表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
73/78

とあるゲーム雑誌の記事より抜粋

 クリスの両親はインターネット・カフェを経営していた。

 それが彼のキャリアに大きく影響したことは言うまでもない。

 当時、彼らの国はまだ戦争の爪痕が残っていた。インターネットは、普及しているとは言えない状況であり、彼の両親はそこに可能性を見出したのだった。


 彼がティーン・エイジャーになると、きちんと宿題を終わらせることを条件に、両親は彼にPCの使用を許可した。

 早くからPCに触れさせることが、彼のキャリアに役立つと考えたからだ。

 インターネットへの接続も、調べ物をするためならと許可した。

 プログラミングの技能やネットワークの知識が、これから先は大きな収入源となるだろうと考えていたのである。


 しかし、彼は両親の期待とは裏腹に、ビデオ・ゲームにのめり込んでいった。

 彼らの店の利用客のほととんどがビデオ・ゲーム目当てだったことも原因だろう。

 他の利用客や、ビデオ・ゲームに詳しい友人などに誘われるうち、いくつかのゲームをプレイするようになった。


 アクション・ゲーム、特にシューティングに才能の片鱗を見せた彼がカウンター・エスピオナージと出会うのは時間の問題だった。

 彼は、あっという間にその地区のトップ・プレイヤーとなる。

 さらなる高みを目指した彼は、地元の友人たちとチームを組み、国内の大きな大会へと出場した。

 そこでは三位に輝いたが、彼個人の力は優勝チームのメンバーにも匹敵するものだった。


 その後、アマチュア最強と言われるチームへ移籍した彼は、その才能をさらに伸ばしていった。

 国内にはもはや、彼らの相手となるチームはなくなった。

 国外へ出る時期が来たのである。


 プロ・チームも参加するオープンな国際大会へ出場した彼らは、アマチュア・チームとしては目覚ましい活躍を見せた。

 予選を勝ち抜き、本戦に出場すると、プロ・チームも含めた予選リーグも突破し、決勝トーナメントまで駒を進めた。

 残念ながら決勝トーナメントで敗退し、ベスト16という成績で終わったが、彼ら以外はすべてプロという中では十分な成績だった。

 そのニュースは彼の国でも大きく報道された。


 彼の活躍は、チームの中でも突出していた。

 すべてのプロ・チームは、若い才能を常に探しつづけている。彼に注目が集まるのは当然のことだった。

 プロになれる年齢に達すると、世界的に有名なチームからオファーが届いた。


 だが決して豊かとは言えない彼の国でビデオ・ゲームをプレイして生計を立てる、という考えはありえないことだった。

 今でこそ彼の活躍もあり、少しづつ認知されていってはいる。だが、他の国以上にプロ・ゲーマーには懐疑的な目を向けられることが多かった。


 早くからインターネットに触れていた彼の両親ですら、彼の才能を知りつつもプロを目指すという進路には反対だった。

 eスポーツなどという言葉も知らなかったのだから無理はない。


 しかし、彼がチームから提示された額は、国民の平均年収を遥かに上回るものだった。


 そして彼が若かったことも、決断するための助けとなった。

 もし失敗しても、まだ人生をやり直す余裕が持てる年齢だからだ。

 彼と彼の両親は書類にサインし、彼を快く送り出した。


「両親は当初、反対していました。一般的な企業に勤めて欲しいと思っていたようです。それは当然のことだと思います。ですが、チームと契約する前から、僕を全力でサポートしてくれたのは両親です。最終的には僕の決断を応戦してくれました」


 プロになりたてのころを振り返り、彼はこのように語った。


 クリスがチームに加入すると、チームはすぐに勝利を重ねるようになった。

 彼が一人入っただけで、明らかにチームは生まれ変わった。

 連勝記録を伸ばし、多くのトーナメントで上位の成績を残した。

 たった二年で世界大会で準優勝も果たした。


 その後、彼は初めて契約を更新した。

 その時の彼の収入は、国の上位5パーセントに入るほどになっていた。


「契約の更新にサインしたとき、初めて自分を認めてもらったような気がしたんです」


 プロは常に、結果が求められる。

 彼ほどのプレイヤーであっても、その重圧と戦い続けねばならないのだ。


「決して、楽な道ではないとだけは言っておきたいですね」


 彼に憧れ、彼を目指す若者はあとを絶たない。

 そんな若者に対する、彼からの厳しいアドバイスだ。


 彼の目のには、すでに頂点が見えている。

 しかし、彼のように新たな才能も出てくることだろう。

 その事に対し不安は無いか、尋ねてみた。


「今のところは無い……と言いたいところですが、一人だけ怖い選手がいますね」


 もちろん、誰か、という質問をしたが、その選手がまだプロではないことを理由に回答を断られた。


「しかし、いずれ出てくると思いますよ。誰かはすぐにわかるでしょう。なぜなら、その選手は日本に住む僕の従姉妹なので」


 彼は笑っていった。

 彼が恐れるほどの才能が極東にいる。

 次は日本がゲーム・チェンジャーとなるのだろうか。その日は決して遠くはないだろう。


 感想などお待ちしております。ちょっとしたことでも大変励みになります。誤字脱字などありましたらお気軽にお知らせください。助かります。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ