第117話 新学期の恋心#2
―――東大寺琴波 視点
早川拓海君。ぽっちゃりした小柄ん男ん子ばい。
うちとは同じクラスで、学級委員としてクラスんために色々と動いてくれる親切で優しか人。
そして――うちん今ん好きな人ばい。
そげん人が! 今! うちんすぐそばにおる!
ど、なしてこげん状況になったと!? だだだ、大丈夫かな!?
心臓ドクンドクン言いよーっちゃけど聞こえとらんばいね?
聞こえとったら恥ずかしゅうて死んでしまえる!
「あのー、東大寺さん」
え、う、うち!? 早川君がうちに話しかけてくれた!?
い、一体何ん用で――
「4限目の科学ノート回収するから提出お願いできる?」
あ、そういやそげんこと言いよった......。
「ぷふっ、くふふふふ......」
うちん挙動不審な行動に莉子ちゃんが笑いよー。
り、莉子ちゃんめ~! 人ん反応ば見て笑うなんて!
しょんなかろ! 早川君がいきなり近くに来たらこうなるばい!
うちゃ平静ば装いながら、引き出しから科学んノートば取り出して早川君に渡す。
莉子ちゃんも渡したところで離れようとする早川君ば、莉子ちゃんが呼び止めた。
「早川君、ちなみにそれって全員分集まったの?」
「え? あぁ、そうだな......」
早川君は少し上ば向き、考え始めた。
恐らく、こん昼休みん間ずっと回収しとったんやろうね。
やっぱ、頑張り屋さんやて思う。
「そうだな。大方全部集まったんじゃないかな。
玲子さんにも確認してみないとハッキリしたことは言えないと思うけど」
「なら、少しは話に付き合える時間はあるってことね」
「?」
早川君は莉子ちゃんの言葉に首ば傾げる。
そげなうちも莉子ちゃんの返答ん意図がわからんで、ただ黙って聞きよーだけなんやけど。
莉子ちゃんなおもむろに席ば立ちあがり、近くの誰もおらん机から椅子ば拝借した。
そして、そん椅子ば向かい合わせに机ばくっつくるうち達ん横に設置した。
こん位置に置いたってことは......莉子ちゃんまさか――
「せっかくだから、早川君も話に付き合ってくれない? 私の友達の悩み事に」
「莉子ちゃん!?」
うちゃ思わず立ち上がり、前のめりになってしもうた。
なったっちゃしょんなか展開やて思う。
だって、それって......さっきん話ば早川君にも聞かせるってことなんやけん!
突然の莉子ちゃんの提案に早川君は戸惑うとー。そりゃそう!
「莉子ちゃん、急に何ば言いよーと!
早川君はお仕事があるっちゃけん邪魔しちゃつまらん!」
「あらあら、そんな感情的になる話だったの?」
「感情的にって、そげなと当然――ハッ!」
莉子ちゃんのニヤニヤした表情に誤魔化されとったけど気づいてしもうた!
今、うちん言葉――完全に博多弁出ろった!
ど、どどど、どうしよう! どうしよう!?
早川君にうちん博多弁ば聞かれてしもうた!
言葉が変とか思われとらんかな?
気持ち悪かとか思われとらんかな?
「......」
ばりキョトンとした顔でこっちば見よーぅー!
これって大丈夫と? 大丈ばなかと? どっちなんかー!?
「今の”なんとか言いよーと”とか”なんとかちゃけん”って博多弁ってやつ?」
「っ!」
早川君が素朴な質問ばして来た。
別に何かば言われたわけやなかとに体がビクッとしてしもうた。
所詮は小さか頃に顔も思い出せん男ん子から言われた言葉なだけなんに......同じ反応ばしたらて考えるととても怖い。
だばってん、聞かれた今更否定することも難しかろう。
うぅ、もう少し冷静に状況ば捉えられたこげんことには――
「へぇ~、本家は初めて聞いた。俺、博多弁好きなんだよね」
「え?」
「そのね、昔たまたまやったゲームに方言ヒロインが沢山出てくるのあってさ。
その時に博多弁を見聞きしたことがったんだ」
そ、そうなんや......そげんことが。
「変やなか?」
「変? 考えたことも無かった。俺は良い個性だと思うよ。
伊達に人気ナンバーワン方言じゃねぇなって。
さっき方言を聞いてむしろ感心した気さえする。
って、なんかきもい事言ってる気がするな、ごめん」
「.....好いとー」
..............何ば言いよーとうちゃああああぁぁぁぁ!?
いくら感情が高ぶると口から漏れやすかて言うたっちゃ、吐き出す言葉にも限度があるばい!?
うちもうちばい! 変やなかかなって不安がっとった方言が褒められただけで、ポロッと本音が漏れてしまうなんてチョロすぎる!
ばってん、実際好いとーとには変わりなかし。
だけどだけど 、こげんタイミングでん告白は......ってそうばい!
これって告白になってしもうてるばい!
まだ何にも覚悟決めとらんとに!
それにどうしぇ想いば告げるならもう少しロマンチックな場所がよかし!
あぁぁぁぁ、顔も暑かし、心臓はバクバクやし、目はグルグルしてきた!
と、ととと、とにかくなんとか誤魔化せな!
「す、水筒ん中身が切れたけん、自販機で飲み物買うてこなな~......ははっ、あはは......」
「......行ってらっしゃい」
―――放課後
「ふふふ、あはははは!」
早川君とん昼休みん一件があってから早うも放課後。
現在は、馬鹿笑いしとー莉子ちゃんの家にお邪魔させてもろうとー。
そして、莉子ちゃんの部屋にあるテーブルで、うちゃ顔ば突っ伏し自分の愚かさに打ちひしがれとった。
正直、あん昼休みから今までん記憶が全部朧気な感じや。
授業中も終始魂抜けとったような感じするし、何もやる気湧かん。
「あははは、やっぱ琴波って最高ね!
これだけで友達になった甲斐があるって感じするわ」
やっぱ、怒りん感情は持っとーかもしれん。
さすがに莉子ちゃんや、笑い過ぎとは思わんかね?
ばってん、そん笑わるー原因ば作ったんなどこん誰であろうこのうちなんやけど。
「それにしたって、気にしてた方言が変じゃないって言われただけで“好き”って漏らすなんて.......くふふふ、クソチョロ」
「あーーー! もう笑うなー! しょんなかろうもん! 超嬉しかったんやけ!!」
「好きという時点で溜まりに溜まってたゲージが、限界突破してしまったのよね。まるで犬みたいね」
「うちゃ犬やなかもん!」
犬やったら早川君と付き合えなかろうもん!
「しかしまぁ、あなたがどれだけ早川君のことが好きなのかは理解できたわ。
あたしの行動も余計なお世話だったかもね」
うちゃ突っ伏しとった顔ばニョキッと上げる。
目ん前におる悪ん女幹部ば睨みつけながら言うた。
「そういやあ、あん昼休みに何ば企んどったと?」
「企んでるなんて人聞きが悪い。
ただ、恋するあなたの情熱的な想いを、たまたま好きな人が聞いてたって状況になる予定だっただけよ。何も他意なんてない」
「他意しかなかろうもん! そげなと実質告白と変わらんばい!」
「そうね。だけど結果的に、あなたが自爆してくれたおかげでそうなったけど」
「がはっ!」
反論ん余地もなか事実ば突きつけてきた莉子ちゃん。
こっちが拾うた拳銃で攻撃したかて思やあ、ロケットランチャーで反撃された気分。
「ハァ~~~~~」
うちゃ体ば起こし、そんまま重心ば後ろにかくる。
そんままカーペットん上にゴロンと寝そべった。
うちゃ両手で顔ば覆うた。
思い返したっちゃ恥ずかしさしかなかあん展開。
絶対に真っ黒になるやろう史実。
何が「好いとー」と「水筒」ば間違えるかもしれんだ!
間違えとーとはうちん思考回路ん方やなかか!
あぁ、穴があったら潜って一年ぐらい冬眠したか。
「明日から一体どげん顔して会やあよかと......」
「別に相手の反応からして普通にしてればいいんじゃない?
とはいえまぁ、この結果を生み出した責任の一旦はあたしにもあるし、仕方ないから人肌脱ぐわ」
指ん隙間から莉子ちゃんば見る。
なんかまた企んでそうな感じがする。
「安心しなさい。さすがに悪いようにはしないわ」
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