第120話 新学期の恋心#5
―――東大寺琴波 視点
緊急集会イン実家。
手ば引きながら連れてきた莉子ちゃんの目ん前で、うちゃ興奮気味に叫んだ。
「莉子ちゃん! 莉子ちゃん! 莉子ちゃん!
聞いて! 聞いて! 聞いて!」
低かテーブルで向かい合い、前のめりになるうちに、莉子ちゃんな鬱陶しそうな顔ばする。
ばってん、今のうちにはそげんこと気にならん。
「うるさい。聞いてあげるから、そう連呼しないでもう少しセリフカットしなさい」
「莉子ちゃん聞け!」
「短くしたら偉く強い口調に変化したわね」
莉子ちゃんなうちん顔ば見たっちゃいっぺんため息ば吐く。
そして、話ば促すごと質問してきた。
「それで? なんでそんなにテンション高いの?
自動販売機でスロットが揃って一個オマケで飲み物でも出てきた?」
「そげなとで喜ぶほど子供やなかばい!
なんと驚くことに拓海君がフリーやった!!」
「十分子供じみた理由じゃない」
莉子ちゃんな相変わらずローテンションや。
こげんまでに反応が薄かとほんなこつ恋に無関心なんばいって思うよね。
って、今は莉子ちゃんの態度ば気にしとー場合やなか!
こりゃほんなこつ緊急事態なんやけん!
「にしたって、あの二人が別れるなんてね。
体育祭で散々騒がしていった割にはあっけないものね。
まぁ、二人の距離感に違和感を感じなかったと言えば嘘になるけど」
「距離感?」
うちが首ば傾げて聞いてみるも、莉子ちゃんな「今となってはどうでもいい話よ」て答えてくれることは無かった。
そして、相変わらずうちん前で頬杖付きながら勉強して、話ば続けてくる。
「それで? 二人が別れたことを知ったからこれから告白するってこと?」
「そこなんばい~問題なんな~~~!」
うちゃぐでぇっと机に突っ伏した。
そん様子に莉子ちゃんな怪訝な目で見てくる。
まるでこいつ頭おかしかとか? てゆわんばっかりに。
「あたし、まるであんたが何に悩んでいるのか分からないんだけど」
「告白ん結果がわからんくなって緊張してしまうってことばい!」
これまでのうちが告白意思ば固めとったんな、あくまで自分の気持ちにケリばつくるためだ。
言うなりゃあ、そん告白うんぬんに関わらず、すでに結果は決まっとー。
やけん、自分の気持ちば伝えりゃあ、それだけで終わりやて思うとった。
ばってん、早川君が先輩と別れとったちゅう事実によって状況が変わってくる。
うちん告白ん結果が未知んゾーンに突入したばい。
つまり、成功と失敗ん二択が生まれた。
うちゃ告白するちゅう気持ちへん覚悟と同時に、答えば聞くちゅう覚悟ばせないかんことば余儀なくされてしまった。
それが問題なんや。
これまでは結果が見えとった悲しさはあったばってん、それだけで済んどったとに。
まさか告白によって成功と失敗ん二択ん結果が生じてしまうなんて!
うぅ、未来が見える悲しさもありゃあ、未来が見えん悲しさもあるとか......。
そげんこげなと話ば、首ば傾げとー莉子ちゃんに拙か説明ながらも話した。
体ば起こし、丁寧に情熱的に身振り手振りしながら。
すると、聞いとった莉子ちゃんの顔はどんどん歪んでいく。
顔んパーツが中心によって、うちば睨みつくるごと。
おおよそ女ん子がしたらよくない顔ばしとーごて思える。
「ハァ~~~~~~~~~?」
「そげん威圧しぇんでもよかろうもん」
「いや、だって、ホントにこのどうしようもなくしょうもない陳腐でふざけたアホでバカで呆れた意味の分からない説明を散々聞かされたら、当然こんな顔にもなるでしょ」
「なんかひたすらうちん抱えとー悩みが頭おかしかみたいな言われ方した気がするっちゃけど」
「気がするんじゃなくて、そう言ったのよ。
バカ、アホ、間抜け、ドジ、無鉄砲」
「莉子ちゃんが呆れすぎて罵倒んボキャブラが小学生レベルまで低下してる」
「恋愛弱者んくせに意味不明なところで暴走機関車」
「じゃ、弱者やなかもん! 経験値が足らんだけやけん!
それに幼稚園の時、同じひまわり組んマサト君から告白されたことあるもん!」
「そこで幼稚園まで引き合いに出す時点で程度が知れるわよね」
そっちだって彼氏おらん歴イコール年齢んくせに......!
ばってん、強う出れんのは中学ん時に莉子ちゃんが男子から告白されとったん知っとーけん!
ぐぬぬぬ、莉子ちゃんめ! マウント取ってそげん楽しかか!
「わかった! そげんうちばバカにして楽しかなら、うちにもでくるってことば証明しちゃる!」
うちゃ立ち上がり指ば差しながら、莉子ちゃんば見下ろした。
今に見てなさい! うちゃやりゃあ出来る子なんやけん!
「あ、これ(暴走機関車)スイッチ入ったかも......」
莉子ちゃんなうちば見ながらそげんことば呟いた。
―――翌日 2限目終わり
「早川君、それ手伝うよ」
早川君が回収した授業んノートば運ぼうとしよったけんうちゃ声ばかけた。
突然声ばかけられた早川君は驚いていた様子やったばってん、「ありがとう」て言うてくれた。
「平気だよ、これぐらい。それに――」
「大丈夫、だいじょーぶ! 任せて!」
うちゃ早川君が持つノートば半分持った。
するとそん時、久川さんが話しかけてきた。
「東大寺さん、手伝ってくれるのは嬉しいわ。
だけど、これが委員長がやるべき仕事だから。
やるとすれば私が手伝うから、あなたがやるべき仕事は無いわ?」
「別に無理なんかしてないよ。
なんだったら、三人で行こうよ!
そっちの方が楽しいはずだから!」
「いえ、だから――」
「はい、半分。渡すんで一緒に行きましょー!」
「「......」」
――4限目美術
「拓ちゃん、二人で――」
「早川さん、良かったら一緒にデッサンやらない......って元気さんどうしたの?」
「え、あ、いや......なんでも.....」
元気さんがモジモジした様子で、チラッとこっちば見る。
ハッ、こりゃまさか......!
「あ、もしかして誘おうて思ってた?
大丈夫だよ。それも見越して三人でやる許可は得ってあるから。!」
「さ、三人?」
「ほら、うちらの教室って奇数じゃん。だから、必然的に一人余ると思うんだけど、それをうちらでやろう!」
「早川君はどう思う?」
「俺? 俺は問題ないけど......」
「なら、やろう! 三人でも描く分には問題ないはずだし!」
ふっふっふ、どうだい莉子ちゃん?
うちだってやりゃあ出来るんばい。
それに、こりゃ早川君と順調に仲良うなれとーとではなかろうか!
こん調子でどんどん仲良うなろうー! そうしよー!
ふふっ、今ばり楽しか!
****
―――悩める親友サイド(安達莉子)
その翌日から、行動方針が「ガンガン行こうぜ!」になった親友を見て、莉子は頭が痛くなっていた。
昨日啖呵を切った時点で嫌な予感は想定したが、それは見事に的中した。
今の親友は言わば、マ〇オがスターを取った無敵状態に入っている。
うだうだ考えることを止め、“拓海と仲良くなる”という一点において、そこに例えライバルとなり得る他者が居ようとも関係なく、正しく止まることを知らない暴走機関車のように突き進む。
親友は楽しく過ごせたと思っているようだが、それぞれ一緒にいた玲子と唯華が困惑していたことを莉子は傍から見て気付いていた。
それはまるで自分の彼氏が他の女子と話しているのを見て、駆られる独占欲に表情を曇らせるように。
今の親友のポジションは、よくある物語で言う恋愛漫画の中盤に出てくる関係性を引っ掻き回すヒロインというべきだろうか。
もっともそれを本人が気づいていないのが余計に質が悪いが。
「もしかしたら本当にワンチャンあるかもね。
やっぱり余計なことを考えずに動く琴波は恐ろしいほど積極的ね」
その恐ろしさはもはや畏敬の念に届きつつあるが。
いずれ無敵状態が終わって過去の行動を振り返り恥ずかしがる親友の姿が思い浮かぶ。
その時は少しは優しくしてもいいかな、と莉子は思いながら机の上にあるノートに向き合った。
読んでくださりありがとうございます(*'▽')
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