単独行動
防御側のP高は、いつものごとく『Temp』をミッドに置き、二手に分かれる作戦を考えていた。
だが、直前でアリスは一人でミッドへ行くと希望した。
【Temp:そんな練習してないぞ。ぶっつけでやるのか?】
【RisuxRisu:ハイ。それがいいと思いマス】
【DarkGuru:根拠はなんなんだよ、根拠は?】
【RisuxRisu:見れば分かりマス】
【Comet:いや、さすがにそれは……】
(ここで揉めるのはまずいですわ)
普段は麗羅の影に隠れ、特に主張はしてこないアリスだったが、なぜか急変した。こんなアリスを見るのは麗羅も初めてのことだ。
助けを求めるように麗羅を見てきた『Temp』と目があった。
が、どうすればいいのか麗羅にもわからない。
ただ、無理に止めればそこでチームが分解してしまう、そんな予感があった。
【Riley:アリスの好きにやらせてください。ここまで言うからには作戦があるのでしょう。ですわね?】
【RisuxRisu:オフコース】
【Temp:わかった。なら今回はそれでいこう】
【DarkGuru:いいのかよ?】
【Temp:まだこっちのリードがある。もしダメだったらすぐ戻すぞ。それでいいな?】
【RisuxRisu:イエース】
(作戦、そんなものが本当にあるんでしょうか……)
麗羅もこれまでアリスから作戦らしき話を聞いたことがない。
アリスの肩を持った手前、これで何も無ければ麗羅の立つ瀬もない。
アリスは相変わらず無表情で感情は読めないが、しかし得も言われぬ迫力があった。
それは獲物を見つけた捕食者を思わせた。
運命のラウンドが始まる。
予定通りアルファへ麗羅と『Temp』、ミッドにアリス、ベータに『DarkGuru』と『Comet』が向かう。
勢いよく配置に付いた面々だったが、アリスは予定の位置より奥へと進んでいく。
【Temp:お、おい! 出すぎだ!】
彼の制止もまったく聞く様子がない。
アリスが進む先には、ミッドを上がってくる友愛がいた。
真正面から当たることになったが、丁寧にクリアリングしつつ進んできた友愛に対し、アリスは無造作にどんどん上がっていく。
案の定、先に敵を見つけたのは友愛だった。
【Toa:だあぁぁぁ! ダウン!】
刹那の銃声。倒れたのは友愛の方だった。
※
「ほら、リプレイ見てみろよ」
クリスのディスプレイを、『Nimrod』がじっくり観察している。
そこには友愛がダウンしたシーンがスローで流れていた。
「明らかに、こっちのが先に照準を合わせてる。でも、お前の従姉妹のフリックがそれを上回った。早すぎるだろ」
フリックとは一瞬で的に照準を合わせて撃つことだ。
友愛は敵がいそうなところに最初から照準を合わせていた。置きエイムというものだ。
移動の時間があるぶん、フリックより有利なはずだった。
「こりゃプロでもトップクラスに早いぞ」
「そう。なんせ僕より早いからね」
「ウソだろ!? お前より早いなんてチートだろ」
「そうやって疑われるのが嫌で、本気を出さなくなっていったんだよ」
――女、子供、日本人。
――そんな者に負けるはずがない。
――ならばチートに違いない。
――通報しろ。追い出せ。
それが、大抵のプレイヤーの思うことだった。
少女時代のアリスはしょっちゅう、そんな目にあっていた。
どうやら自分は規格外らしい、そんな自覚が芽生えていった。
中学に上がる頃には、自然と手加減する癖がついてしまっていた。
奇異の目にさらされることも、不当な批判を受けることも、耐えられなかったのだ。
「ようやく本気を出す環境に出会えたんだね」
クリスは『Nimrod』に聞こえぬほど、小さな声で言った。
ミッドに敵がいないことを確認したアリスは、そのままアルファへ向かった。
アルファを攻める相手を、裏から急襲しようという腹だ。
今女でアルファを攻めていたのは樹那と灑だった。
【Jyuna:友愛がアリスにやられた?】
ログに流れる情報をみて、樹那は目を疑った。
アリスは麗羅のサポートについていると思っていたからだ。
【Jyuna:どっちかに厚めに防御を敷く気かもしれん。慎重にいけ】
樹那の考えでは、ミッドには『Temp』がいるはずだった。
しかし、そこにアリスが来たということは、ここにきて新しい戦法を使ってきたようだ。考えを改めなければならない。
急遽、思考を巡らせ、導き出した結論は、どちらかのポイントに『DarkGuru』と『Comet』と『Temp』を配置、アリスと麗羅がミッドにいて、攻めてきた方に移動する、そういう作戦ではないかということだった。
樹那はサーチャーのスキルを使い、アルファ内を索敵した。
残念ながらすぐに破壊されてしまったが、それは同時に誰か内部にいるという証拠でもあった。
【Jyunaa:アルファにいる! ベータを攻めるぞ!】
アルファにいるなら手薄なのはベータ、そう判断した樹那と灑はただちに移動を開始した。
が、そんな樹那をアリスの弾丸が撃ち抜いたのだった。
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