して心臓の激しい動きを落ち着かせる。
とにもかくにも、これから集まっている女子は勘違いでなければ、俺に好意らしき何かがあると思われる人物達だ。
俺がそれとなく探りを入れるのだとすれば、俺自身が落ち着いているのは必要最低条件。
さぁ、行くぞ。獣の檻に向かう覚悟と勇気で飛び込め!
「ん? 三人ともこんな所で話してるんだね?」
俺は努めて偶然ここにやってきたことを装って話しかけた。
階段近くの場所には案の定、玲子さん、ゲンキング、永久先輩の姿がある。
俺の存在に気付いた三人は大きく目を光らせた。
「た、拓ちゃん!?」
「拓海君......」
「本当に間の悪いタイミング。現実は小説よりも奇なりとはよく言ったものね」
俺の登場に各々が反応の言葉を漏らす。
間の悪いってことは、俺に聞かれちゃまずい話だったってことか?
俺はこのまま足を進めていいか迷ったものの、これが最期のチャンスだと思うような意気込みで飛び込んだ。
「さっきたまたま玲子さんの声が聞こえてさ。近寄ってみたら三人がいて。
最近、玲子さんとゲンキングが教室で話してる姿を見ないと思ったら、こんな所で永久先輩と話してたなんてね」
「拓海君が私が教室にいないことを認知してくれてる......!」
「レイちゃん、一旦落ち着いて。別に大したことじゃないよ。
ほら、白樺先輩って同学年友達いないようですし」
「あなた、随分とキレのある拳を放つようになったじゃない。受けて立ってあげてもいいのよ?」
仲が良いのか悪いのか。
少なくとも、ゲンキングが玲子さん以外にも随分心を許してるような感じが見て取れた。
にしても――
「三人っていつの間にそんな仲良くなったんだ?」
そんな素朴で何気ない質問をかけてみた。
瞬間、三人が一瞬にしてビクッと反応する。
同時に、これまでバラバラだった三人が急に示し合わせたように連携し始めた。
「別に大したことじゃないわよ。
それに関わり始めたのは今に限った話じゃないわ」
「そうそう、拓ちゃんにお願いされ始めた時には少しずつ交流は持ち始めてたよ」
「極めつけは海に行った日でしょうね。
あなたが男子グループと話してる間に色々お腹を割って話してたのよ」
なんか急に饒舌になったなと思わなくもないが、一応筋は通ってる気がする。
もちろん、俺の邪推があることも考慮すれば、この三人はシンプルに仲良くなっただけなのかもしれない。
とはいえ、それは俺にとって思っているよりも障害だ。
というのも、玲子さんとゲンキングは基本ツーマンセルで動いていた。
当然、片方に用事があれば、もう片方はフリーになる。
そこに話しかける隙があった。
しかし、永久先輩の登場という形で基本形態がスリーマンセルへと変化してしまった。
故に、誰か一人が欠けようとも、そこにはまだ二人いる。
その状態で探りを入れるのはあまりに危険だ。
どうにかしてゲンキングだけでも連れていけないだろうか。
とりあえず、まずは正攻法で試してみるか。
様子を見て話題を変える感じで行こう。
「そっか。先輩に俺以外にも話せる人がいて良かったわ」
「安心して、話せる男子はあなただけよ」
「隼人......金城いるだろ」
「ぷ、ふふっ、論破されたわね」
「今戦いのゴングは鳴らされたわ」
嘲笑する玲子さんとバチバチに戦闘態勢に入る永久先輩。
二人が合わせる視線にバチバチとしたオレンジ色の火花のエフェクトが見える。
その二人をアワアワしてながら止めようとしているゲンキング。
その仕草はちょっと可愛い。
そんな姿を見ながら、俺は本題を切り出した。
「そういや、俺、ゲンキングに用があるんだけど少し借りていい?」
「え、拓ちゃんがわたしに......?」
「私が行くから問題ないわ」
「こんな頭の脳内細胞が恋愛で構成されてるような人物よりもワタシの方が適任よ」
「ゲンキングに用があるのに他の人がシャシャリ出ちゃダメでしょ」
案の定、一筋縄ではないかないか。
ぶっちゃけ、なぜかわからないけどこういう結果が見えていた。
正攻法で話が済むのならこんなに苦労はしないんだけどな。
まぁ、それでも俺と彼女達は未だ心の壁を推し量るような関係じゃない。
多少強引に言っても問題ないだろう......どころかそれぐらいが丁度いいかもしれない。
「ともかく、ゲンキングに用があるから。ゲンキングは今いい?」
「う、うん.....わか――」
「あ、早川くーん!」
その時、俺が歩いてきた廊下の方から最近聞き覚え始めた声がした。
その声に振り返ると大型犬が......ごほん、そう見えるほど元気に東大寺さんが走ってきた。
大きく手を振りながら俺の近くにやってきた東大寺さん。
俺に話しかけようとするが、すぐに彼女は目の前のスクールカーストトップクラスの存在に気付く。
「「「「......」」」」
固まった。女子全員の動きも、言葉も、場の空気も何もかも。
廊下のガヤガヤとした声をBGMに牽制するように黙って見つめ合う1対3人。
こ、これは一体どういう状況......?
「修羅場ね」
そんな俺の心を覗いたように、隣に立った安達さんが答えてくれた。
修羅場すか......ん? 修羅場!?
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